全ては強欲な僕の掌

御劔 深夜

第1話 望んでしまえば手に入る。

 筆記音だけが聞こえる、全員の集中が目の前の紙に集中する時間――テスト。

これを好むやつはごく少数。

一般的には好まず、時には嫌悪する。好めばそれは一般的ではない。

それに加え僕は、あまり時間いっぱい見直すタイプでは無かった。

故に今、暇を持て余しているだ。余しまくっているのだ。

こういう時の僕の癖―――それは、いわゆる想像。

空想や妄想も含まれるが、理想や夢想、幻想は含まれない。


僕はありとあらゆる状況を想像し、その都度まったく別の世界を創造していた。

その世界の中でなら全てが許され、僕の思うがままになる。

人が幸福を感じる時として多いのが、物事が自分の思い通りになったとき。

おそらくこれは罪だ。人には七つの大罪があるというが、これは確かにその1つ、


『強欲』と呼ばれるものだった。


無ければ人として欠如していることになり、あり過ぎると罪とされ罰せられる境界線のよく分からないもの。

それが欲だ。


しかしそれなら人という生き物は有無を言わさず罪人だ。

なぜなら、世界の人々は全国共通、強欲だからだ。

金が欲しければ働くか

腹が減れば食品を買うか

それが恋愛だとしても、決して異性譲るなんて生易しいことはせず、

ただ、奪うのみ。

それが人として、生き物としての、当然のさがなのだ。


これはほんの一月くらい前のこと。

僕はこう想像した。新たな世界を創造し、空想した。


“もしテストが終わったとき、暇な時間を友達と共有出来たら”


そう願ったら、欲したら手に入れてしまった。

手に入ってしまった。


「『以心伝心コンタクト数多あまた美香みか


今はテスト中、万が一にもクラスメイトや先生に聞こえないように口を手で覆い、ため息にのせて小声でそう言った。


ここからは口ではなく、頭の中の会話だ。

現実にいる友人との。


「おお?遅かったな!そんなにテスト難しかった?」

「別にアタシは今回、割と簡単だと思ったけど」


この二人は数多と美香。

どちらも僕の友達。親友じゃない、友達。

僕の能力を知っているのもこの二人だけ。

数多は僕より、ガタイがいい。

太っているわけではなく、スポーツで。

野球で見事に鍛え上げられた身体をしていた。

美香のほうは数多に比べて華奢な印象を受ける。実際、華奢だし。

二人とも頭がいい。

ただ学力が高いわけじゃなく――学力も高いんだが、どちらかというとこの二人は、賢い。


「別に難しかったわけじゃないけど、なんかゆっくりやってたら遅くなった」


僕は『以心伝心コンタクト』が遅くなったわけを言った。

いつもは今日よりももっと早い。

ただ今日はやけに集中しにくかったせいか、15分ほど遅れたのだった。

すると美香が最近話題の事件について話し始めた。


「ねえ、知ってる?なんか最近、都会のほうとか大変らしいよ。どっかの高校でって」

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