6 訪問
翌日。通常通り登校した
昨日、
「昨日は大変でしたね。まさか君達が例の事件に巻き込まれることになるとは」
尋達の担任教師である
東端は現在三十歳。短髪のオールバックと切れ長の目、堅苦しい話し方からとっつきにくそうな印象を受けるが、実際には生徒思いかつ冗談も言える人気の教師だ。
「僕達が呼び出されたのは、事実関係の確認と聞きましたが?」
「先日は西高の女子生徒が行方不明となり、今回はその友人でもある
「もちろん俺らに話せることなら話しますけど、正直、警察から聞いた以上の情報なんてないと思いますよ」
「それでも構いません」
「では代表して僕が――」
契一郎が名乗りを上げ、昨日の件についての説明を始める。尋もときおり補足程度は口にしたが、契一郎の説明は実に分かりやすく、話しがスムーズに進むため、出番はそれ程多くはなかった。
「成程、だいたいの事情は分かりました」
話しの要点をまとめたメモ帳を、東端は静かに閉じる。
「君達も何となく察しているとは思いますが、生徒達には昨日の件はまだ内密にしておいてください。今の段階で生徒達に混乱を広げたくはないし、君達だって下手に注目されたくないでしょうからね」
「確かに、世里花や俺らに興味本位で話しを聞いてくる奴も出てきそうだしな」
自分達だけならまだしも、世里花のことはそっとしておいてあげたい。東端の意見には尋も賛成だった。
「それと
「放課後に少し、顔を出してこようかとは思ってますけど」
「でしたらその際に、授業のプリントやノートを届けてはくれませんか? 放課後にまとめてお渡しますので」
「いいですよ」
「せっかくだから、僕も一緒に行こうかな」
「おっと、もうすぐホームルームの時間ですね。お二人とも朝から呼び出してしまい申し訳ありませんでした。私からのお話しは以上ですので、教室に戻っても構いませんよ」
※※※
「世里花のやつ、ちゃんと休めてるかな」
「
放課後を迎え、尋と契一郎は世里花の家に向けて移動していた。世里花の家までは学校から一キロ程度で、徒歩でもそれ程時間はかからない。
雑談をしている間に家の前まで到着した。
家の近くには覆面パトカーと思われる車両が停車しており、運転席には昨日警察署から家まで送ってくれた
「こう言ったらなんだけど、見え見えだよな」
「むしろ見えるように警備しているんだよ。警察の存在をアピールすることが、犯人に対する抑止力にもなるからね」
「そういうものか?」
「犯人が正常な思考の持ち主ならまず手は出さないよね。もっとも、今回もそのパターンに当てはまるとは限らないけど」
「不吉なことを言うなよ」
尋は肩を竦めつつ、志藤家のインターホンへと手を伸ばす。
家を訪ねることは事前に伝えておいたので、インターホンを押すと直ぐに私服姿の世里花が玄関先までやって来た。
「世里花。先生に頼まれてプリントとノートを持って来たぞ」
「二人とも、わざわざありがとうね。学校はどうだった? やっぱり昨日の件が騒ぎになったりしているの?」
「いや、俺達に配慮して今の所は教員の間だけで話を留めてくれてるよ」
「そっか、少しだけ安心したよ。あっ、ごめんね、立ち話もなんだから上がってよ」
「それじゃ、お邪魔します」
「お邪魔します」
世里花に案内され、二人はリビングへと通される。
「思ったよりも元気そうで良かった」
昨日に比べれば世里花は顔色もよく、声にも張りが感じられる気がした。
「疲れが溜まってたみたいで、今日はお昼前まで寝ちゃったよ」
「それは何よりだ」
「明日からは学校にも行くつもり。ちょっと物々しい感じになっちゃうかもしれないから、気は引けるけどね」
「まあ気持ちは分かる」
それとなく警護するのだとは思うが、確かに警護を伴っての登校は落ち着かなそうである。
「ご両親は?」
「二人ともお仕事だよ。昨日の今日だしお母さんは仕事は休むって言ってくれたんだけど、あまり心配かけたくないから私の方から断ったの。警察の人も見守ってくれてるからって」
「そうだったんだ」
「けど、家に一人ってやっぱり寂しいから、二人が来てくれて嬉しいよ」
「おっ、いつもの世里花っぽい」
真由が失踪してから笑顔を失っていた世里花が久しぶりに微笑みを見せた。
世里花が心から笑えるように、今回の事件を無事に解決し、世里花と真由を再会させてやりたいと、尋は改めて強くそう思う。
「ごめん、お客様にお茶も出さずに」
「気にしなくてもいいぜ」
「そういうわけにはいかないよ。ちょっと用意してくる」
そう言うと世里花は、飲み物と茶菓子を用意するためにキッチンへと向かった。
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