まさか!?シンデレラストーリーが現実にあるなんて本気で信じたんですか?

音無砂月

第1話

私の名前はダリア。ウッドリア国を初代王と一緒に建国したとされる四大公爵家の一つ。スチュワート公爵家の長女として生まれた。

母と同じ燃えるような赤い髪に翡翠の瞳を持って私は生まれた。母の名前はフローレンス。隣国エストレアから嫁いできた。母は元々病弱で、子供を産むこと自体が難しいとされていた。けれど、彼女は奇跡的に私を身籠った。そして、私が生まれてからは徐々に体は弱まっていき、ベッドから起き上がることも難しくなった。

そして、私が5歳の時、母は風邪をこじらせて死んだ。病的に白い肌。窪んだ眼。骨と皮だけの体。それが、私が記憶する母の最期の姿。

私を産んでから徐々に弱まっていく体。まるで、私が母から命を吸い取っているようだった。子供の私が思ったのだ。母と一緒に隣国から来た使用人がそれを感じないはずがない。

現に、母と一緒に来た使用人の私に対する扱いはあまり好意的というものではなかった。暴力こそ振られなかったけれど、私は空気のような存在だった。食事を運び忘れられることも何度かあった。

母が死んで直ぐに母と一緒にやって来た使用人は隣国へと帰っていった。そして、それを見計らったかのように父、マウロが女と少女を連れて来た。

女の名前はアンドレア。黒い髪と目。それに肉感の良い体をしており、前が大きく開いたドレスからは胸が零れそうだ。男の使用人がそこに釘付けになっているのが嫌でも分かる。

そして、アンドレアが連れて来た少女の名前はベティ。父と同じ茶色の髪に青い目をしている。可愛らしく、にっこりと私に微笑みかけてきた。

「ダリア、彼女はアンドレア。この子はベティ。私とアンドレアの子供だ」

そう言って嬉しそうに笑う父にアンドレアはねっとりと体を徐々に締め上げる蛇のような目で私を見てきた。

「ダリア、今日から彼女が君の母親だ」

父は母が居る時は毎日のように家に帰ってきて、母を見舞っていた。でも、仕事が残っているからと夜には邸を出て行っていた。

聞いた話によるとベティは4歳。私と一歳しか違わない。つまり、仕事と言って父は外で別の女と一緒に居たのだ。家に毎日帰ってきていたのは隣国の王女であった母のご機嫌伺の為。そこには何の情もなかったのだろう。

父は待っていた。母が死ぬのを。使用人が隣国へ帰っていくのを。それとも、父が母を殺したのだろうか。

私は憂いそうに微笑む父を見つめることしかできなかった。


◇◇◇


アンドレアとベティが来てから私の生活は騒々しくなった。

「うわーん」

邸中に大きなベティの声が響き渡る。それを聞きつけた使用人がベティをあやし、大切なオルゴールを抱えている私を申し訳なさそうに見つめる。

私が生まれる前から公爵家に勤めている使用人だ。

「何、何の騒ぎなの?」

「ベティ、どうした。そんな大声で泣いて」

父とアンドレアが直ぐに駆け付けた。きっと騒ぎを聞きつけた使用人の誰かが気を利かせて呼びに行ったのだろう。英断にも程遠い行いに感謝しなけばいけないだろうか。なんて心の中で皮肉るぐらいは許してほしい。どうせ、何もいないのだから。

「お、お姉さまが、ひっく。オ、オルゴールを、ひっく。か、かして、くれないの。わ、わたしもあれが欲しいのに」

ちょっと待って。貸すのと欲しいでは意味合いが異なるけど。欲しいってことはつまり、寄こせってことだよね。冗談じゃない。

「ダリア」

「お断りします」

父に先を言われる前に言うと、より一層ベティが大きな声を上げて泣いた。本当に騒々しい子だ。

「ねぇ、ダリア。急に私たちを家族と認めろって言うのは無理な話よね。あなたはお母様を亡くしたばかりだし。だから、あなたの心の整理がつくまでは私たちを受け入れなくても良いわ。でもね、あなたの妹になるベティに意地悪だけは止めてちょうだい」

優しく、諭すように言うアンドレア。でも、その目には怒りが込められていた。きっと父は気づいていない。こういうのは男よりも女の方が敏感だ。

「姉妹なんですもの。仲良くしてほしいわ」

ねっとりと絡みつくように言うアンドレアに私は悪寒がした。

「意地悪なんかしてません」

「じゃあ、そのオルゴールをベティにあげてもいいのではないかしら」

「・・・・これはお母様の形見です」

「あなたの母は私よ」

苛立つようにアンドレアが言う。

「私の母はフローレンスお母様ただ一人です」

「アンドレア、ベティと一緒に下がってもらえるか。少し二人で話がしたい」

「・・・・分かりましたわ。さぁ。おいで、ベティ。隣の部屋行きましょう」

不満顔ではあるけれど、アンドレアは父の言葉に大人しく従った。

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