第7話

「追ってきてますかケイさん」

「まだ来ないね。もうそろそろ180秒だけど」

 3人を乗せたビーグルは荒野を突っ走っていく。周りに被害が出ないように本道を通らず砂漠の中を進んでいる。あの衝撃波を発生させられただけでも乗用車やカーゴは横転するだろう。

「あと何秒くらいですかね」

「もう10秒を切ってるよ」

 ケイは腕時計の文字盤に目を向ける。マシンの発言からきっかり測って残り6秒。5、4、3、2、1。

「180秒経った」

 ケイは再び自分たちが来た方角に目を向けた。タキタはルームミラーで後方を伺う。と、後方で砂煙が上がり始めた。明らかに何かがこちらに近づいている。それもものすごい速度だ。

「マシンが来たね」

「クソう。やっぱり来るんですね。迎撃お願いしますよケイさん」

「言われなくても」

 マシンは戦闘機以上の速度でケイたちに向かって走っていた。ケイには見えた。マシンはジェット推進でもなく、術式による加速でもなくただ純粋な脚力のみで地上を音速以上の速度で走っているのだ。

「どういう構造してるんだろうね」

 ケイは舌打ちをする。地上をマッハの速度で突っ走るマシンなんて聞いたことがない。ケイはこの相手の出処についていくつか予想はしていたがそのことごとくが目前の光景によって打ち消された。そして、そんなことを考えている余裕もなかった。

 マシンが一瞬でビーグルにまで迫った。

「うざいんだよ」

 ケイは屋根から飛び出しマシンに蹴りかかった。しかし、マシンはそれをかわした。

(む、さっきより反応が良くなってる)

 ケイは蹴りに使った足を翻し、今度はマシンの首に絡めた。そしてそのまま体を捻りマシンを地面に叩きつける。

「うわわわ!」

 タキタは叫ぶ。音速で移動していた物体がそのまま体勢を崩し、地面に激突したのだ。大きな衝撃が発生し砂の大地が派手に吹き飛ぶ。タキタはハンドルをたくみに操り崩れた車を制御する。その横をマシンとそれに関節を決めているケイが地面をえぐり取りながら通り過ぎていった。



「クソ! 全然効いてない」

 ケイはどれだけ力を加えても関節がびくともしないのを見るや、上からマシンに蹴りや拳を雨あられのようにお見舞いしたがどれもマシンに傷一つ付けられなかった。ケイは最後にもう一発思い切り蹴りをぶち込み一旦距離を取った。マシンはそのまま転がっていく。ケイはそれを追う。

「どうしたもんかな」

 マシンはものすごい速度で転がっていくがそれに付いていくケイも相当のものだ。黒翼によって強化された肉体の成せる技だった。しかし、マシンのように音速で走るまではいかない。

『戦闘状態。戦闘状態。障害の攻撃を確認。損傷は無し』

 マシンはそう言うとクルリと体を捻り体勢を立て直した。

「ちっ。やっぱ傷一つないか。スペースシップのドリフトポッドより頑丈なんじゃないのこいつ」

 ケイは歯噛みする。今の所優勢なのはケイの方だ。ただ、それは攻撃の応酬においてケイが優位に立っているに過ぎない。どれだけ攻撃をかわせようと当てれようとダメージそのものが通らなくてはなんの意味もないのだ。それが意味するのは『倒せない』ということなのだから。

『目標との距離300m。なおも移動中。優先順位を確認。優先順位を確定。障害との戦闘を除外、目標の追跡を再開します』

 そう言うとマシンはまた音速で走り出した。衝撃波が荒野の地面をはぐり取る。しかし、ケイはそんなことおかましなしでマシンの動きを先読みしその腕を掴んだ。また地面に叩きつける。そして、ケイは最も強度の低そうな部位、頭部の4つのレンズにを思い切り踏みつける。しかし、マシンはそれをかわした。マシンはそのまま膝蹴りを放つが今度はケイがそれをかわす。マシンは跳ね起きてケイと距離をとった。

(これだよ。まだまだてんでなってないけど、明らかにさっきより反応とか戦い方のレベルが上がってる。学習能力かなんかなのかな)

 マシンは始めただ飛びかかって見え見えのパンチやら蹴りやらを放つだけだった。そして、ケイの攻撃をかわすことさえ出来なかった。しかし、今は違った。ケイの攻撃を読んでかわし、流れを作って反撃、その後に距離を取ったのだ。さきほどよりも戦いになっている。

(長引いたら面倒かな。どうもまだ全然本気じゃないみたいだね)

 ケイはマシンを見つめる。マシンもケイを見ていた。

『障害の攻撃が継続。目標の追跡が困難。状況の確認を行います』

 マシンは言う。

(さて、どうしたもんかな。一番理想なのはこいつをここで倒すことだけど、次点でタキタとニールを空挺に乗せて飛ばすってとこか)

 ケイははっきり言ったら空港の軍には期待していなかった。そもそもあの特級が本物であるという気もしていなかった。スミスとの長年の付き合いの傾向から考えた場合そうとしか思えないのだった。

(あのおっさんが『お人好し』を発揮した依頼がまともだったことなんて今まで一度もないんだよね)

 ケイはニールが喫茶店で自分の目的を吐露した時点でもう大体予想していたのだ。

(まぁ、特級がないとはいえこんなやつが空港に押し入ったら軍は動くだろうけど、多分こいつに傷を付けれる装備はあそこに無い。だったらここで引き止めて二人を空に逃がせば多分こいつは追えない。そうなった後はどうなるか分かんない。けどそもそもこんなやつ一運び屋が責任を負って戦う相手じゃないから後は軍に丸投げで良いか。なら、時間稼ぎが最善かな)

 方針を確認しケイは改めて戦闘状態に入る。相手を観察。少しでもダメージを与えられそうな部位、レンズを狙う。先程マシンはそこへの攻撃をかわした。それが弱点だからなのかは分からないが狙う価値はあるだろう。

『状況把握。障害の殲滅を第一順位に。オービタルフレームを解放。コントロールユニットを起動。攻撃を開始します』

 マシンがそう言った時だった。その周囲の砂が渦を成してマシンの周りを回り始めた。

『変換、変換、変換』

 マシンが言葉を繰り返す。すると、舞い上がった砂が青白く発光した。そして、それは巨大な鉄塊へと姿を変えていった。およそ8m。それは板状で、それは巨大な刃だった。

「なんだろうねこいつは」

 ケイは漏らした。額には冷や汗が滲んでいる。こんな芸当を目にするのは初めてだった。

 そして、マシンはそのまま刃を砂から精製し続けマシンの周りに巨大な刃が8本。まるで翼の様に展開された。

『ブレイド展開完了。戦闘を開始します』

 マシンはそして、そのままケイに襲いかかる。

「ああもう! しっちゃかめっちゃかだねまったく!」

 ケイは叫び、応戦した。

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