第一章 高校バスケット部、入部 一 入学式

 洋と別れた信子は、学校の駐車場へと向かった。入学式と卒業式の日は、運動場を駐車場代わりにする学校もあるが、この高校もそれは例外ではなかった。ただ、日頃専用として使っている駐車場もそれなりの広さはあった。信子がそこに車を停めたのは、比較的早く学校に着いて、教職員の誘導を受けたからだろう。


 一方、洋はと言うと、寄って行きたいところがあると言いながら、その足取りは何とも重かった。そうして行き着いた先はついさっきまで居た第一体育館であった。


 洋は正面入口ではなく体育館脇の非常口から中を覗いた。そこには最早(もはや)入学式の静寂(せいじゃく)はなく、ざわざわした中で、上級生が折り畳み椅子を畳んで収納キャスターに入れていた。見受ける生徒の学年章が全員Ⅱであることから、この学校では入学式の後片付けは二年生が受け持っているのだろう。


 折り畳み椅子が片付けられたところから、二人の生徒が一組になりシート巻取機を使って体育館シートを巻き取り始めた。


 グリーンシートの下からするすると体育館の床が現れてくる。樹脂の光沢(こうたく)と床材の木目が見事な調和を成して、本当に綺麗なフローリングだ。


 洋はその様子を突っ立ったまま、ただ漫然と眺めていた。


 と、その時であった。


「ザッ」


 と言う音が頭上で聞こえた。


 洋は思わず見上げた。


 ネットを揺らしたバスケットボールが今まさに落ちようとしていた。


 洋は落ちるボールを目で追った。


 ボールは床に落ち、何度か跳ねて転がって行った。

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