第33話ピンチの男、救えない女

KEEP OUT 立入禁止 KEEP OUT 立入禁止  KEEP OUT 立入禁止 KEEP OUT 立入禁止


 円町駅は封鎖されたまま。


 何人たりとも立ち入りは許されない。


KEEP OUT 立入禁止 KEEP OUT 立入禁止  KEEP OUT 立入禁止 KEEP OUT 立入禁止


 駅舎入口のベンチに、両サイドを大柄の男に挟まれているアフロヘアーの男性の姿。



 男性を目にするなり、追風・静夜おって・静夜は「マッキー」傍目も気にせずに、大きく手を振って彼に呼びかける。



 アフロの男性、田中・昌樹たなか・まさきが彼女の声に気付くと、止めてくれと小さく手を振って見せた。


「?アレは追風先生じゃないか…。随分と手回しの良いコトだな」

 彼を挟んでいる男性の一人が昌樹に告げた。


 銀髪、赤眼の奇抜な出で立ち。そして何よりも、未だに刑事裁判で勝ち星を挙げていない静夜は京都府警では知らぬ者はいない。


「いや、違うよ。彼女も葬儀に参列していたんだよ。ホレ」

 捕捉する如く、自身の喪服の襟を立ててみせる。



「それにしても」

 昌樹を挟む男性たち。彼らは京都府警一課の刑事たち。


 昌樹は事情聴取を受けているのだった。



 鋼鉄のカマキリ=Feのフィーエがコインロッカーを漁り暴れ回り、それを止めるべく応戦の果て、若作りが過ぎる老婆が乱入。周囲を巻き込んで破壊の限りを尽くした。

 そして、まんまと老婆に悪魔のはことやらを持ち逃げされた。



 事実はそうなのであるが、とてもありのままを説明する訳にはいかない。



 結局のところ、強奪された匣については盗難届を出すことはできない。中身を説明してもホムンクルスという謎物体を理解してくれる警察官は皆無と断言できる。



 フィーエのマスター、スノーの姿もカリオストロの姿も、もはや此処には無い。


 被害者数不明の多数の遺体と、嵐が過ぎ去った跡のような凄惨な現場を残して。



「じゃあ、お前は彼らの事は何も知らないんだな?」

 現役の刑事さんが、これで何度目かと思える質問を繰り出した。


(俺も、昔はこんな事やっていたのかな…)

 もはや声に出して答える気力もなく、ただ頷いた。


KEEP OUT 立入禁止 KEEP OUT 立入禁止  KEEP OUT 立入禁止 KEEP OUT 立入禁止


 体をかがませて、静夜は立ち入り禁止のテープの下から昌樹たちを見やった。

 そして、スマホを操作。



 昌樹の体から、スマホのバイブ音が低く鳴り響く。


 スマホを取り出し相手を確認すると「出てもいいかい?」


 すると、刑事のひとりは静夜を見やると。


「直接は許可できんが、電話でなら構わんよ。ただし、ここで電話に出てもらう」



 え?


 表情に出す事は全力で阻止したものの、驚かずににいられなかった。



 この状況、静夜が口を滑らせてエレメンツや匣の事を、うっかり喋ってしまうかもしれない。



(あの先生、あの距離で俺の顔がハッキリと見えているのかな…?俺の表情で、置かれている立場を理解してくれるかな…)


 思い起こせば、静夜は書類に目を通す時・車を運転する時・新聞を読む時は必ず眼鏡をかけている。ついでに法廷でも常に眼鏡をかけている。



 しかし、今!


 彼女は眼鏡をかけていない。



(おそらく、アフロヘアーだけで、あの距離からオレだと判断しているに違いない)



「早く出ろよ。そんなに長くは待ってやれないからな」

 どうせ聞き耳立てるくせに、催促してきやがって。


 相手は目の前。切る訳にもいかない。


 昌樹は祈る思いで電話に出た。



「あっ、マッキー」

 電話から漏れ出る静夜の声に、両サイドを固める刑事たちが苦笑した。「マッキーて…」


 笑うな!ムッとして見せる。


「何ですか。先生。見ての通り、昔の同僚から事情聴取を受けているところですよ。急ぎの用事でなければ切りますよ」


 先手を打って、話を早々に切り上げる。が。


「ケガは無い?危ない目に遭ったんでしょう?」



 イヤな予感が的中。



 ケガもしてねぇのに、どうしてそれを言う?


 刑事ふたりが、ふたりの話を聞き逃さないよう、昌樹が手にするスマホに顔を寄せてくる。



 マズい…。



 アナタ…この状況でオレをピンチに陥れてどうする?

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