第四話:再会

 この魔法都市にきて二週間ほどになる。

 ギルドはもちろんレミアとも上手くやっている。一緒の宿を取って夜更けまでお話したり、お買い物に付き合ったり貰ったり。ご飯を食べたり近くを探索したりして、とにかく楽しい。

 もちろん配下達のことは気になってはいるけれど、こちらでの生活の方が断然刺激的なんだもの。落ち着いたら帰るから待ってて欲しい。


 そして今日もまた魔術師ギルドへ。中に入るとと落ち着かない様子のレミアの姿が見えた。


「あ、レミア。どうしたの? 何か困りごとかな?」

「おお、リュカちゃんいいところに来たね。ちょうど探してたんだ」


 どうぞとレミアに促されて近くの丸テーブルの椅子に腰掛ける。

 彼女は私の正面へと座ると口を開いた。


「ねえ、リュカちゃんはAAAランクだったよね?」

「うん、そうだけどぉ!」

「ふふ。良かった! えっとね……」


**


「――なるほど。最近知り合ったばかりの訳ありの冒険者がいると。……でもどうしてそれを私に? 他の人じゃいけないのかな?」

「それが……このギルドの術師の力を借りるにはまず『実力を示せ』って言われてしまったみたいでね」

「確かにギルド外の人には厳しいよね、ここ。変に事務的だし、何か変わってるもんね色んな意味で――」


 レミアは口を紡いだまま、受付の方へちらっと視線だけを送っている。


「……聞こえるよ? まあまあ、そこは一度置いといて。その人はある依頼の遂行を条件にされたみたいなんだ」

「もしかしてその依頼にはランク上の術師が必要ってこと……じゃないよね?」

「うん、そうなの! だからリュカちゃんにお願いしたいなって」

「そういうことね。まあ、いいけど」


 嬉しかったのか彼女は私の手をぎゅっと握ってきた。私としても喜んでもらえるなら悪い気なんてするわけがない。


「あ、でも一つだけ聞かせて!」

「何でもどうぞ」

「レミアはどうして、その人のためにそこまでできるの? 別に知り合いと言うわけでもないんでしょ?」

「何言ってるのリュカちゃん。困っている人を放ってはおけない。例え誰も振り向かなくても、わたしだけは見捨てたくないよ。……なんて。本当はわたしが手伝うことができれば良かったんだけどね」


 ふふふと小さく笑顔を見せるレミア。もし私が彼女だったらそうするだろうなと納得する。


「そういうことなら。ま、レミアのお願いだし、もともと断るつもりはないけど!」

「やった、本当にありがとう!」

「ふっふーん、任せてよ! ところで私はここで待ってればいいの?」

「うん、そろそろ到着する頃だとは思うんだけどね」


**


 レミアは落ち着かない様子で外へ出て行く。

 ほどなくしてギィ……と扉が開いた。多分この人がそうなのかな、レミアと誰かが一緒に入ってきたけど逆光で顔が見えない。二人は私のほうへ向かってきていた。


「リュカちゃんおまたせ。この人がさっき言ってた……」


 思わず立ち上がる。

 あ、あれ? ちょっとまって、どこかでこの人を見た。


「君が同行してくれるのか?」

「あ……は、はい!」

「それはありがたい。リュカと言ったか、よろしく頼む」


 値踏みをするような鋭く紅い眼光。少しも動かないその整った表情。落ち着き払った低い声。

 そうだ、この人とは私の城で会ったというか見たというか……来ていた。

 まさかの『勇者様』とこんなところで出会うなんて……!


「あ、あの。えっと……?」


 彼は何も言葉を発するわけでもなく、ただこちらを見ている。吸い込まれていくようなその瞳を見ていると、次第に顔中に熱が帯びるのを感じた。


「どうしたんですか? 二人とも見つめ合ったまま固まっちゃって」


 間に立ったレミアが不思議そうに私達の顔を覗き込んでいる。

 彼は「ああ、すまない」と言うとようやく視線を外してレミアと何か話している。

 私はまだドキドキしたままだ。

 どうやら話がまとまったみたいで再びこちらに視線を向ける。何か恥ずかしいので私は彼の喉元あたりを見ていた気がする。


「……失礼した。早速で悪いのだが、すぐにでもくだんの洞窟へと向かいたい。そちらはいつ頃から動けるだろうか?」

「あっ、えっと……今ちょうど進行中の依頼があってですね。あ、明日にはご一緒できると思います」

「では、明日の昼頃にここでまた落ち合うとしようか」

「は、はい!」


 その後カウンターで私は、いつものあの職員さんにつかまって色々とお話をする。けれど内容なんて覚えているわけがない。だって、あの方が、一緒に、同行してくださると言うんだよ!? やばい緊張してきた。

 レミア達はまだ何か話してるみたい。私は「じゃあ、また明日です」とだけ言って颯爽に静かにギルドから出る。パタンと扉が閉まる音に、ようやく落ち着きを取り戻す。私はちゃんと笑えていたのかな?

 そして誰も見ていないのを確認すると、大急ぎで全速力で依頼を終わらせにいくのだった。


 その日の夜。

 ――コンコン

 部屋のドアを小さく叩く音が聞こえる。


「リュカちゃんもう寝ちゃったかな? ……明日は頑張ってね、おやすみ」


 レミアの足音が遠ざかっていく。

 起きてますよ。寝られるわけがないですよ。

 ――ゴロゴロ

 どうしよう変なこと言っちゃったらどうしよう。

 ――――ゴロゴロゴロ。


 ひとまず落ち着こう。

 依頼の内容を聞いた限りで思い出してみる。

 様々なマジックアイテムの元となる魔法鉱石の発掘場所に、魔物が住み着いてしまった。その魔物は魔法への耐性が非常に高く、熟練の魔術師でもまったく歯が立たない。また鉱石の発掘場所の入り口には魔術師でないと開ける事のできない鍵が掛かっている。

 つまり魔術師を連れて鍵を開けてもらい、その中の魔物を魔法以外で倒せば良い。

 ――だったはず。ようは勇者様のサポートに徹すればいいわけだ。


 ちょっと落ち着いたら眠くなってきた。

 私ならやれる、私はやれる。私はやればできる子と言われた魔王だ――。

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