第39話合わせ鏡の世界、平安京エ○リアン

 満月の夜―。


 異世界に来てみて…。


 異世界とは、てっきり空想上の魔物が徘徊する恐ろしい場所かと思いきや、その実、ただの鏡面世界なだけだった。


 昌樹たちは、満月の夜に合わせ鏡の中に現れたゲートを通って異世界へと足を踏み入れた。


 昌樹たち・・。異世界に足を踏み入れたのは、昌樹一人ではなかった。


「まさか、私が同行するハメになるとは。トホホ」

 嘆いているのは全身黄色一色の怪しい男性、Cツェー


「お前はまだ役に立つと思うよ。手足が伸びるんだし。しかし、コイツらは…」

 昌樹が懐疑的な視線を向ける相手は…。


 長身の外国人女性、エグリゴリのレイン。


 レインが見下ろしながら、昌樹に「何?文句でもあるの?」威圧的に訊ねてきた。


 この女はまだしも、彼女が抱えるエレメンツのNbナンブは目から強力なビームを発射する。


 それはそれで大変心強いのだが、まぐれでも掠るものならば、あの恐ろしい貫通力、タダでは済まない。


「勇者4人って、昔のRPGゲームかよ…」

 思わずこぼす。


「4人じゃないでしょう?さっさとAgエージーを出しなさいよ」

 恐ろしく地獄耳。さらに威圧的に命令までしてくる。


 言われるままとは、少々気に入らないけれど、警戒の目を増やす意味でもエイジを出しておいた方が無難だ。


 エイジを出した。


「大丈夫か?エイジ」


「ああ。マスターも大丈夫なら、俺も大丈夫だ」

 体力は問題無いようだ。一蓮托生という意味では、自身が体調不良を感じたら、エレメンツの体力が落ちてきていると判断して間違い無さそうだ。


 昌樹たちは周囲を見やる。


 それにしても。


 合わせ鏡の向こうは“鏡面世界”。普段見ている風景とは逆になっている。だけど、人っ子一人見当たらない。異様な風景だ。


 外灯も点いているし、住宅の窓からは屋内からの光も漏れている。なのに、そこには人の営みというものを全く感じない。静か過ぎる。


「隠れて」

 レインが指示したので、皆、建物の影に隠れた。


 住人がいた!


 だけど、それは人間ではなく。


 ぼんやりとした人影。


 光に照らされても、黒い影のまま。


 しかも、何故かしら皆、すり足で歩いているので、ズルズル音を立てながら歩いている。


 当然ながら性別など区別できないし、そもそも彼らに性別など存在するのか?



 しかし…南を向けば二条城。大政奉還が行われた場所だ。


 そんな場所の北側(*現二条公園)に霊脈があるとは驚きだ。


 霊脈とは、霊力がより集まる場所であり魔法儀式を行うのに最適な場所を差す。




 考えてみれば、霊脈だと言われても納得できる。


 この二条公園の北側にある鵺池ぬえいけとは。



 源頼政が鵺退治をした際に、鵺を射抜いた矢じりを鵺池で洗ったとされる。



 昌樹は思う。


 たぶん、頼政が退治した鵺なるバケモノは、きっと今いる異世界から現れたものなのだろうと。



 だから、油断はできない。


 おとぎ話に出てくるオオカミ男やヴァンパイアなどもそうかもしれないと思うと、どうしてかエイジの影に隠れてしまう。




「あの影みたいなモノは私たちの世界の人間が、この世界に影として映っているだけかも」

 レインが呟いた。


「なぜ、そう言い切れる?」

 昌樹は不安を隠せない上に、素直に信じる事すらできないでいた。



「仕草が人間そのものなのよね。ホラ、あの影」

 レインが指差した先にいる影は、路上から慌てた様子で公衆トイレへと駆けこんでいる。


「あの影、きっとタクシーの運転手がトイレに駆け込んだものよ」

 疑いが晴れない中、影はトイレから出てきて、水場で手を動かして、何やら体中あちこちを触った後、手をブンブンと振って、元の路上へと姿を消した。



 言われてみれば。



 トイレで用を足した後に、水場で手を洗ったものの、ハンカチを探すも無かったので手を振って水気を払い落して、元のタクシーへと戻った。そんなところか。



 ビクビクして損したぜ。


 昌樹は胸を張ってエイジの前を歩き始めた。



 と。



 ドサッと彼らの目の前に樹上から何かが落下してきた。


 闇夜に光る8つの目。



 思わず「デケぇ…」

 目の前に人のサイズもある大蜘蛛が姿を現した。


 しかも、口元だけ人間のように歯が並んでいる。気持ち悪い。


「向こうから獲物が来るのは珍しい」

 蜘蛛が喋った。



「本当だ」

 背後からの声。


 咄嗟に振り向くと。


 どこまで続いているのか?頭は大型犬ほどもある百足ムカデが這っている。


 よくよく考えたら。



 彼らは、昔の妖怪退治の話に登場する妖怪共ではないか。


 

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