第37話 ドロドロです



「お久しぶりです、キトリ嬢」




 困ったように微笑むクリス様を見上げ、にぱっと笑うキトリ様。まだ社交界デビューをしていない私達のような令嬢は、親同士の付き合い以外の場で顔を合わせることは滅多にありませんから、キトリ様というご令嬢が一体何処の家の方なのか把握出来ておりません。キトリ、という名前は多いですし、姿絵も手に入っていませんしね。




「クリス様、中々わたくしに会いに来て下さらなかったんですもの。キトリ、寂しゅうございましたわ……?」




 ………う、わー……。


 上目遣いのキトリ様を見て、私は目が死にました。視線が絶対零度だと自覚しています。ふわふわのストロベリーブロンドに、金色の大きな瞳を持つ背の小さなキトリ様は、それはそれは庇護欲をそそり、可愛らしいとは思いますが……。




「キトリ嬢………」


「嫌ですわ、クリス様。ティリと愛称で呼んで下さいな」


「…………」




 おいよいよいよい。クリス様困惑していますよ。そんなグイグイ普通に行きますか?距離が近すぎではありませんか?


 私は胸に募る不快感をしまい込み、クリス様に話しかけました。




「クリス様、この方は………」


「あぁ、彼女はキトリ=ガランサス嬢。ガランサス子爵家のご令嬢ですよ」


「御機嫌よう、ウェリス様。キトリ=ガランサスと申しますわ!どうしましょう、わたくしなんかがウェリス侯爵家の方の前にいるなんて……!」




 と、言いながら、キトリ様はクリス様の胸にもたれ掛かりました。クリス様には見えない絶妙な角度で優越感に浸っているキトリ様に、私はふつふつと怒りが込み上げてきます。


 私はいつからこんなに我儘になってしまったのでしょうか。




「ご機嫌よう。。ジゼル=ウェリスです。是非お友達になって下さると嬉しいわ?」




「ありがとうございます!是非、、よろしくお願いします!」






 そう言って、キトリ様はクリス様をチラリ見上げました。

 つまり、キトリ様は「クリス様と結婚するのは私だから、貴方は何処かの家に嫁ぐ事になるわよ?」と仰ったのです。


 クリス様はやんわりとキトリ様から身体を離し、私の手を取りました。




「ガランサス家はレヴィロ家の分家なので、昔から仲が良いのですよ」




 知っています。知っているけど――――。




「ティリ!!!!」




 不意に後ろからキトリ様を呼ぶ声が聞こえたので振り返ると、そこには鬼の形相のユリウス様が立っていました。ユリウス様とイリーナを重ねてしまったのは内緒です。




「あら、ユーリ。いたの」


「いたの、では無い!!クリストファー様にご迷惑をお掛けするなと何度言ったら分かるんだ!!」




 クリス様の目の前ですが、キトリ様は完全に化けの皮が剥がれています。いいのでしょうか。




「2人は婚約しているんですよ」




 コソッとクリス様は私に耳打ちをします。

 キトリ様とユリウス様は婚約者同士で、キトリ様はクリス様が好き。また……ユリウス様もキトリ様に好意を寄せているのでしょう。そして、ユリウス様はクリス様に絶対的忠誠を誓っているようですから、なかなかドロドロな関係性ですね。




 ………ん?


 という事は……?


 私は……?










 巻き込まれているじゃないですかぁぁぁああああ!!!!!






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