初めての訪問者

 洗い物の手を止めず、頭に伝わってくる声に意識を集中させる……前に勇者の声が聞こえた。

 

 『こっちは準備万端! 石田さんは洗い物したらOK?』


やけに楽しそうな声音なので「おら、ワクワクすっぞ!」なんて有名な台詞が頭によぎった。ってか待て、なんで洗い物してるのわかるの? チート? それもチート能力なのか?!


 『残念、はずれ! まあチート使ってもわかるけどね? やはり貧乳こそ至高!! 思う存分ガン見出来るって素晴らしい!!!』


 おいいいいいいいいいいいい!!!!!! 勇者、貴様居るのか?! ここに!!??


 即、厨房内の周りを見渡したけど食器を戸棚に仕舞っているバイスしか居ない。あ、目があった。顰めっ面して「サボってねーで手を動かせ」とお小言を頂きました。今回は反論できません。素直に洗い物作業を再開。


 『あはは、怒られた。中には居ないよ~、正解は見えない様にして外から窓覗いてガン見に勤しんでいます』


 いい加減、胸ネタから離れて下さい。お願いします、そろそろ暴れますから。


 『…………こっち来る前にまとめ覗いて来たらアッチでも混乱してた。レッスのネタが少な過ぎて全然まとまってない感じ。警戒しろ、だって』


 てか妙な間が気になるけど……


 『気にしたら負けだ』


 ですよね!


 それから洗い物が終わるまでレッスの事について話し合った。私の持っている少ない情報とまだ会って数日の勇者との情報を交え、憶測し対策を練った。


 その結果は「なんかあったら勇者callする」で終了した。


 途中までは真面目だったんです、すみません。終わりの見えない議論に根を上げたのは私です。ぶっちゃけレッスが会いに来るのは決まってんだからその時に聞けばいいじゃん! って私の発言に難色を示したのは勇者だった。やはり彼は心配性である。


 気楽に構える事が出来たのはレッスと同時に勇者もまた同じ街にいるという安心があるからだと思う。だけど昼間考えた対策は守る。全部勇者任せではあいつ等と同じになってしまう。まあ多少でも違う結果になるだろう事を願う。


 細々とした仕事をしていたらご主人が来て、今日の仕事上がりを伝えてくれた。流石に満室でお風呂が込み合ってるから、空くまで待ってから入ってと付け足された。頷いてご主人にお礼を言い、勇者に一先ず自室に行くことを伝える。


 返ってきた返事は「着いたら窓開けて」だった。


 夜に女性の部屋を訪ねるってか上がるもんじゃないとおばちゃん言いたい。

 あ、おばちゃんだからいいのか。


 自室に着き、まずドア鍵。それから窓に向かう。さっきから「はやく~はやく~」と催促が煩い勇者を黙らせる為に窓を全開にして、数歩下がる。


 「はい到着。窓閉めて、カーテンもお忘れなく~」


 頭でなく直接耳に聞こえた、声。

 特に何か変わった様子はないのに、彼が訪れた事を明確に知らしてくれた。


 今度は間近で聞こえ始めた催促に私は慌てて窓に近付き、窓とカーテンを閉める。


 振り返るとそこには



 私と同じ、日本人が居た。




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