ネカマはマジで許さない

杜侍音

プロローグ

復讐の始まり


「明日はななみんとデートかぁ、へへへ」


 ついつい俺はパソコンの前でにやけてしまう。

 大学近くで下宿しているため、家に他の誰もいないことは分かっている。

 ただ、さすがに自分のニンマリ横顔がもう一つのモニター画面に映っていたのは気持ち悪いから、すぐに止めた。


 俺がやっていたのは、剣と魔法のファンタジー世界を舞台にしたオンラインゲーム。


 “ソード&マジックファンタジー”


──通称“SMF”だ。

 安易な名前でよくありそうだが、やはり王道は人気がある。今のオンラインゲームで一番プレイヤー数が多い。

 人気の理由の一つに、キャラカスタムの豊富さがある。

 多種多様なパーツはもちろん、色の自由さ、パーツ配置も自由自在。作れる数は無限大だ。


 そして俺は“二月の刑事”というアカウント名で登録している。本名が如月彗司きさらぎ けいじという所からとったのだ。

 自分とは似ても似つかぬ剣士のイケメンキャラを作り出し、ソロプレイでずっと活動していた。


 そう、活動していた。過去形だ。

 今はある女の子プレイヤーとタッグで活動している。それが“ななみん”だ。

 キャラカスタムは可愛い。でもそれだけじゃない。仕草やコメントがとても女の子らしいのだ。

 絵文字や顔文字で溢れている。


『ゴメンね(>人<;)! ママと一緒に料理作ってたからログイン遅れちゃった!」


 はい、かわいい!


 明日がそのななみんとの初のデートだ。いや、オフ会ではある。

 が、何が起こるかは分からない。一応男として準備はしていこう。勝負パンツを穿き、大切なゴムもしっかり持った。

 当日の朝に悩まないように、一張羅の洋服を既にスタンバイしている。

 いざ行かん! 俺の本気を見せてやる!


   ◇ ◇ 


 デート当日

 この日をダイジェストで表すならば、

 出会う

 ↓

 眠る

 ↓

 握られる


 だ。もう少し掘り下げる。

 改札口の前でななみんと待ち合わせだ。集合15分前にはいた。そして時間ピッタリに来たのは


「お待たせ〜! ななみんこと、牧原邦夫まきはらくにおです」


 男だ。しかもゴリッゴリの男だ。


「え、あ、如月彗司……です」

「あらかわいい。私のタイプだわぁ〜。じゃ、行きましょっか!」


 牧原に半ば強引に連れられて、バーへと連行される。女の子と二人きりなら雰囲気抜群のお店だったが、今回は男と二人きりだ。

 俺は気持ちを切り替えて、普通に友達として仲良くなろうと決意したその時だった。

 急な眠気に襲われて、その場で寝てしまった。



「──あら、おはよう」


 気付けば場所は変わっていた。

 俺は全裸でベッドに横になっている。


 え、


「何で全裸⁉︎」


 そこで鳴るシャッター音。

 牧原が俺の姿を携帯の写真で撮っていやがった。


「女の子だけじゃなくて、男の子も気をつけないといけないのよ。私みたいに男の子が好きな男もいるんだからさ……!」

「い、いやぁぁぁあ!!!!」

「いやん! 待ちなさい!」


 俺は服を持って、命からがらどうにか逃げ出すことが出来た。

 身体に違和感はないので、おそらく貞操は守れただろうが、こうして俺は弱味を握られてしまった。



「許せねぇ……俺をこんな目に合わせやがって! 復讐してやる、ネカマは全員駆逐してやる。ネットリテラシーとか知ったことか! ネカマはマジで許せねぇ!」


 自身もネカマになって、行動パターンを読み取り、同族としてネカマに近付きやすくする。

 弱味を握られたなら、握り返してやる。

 そして、いつか牧原邦夫。こいつには何十倍にも返してやる!

 あいつを見つけるためにはネカマは全て狩り尽くしてやる……!


 こうして俺の復讐劇が始まった。




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