第4話 愛しのロケットランチャー

 北欧神話においてワルキューレとは、戦場で倒れた戦士の魂を大神オーディンの住まう天上のヴァルハラへと導く天使といったところだ。

 だが役割から考えると、死神と言っても良いのではないか。

 この地上の、いや海上のワルキューレ。彼女たちは正にその通りだった。


 ここ百年ほど他の都市空母との紛争は起きていないが、軍艦クラスの艦船で略奪を働く連中は引きも切らない。それらを撃退し制圧するのが彼女たちの役目だった。


 未冬が手にしたそれは、彼女の身長ほどの大型火器だった。

 新人たちの射撃練習の時間である。屋内演習場には大小の銃器がずらりと並べられていた。

「バズーカ砲、って言うんですよね、これ」

「とは言わないけれどもな」

 グロスター教官が半笑いで言った。

「型式名称はRZ105ランチャーだ。お前は体力が有りそうだから、それを使ってみろ。砲兵はいつも不足しているからな」

 見掛けよりは軽いが、常時携帯するには辛いかも。

「常に持ち歩けとは言っていない。有事の際だ、馬鹿者」


 片膝を突こうとするがスカートがタイト気味で邪魔だ。仕方なく太腿までまくり上げてうろ覚えの射撃姿勢をとる。

「発射っ!」

 未冬が叫ぶと、後ろで爆笑する声が上がった。

 模擬弾が高圧ガスと共に射出される。意外と反動がない。

 そして、それは一直線に的の中央を撃ち抜いた。自分でもびっくりだった。

「あ、あれ。当たっちゃいました」

 信じられない思いで大破した的を指さす。もしかしてわたし、天才。

 しかし教官の反応は冷淡だった。

「ああ、当たったな」

「え、えへ」

 教官の顔が険しくなった。

「お前、授業で何を聞いていた。あれはだろうが。的中たって当然だ」

 そうだった。レーザー誘導とか、何とかだとか習っていたのだった。

「まあ、だが初めてにしては上出来だ。その思い切りの良さといい、な」

 教官は未冬のまくれ上がったままのスカートを指さした。

 パンツまで見えていた。未冬は真っ赤になった。

 こんな格好で射撃訓練なんかさせるなよな、慌ててスカートを直しながら未冬はつぶやいた。


 次にランチャーを手にした少女が驚いた声で言った。

「教官。これ、誘導装置のスイッチが、入ってませんけど」


 教官に促され、次は小銃を構えてみる。

「もっと脇を締めろ。よし、撃て」

「はいっ。発射!」

「いちいち叫ばんでいい」

「でも、気分が……」

 教官に睨まれて、口をへの字に曲げる。

「じゃ、黙って撃ちます」

 10発、全弾撃ち尽くした。

 的の中心付近に一発だけ当たった痕がある。どうも小銃は使い勝手が悪いようだ。

「他は的にかすりもしていないのか。弾の無駄だな」

 だって素人なんだから、仕方ないでしょ。未冬は小さく呟く。

 しかし、的に近づいたグロスター教官は目を剥いた。 

「おい。お前は天才か?」

 

 未冬が放った弾丸は、すべて、ほぼ同じ所を撃ち抜いていた。







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