第2話-プロローグその2-:今度こそは大丈夫です

 アンデスィデ[en décider]

 それは白黒を付けるの意。


 ココミたちが行っている魔導書グリモワールチェスの特別ルールとして設けられている。


 テイクス(獲られた)された駒とテイクスした駒とが、本当に獲られたかどうか雌雄を決するために、チェスの駒それぞれに登録されているモンスターたちをモチーフにしたロボット、盤上戦騎ディザスターを召喚して戦うというもの。


 なのだが…。


 せっかく相手の駒を獲ったというのに、返り討ちに遭うリスクが発生しているのでは、ゲームとして成り立つのかどうか?いささか疑問である。

 何とも解せない。



 ココミが魔導書のページをめくった。

 と、横からクレハが覗き込む。

 

 それにしても、つくづく驚きの止まない本だ。

 本のページにチェス盤と駒が浮き出てきたかと思えば、別のページをめくればレーダー表示がされている。


「ルーティ、ヒューゴさん。そろそろ戦闘準備に入って下さい。あと2分ほどで会敵すると思われます」

 ココミは携える魔導書を通じて盤上戦騎ディザスター“ベルタ”に乗り込んだ二人に指示を送った。


 彼らのやり取りを眺めながら、クレハは軽率な行動を取ってしまった自身を悔やんだ。



 私が情に流されてベルタに乗り込むなんて言わなければ、タカサゴが乗り込む事は無かったのに…。


 この世界の人間をマスターに得なければ、彼ら盤上戦騎ディザスターは指一本動かすことすらできない。


 -動力源となる“魔力”の元となる、この世界の人間の“霊力”が必要ー。


 …なんて回りくどい機巧しくみなのだろう…。


 ただただそう思う。



 ベルタの各噴射口スラスターから強い光が放たれた。と、風を巻き上げて巨体が飛び立つ。


 その先にはクレハたちが通う天馬学府高等部の校舎が。

 校舎スレスレに、彼方へと飛び去ってゆく玉虫色の騎士…。


 タカサゴと一緒に乗り込んだルーティという女の子が操縦をしているとの事だが、あの子、ほとほと加減というものを知らないらしい。

 操縦が乱暴過ぎる。


「あのさ。アレ、もうちょっと、どうにかならない?」

 突然の巨大ロボの出現に今頃学園内は大騒ぎしていることだろうし、加えてあんな危険飛行は控えて欲しい。


「ん?」

 注意を促すも、ココミは言っている事を理解してくれているのだろうか?

 首を傾げている。ふっと笑みを浮かべて「心配ないでしょう」


 まあ、異世界から来た人にとってはどうでも良い事なんでしょうね…。

 実に簡単におっしゃって下さる。


 ふと空を見上げる。


 ベルタの姿はもう見えない。まき散らす光の粒も、もう見えない。


「タカサゴたち、大丈夫だよね?」

 抑えきれない不安からココミに訊ねた。


「ええ。今度こそは大丈夫です。何たって人が乗っている盤上戦騎ですから、簡単にやられたりしませんよ」


 イヤイヤ、そこはしっかりと“必ず勝ちますよ”と言ってちょうだいよ。


 さらなる不安を抱え込む事となった。


 …どうか無事でいて…。


 この祈りが届いてくれますように。



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