第22詠唱 戦の鐘

― 第四地区駐屯地・会議室


 アリスとアイラは、元一地区機動隊部隊代表のカラリアと第二地区機動隊部隊代表のリーダーの二人に呼ばれてリリィに関する報告会議をしていた。


「なるほどなぁ、でも結衣も私がアシュリーの事を聞いたが何も知らなかったしなぁ」


 ドミニカは首をかしげながら人差し指でポリポリと頭を掻く。


「リリィと一緒で自分でも忘れてるかもしれないしこっちに渡せば絶対に情報を引き出す、見た感じ目元や鼻の形がアシュリーに似てるし本当に子供の可能性が有る」

「断る、この写真みたいに結衣も拷問するつもりか?」


 全裸で倒れてるリリィの写真をカラリアに見せる。


「だが今は覚者、いやこの世に魔法という存在が無くなる危機になってるんだ!しょうがない事だろ?」

「危機だからって幼い子供も殺していいとでも?」

「お前は子供一人の命と数千万の命どっちが大事だと思ってるんだ!」


 頭に血が上ったカラリアはテーブルを叩くと、自分が映し出されているホログラムにザザッとノイズが掛かる。


「たとえ結衣が情報を得る近道だとしても認められない、もっと他に方法があるはずだ」


 するとアリスが「あ、あのぉ......」とスススと小さく手をあげた。


「なんだ?アリス、この中で最年少だからって遠慮はいらないぞ好きなタイミングで言いな」

「じゃ、じゃあ......提案なんですがリリィさんとアシュリーさんがともに住んでいたというお家に行くのはどうでしょうか」

「確かにアリだな、だが家に行くとして場所が分からないんじゃしょうがないだろ」

「アロイジア・バルテンなら分かる、彼女を含める小隊をそっちで組んで向こうの世界に行けば良いんじゃn......」


 誰かか来たのかカラリアは「すまない」とホログラムが消える、マイクが切られていないのか「何?」や「どういう事だ」など途切れ途切れで話声が聞こえてきた。しばらくして会話が終わったのか再びホログラムが映り「ちょっとこれを見てほしい」という。


「嘘だろ?でもアリスはココに」


 アイラは送られてきたファックスを読むと信じられないのかアリスの方を何度も見る。


「もう猿芝居(さるしばい)はいい正直に言ってくれ、リリィの事といい結衣を逃がした事といいアイラはそこにいるアシュリーと手を組んでるんだろ?」

「私はこんなこと知らなかった!本当だ!」

「アシュリーは自分の正体をばれたから逃げたようだな」

「何?」


 アイラは隣を見たが確かに居なかった。すると「ふふふ、ココよ」と耳元から囁く声が聞こえ後ろを振り返ろうとするとうなじに魔法の杖の先を突き付けられる


「今から私の言う言葉を言いなさい」

「断る!私はお前なんかの味方にならない」


 するとカラリアは「まぁ二人とも覚悟しとくことだな」とだけ残してホログラムが消える。


「だってさ、ふふふ~これは第二地区と第四地区の戦争になるわね」

「だから共闘を組めと?お前正気か?」

「それは今の状況を見て決める事ね」


 悪戯っぽく笑い、つま先で地面をコツコツと3回蹴ると四地区の白衣を着た覚者が姿を現した。


「姿消し魔法か......」


 自分に剣や銃を向ける覚者達を見る

 

「ふふふ、どう?第四地区の覚者はほとんど私の手先なのよ?逃げられると思う?」

「そりゃ困ったな」

(目に光が無い、操られてるのか?まぁなんにせよこの状況はマズイな今はしたがっとくか)

「で?どうなの?」


 アイラは「分かった、お前の命令を聞く」と両手を上にあげると、アシュリーはうなじから押し当てていた杖先を離した。


「あなた達は薬を使わないであ・げ・る」

「やっぱり操られてたんだな」

「ふふふ~」

「魔法少女と言うよりただの魔女だな」

「何とでも言いなさい、そんな事よりあなた達第五地区は結衣を今日中に探しに行きなさい、妖精は10匹貸してあげるわ」

「お前はどうするんだ?」

「ココを守るに決まってるでしょ?」

「そうかい戻る時には死んでる事を願ってるよ」


 アイラが背を向けて歩き出すと「私が死ぬ?ありえないわね」と笑いながら一緒に歩き始める。


(私を野放しにするなんて何を考えてるんだ)

 

 アイラは表情を一切変えないアシュリーが何考えているのか分からず考えれば考えるほど緊張と恐怖が心を支配していき、呼吸もまともに出来なくなる。


(とりあえず結衣を探しに行こう、深く考えたら生きた心地がしなくなる)


 外に出るとアイラは直ぐに箒にまたがり四地区に居る元五地区の機動隊員を集め、結衣を探しに行った。


 その背中を子供を見送る母親の様にアシュリーは手を振りながら見送り、魔導機動隊の物とは形の違うトランシーバーを握る。


「しもしも~私よ、幸福の壺の設置は出来た?、そう、うふふ、じゃあ第二ハザード開始しちゃって」


 アシュリーの考えていた様にカラリアはすでに第二地区に居る全ての機動隊員を武装させて駐屯地にあるグラウンドに集めていた。


「集まってるな」


 ワインが入ったグラスをもって整列した幾人(いくにん)も及ぶ機動隊員を見渡す。


「皆!この長い悪夢が遂に終わるぞ!私はこの瞬間を待っていた、始まりはゲートの事件からだった、姉妹たちが何人殺されたことか」


 舞台の上で話すカラリアの後ろには、アシュリーの事件で死んだ機動隊員達の印影写真が飾られていた。


「アシュリーのほかに五地区と四地区が敵になったが何が何でも殺せ!同じ機動隊だとしても、アシュリーの手に落ちた裏切り者だ、アシュリー共々殺せ!足が付いている限り命を燃やして走り続けろ!この先、魔法少女が生存できるかは私たちにかかっているんだ!腕を捥(も)がれても抗(あらが)い続けろ!私はお前たち姉妹を信じている、だからお前たちも私を信じて戦ってくれ!魔法少女は永遠だー!」


 持っているワイングラスを高々と掲げると、周りも「おー!」と叫んでグラスをあげてカラリアと同時に一気に飲み干す。


「姉妹たち、またここに戻って来るぞ!」


 グラスを地面に叩き付けて割ると周りも一斉にグラスをわり、魔法の箒を出して次々と第四地区に向かって飛んで行った。


「ルイズ、今までありがとう」

「カラリアさんまだそのセリフは早いですよ、絶対ココに帰りましょう」


♢ ♦ ♢ ♦ ♢ ♦


「う、うぅ......ココは?」


 結衣は目を覚ますと上半身を起こし、ズキズキと痛む頭を押さえながら部屋の中を見渡す。


(壁を隠す様に置かれた天井まである本棚にオレンジ色に薄暗く灯るシャンデリア、床には独特な魔法陣……ココはドロテアさんのお店)


 するとドアが開き、ベティが「あら、起きましたか、お体の具合はそうですか?」と蚊のような声で言い近寄って薬の入った透明なコップを渡す。


(あれ?この人どこかで、確か敵同士だった様な~気のせいかなぁ)

「私はなんでココに?」

「結衣さんは第五地区の大通りで倒れていたんですよ、それをたまたま見つけた私がこのお店に」

「なんで私の名前を?」

「私は貴方が小さいころ良くお世話をしていましたので」


 これは事実でアシュリーとは機動隊に入る前からの仲だった為、分かれるまで忙しい時は結衣もリリィもお世話をしていたのだ。


「そうだったんですか」

「その薬は私の師匠が作ってくれた魔力が復活する薬です、っと話をすればなんとやら」


 結衣が顔をシワシワにしながら苦い薬を飲んでいると、ドアが開き「元気そうだな結衣」と不機嫌そうな声が聞こえてくる、もちろん声の主はドロテアだった。


「お久しぶりですドロテアさん」


 ドロテアが持つ、拳ほどある紫水晶の欠片が入ったネットに「なんですそれ」と結衣は首をかしげる。


「まぁ今から見せる、そこをどきな」


 シッシッと魔法陣の中央に座る結衣をどかして、持っていたネットの中から水晶を取り出すと魔法陣の円の周りに全て置いた。


「ドロテアさんは何をしているんですか?」


 隣に座るベティに聞く


「人を探す為の占いの準備ですよ、この方法は魔女達に伝わる伝統的なものなんです」

「ふーん」

「ほら準備出来たぞベティ」

「あ、ありがとうございます」


 ベティは魔法陣の前で正座すると静かに深呼吸を3回する。その瞬間ふしぎと部屋の中の空気が変わった感じがして結衣は固唾をのむ。


「妖精たちよ、リコリス オストランの居場所を教えよ」


 そう言うとそっと手を前にかざし呪文の様なものを唱え始める。すると徐々に紫水晶が光りと始めてふわりと魔法陣の中心につむじ風が起こる。


「ねぇ、つむじ風が大きくなって来てるんだけどこの部屋壊れない?大丈夫?」

「この家は内側と外側に防御魔法が掛かっているから大丈夫だ、でも......」


 つむじ風から竜巻になりバリバリバリと電気を纏い、本棚に引き詰められていた本が飛び出して全て巻き込まれる。


「さあ私を導きなさい」


 目をカッと開くと竜巻の間が楕円上に割れて、そこからリリィ達が戦っている風景が現れる。


「お姉ちゃん?もう一人の鎧をきた人はどこかで......」


 どこかで見たことのある顔に思い出そうと思わずム~と唸る


「なるほど、第二地区ですか」

「だがそこは荒れているぞ?しかもニ日もしないうちに災害も起きる、今は出ない方が良いぞ?」

「し、しかし今行かなきゃあの子が」


 ドロテアは呆れたようにため息を吐く


「すっとこどっこいが、その子は災害が起きる前に必ずワシの店に来るから安心せい」

「師匠がいうなら......」

「結衣も外に決して出るんじゃないぞ」


 結衣はコクコクと頷く


「さてと、客を泊まらせる支度をするかな~」


 ドロテガは「めんどくさいめんどくさい」とぼやいて肩を叩きながら部屋を出ていく。


「私もお手伝いをしましょう」


 その時だった、感じたことのある魔力が徐々に近づいてくるのを感じた結衣は立ち上がるとそっちの方を向く。


「どうしたんですか?」

「来る!アイラたちが!」

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