第11詠唱 叶わぬ理想 (前編)

「お怪我の方は大丈夫ですか?リリィさん」

「あ、大丈夫です治ったみたいです」


 不思議と服がでボロボロになっているだけで、さっきまでの傷がうその様に跡を残さず消えていた。


「それにしてもここは......」

「廃教会のようですね」


 初めに石を使った健二の家ではなく、二人は廃教会の場所に戻って来た。どうやら戻る場所はランダムらしい。するとガサッとフクロウがなく静かな夜空に足音が響き渡った。


「ヒィッ!」


 リリィは驚いて反射的にベティの後ろに隠れる。


「大丈夫ですよ、この魔力の感じはドーラでしょう」

「ほ、ほんとお?」


 すると「お化けなわけがないでしょ?」と教会の後ろからドーラが出てくる。


「久しぶりねベティ」


 暗闇のせいでちゃんと見えなかったのか、ベティに近づいてから驚いた顔をし、まじまじと顔をみる。


「ど、どうしたんですか?」

「いや......あんた整形でもしてるの?凄く若く見えるけど」

「へ?違いまよ」


そういうと「じゃあなに?なんか健康法とかあるの?」とやけに興味津々に顔を近づける。


「ゆ、ユニコーンの血を飲んでるだけですよ、その他は特に」


そういうと「あ、ユニコーンね…あ、そうね、そういえばそんな生き物もいたわね、ここの生活が長かったせいか忘れてたわ」と顔を赤くしてアハハと笑って誤魔化す。


「リリィちゃんありがとうね、無事戻ってきてくれて良かったわ」


ポンポンとリリィの頭を撫でる。


「それにしても服は血まみれなのに体は綺麗ねぇ......」

「ドーラさん」


ベティは呼ぶと何やらリリィには聞こえないように耳元で何かを話すると、ドーラは「あぁ薄々思ってたけどやっぱり」と小さい声で言い少し表情が曇った。


「どうかしたんですか?」


首を傾げて二人に聞くと「いや、なんでもないわ!」とドーラは笑顔でブンブンと顔を横に振る。


「もう遅いから解散しましょ!リリィちゃんはお家に入る時にこれを吹きかけるのよ」


 綺麗な形をしたスプレーの小瓶を渡す。


「これは?」

「これは吹きかけたらなんでも綺麗にするスプレーなの、布にかければ破けた場所が治ったり汚れが落ちたりするの、皮膚にかけ手も同じで汚れが落ちる効果があるのよ、でも外見だけ綺麗にするだけだから治癒能力とかは無いから注意よ」

「分かりました!ありがとうございます!」


 大事そうに両手で持ち帰ろうと背中見せると「「そうそう!」」と何かを思い出したのかドーラとベティの声が後頭部にあたる。


「あんたも?」

「ど、ドーラさんから先に良いですよ」


「そう?」とドーラはポケットから“渡せ”と言われた手紙を取り出すと、ベティは「それは!」っと見てはいけないものを見たかのように驚いていた。

二人がベティの方を見ると「い、いやなんでもないです......」と何かを隠すように身振り手振りして言うと持っていた一通を後ろで別の一通変える。リリィは見逃さなかったが、特に聞きはせずにドーラの方を向く。


「コレお母さんから貴方にって」

「え?お母さん?」

「あ......」


 「帰ってから開けてね」と言おうとしたがポケットから出した瞬間に、リリィに取られる。リリィはお母さんからの手紙と聞いた瞬間笑顔になったが、血まみれの便箋(びんせん)を見た瞬間真顔に戻る。無言で封を開けて手紙を開けて手が手紙をみると、そこには今にも途切れそうなヨロヨロとした文字で綴(つづ)られた右下がりの文が目に入る。それだけで、何が書いてあるのかが大体予想がつくが、リリィは信じたくないのか、記憶する程何回も読み直す。


「ドーラさん、手紙ありがとうございます!」


 手紙をしまい笑顔で言うが口元が震えていて、泣くのを我慢しているのをドーラとイザベルは直ぐに分かった。


「リリィさん......


 ベティもアシュリーに渡す様に言われたまったく同じ内容の手紙を渡そうとしたが、リリィの唇を噛みしめて笑う表情に気が引けて渡すのやめた。


 リリィも今の手紙で頭の中が真っ白のかベティからの手紙を忘れて二人に背中を向けると、トボトボと帰っていった。


「リリィちゃn」


 ベティは、呼び止めようとするドーラの肩に手を置いて止める。

リリィの姿が闇に溶け込み見えなくなってから数分、沈黙が流れるがドーラから話を切り出した。


「すり替える前の手紙、あれはなんなの?」

「す、数十年前アシュリーがリリィ宛に本心で書いた手紙です」

「そうなんだ」

「でも、あの手紙を信じてしまったらこの手紙は必要じゃなくなりますね」


ポケットから綺麗な桜色の便箋を取り出す。


「そうかしら?いつか渡す日が必ずくるわよ」

「なぜそう言い切れるんです?」


ドーラは夜空に浮かぶ星空を眺めながら「あの子じゃリリィをすぐに仕留めることはできないからよ」と言うとベティは「確かにリリィには…」とにこりと笑う。


* * * *


「まぁ仕方ないよね......自分でも大体分かってた事だし、今更」


いつもは怖がって走って行く灯(あかり)が一つもない山道も、その時は手紙の内容で頭がいっぱいになり何も感じなかった。


 森を抜けて月光に照らされ星空の様にキラキラと光る深い紺色の海が見えると、なんとなく砂浜を歩くことにした。


「長い間会ってなかったんだ......」


健二に初めて名前を貰った時に座っていたベンチを見つけると、足を止め健二が座っていた場所を撫でる。


すると、心なしか温もりを感じ心が落ち落ち着く。


「そうだ私は一人じゃない、パパが居るんだ」


 そう思うと早く帰りたくなり、走って家に向かった。

家のドアのすぐ近くまで着くと、深夜にもかかわらず高く内気なのかボソボソとした女性の声が塀(へい)の影から聞こえてくる。


「ええ分かってる、たった数日だから平気だよ......ええ私の代わりに別の人が直ぐに来るからいい子にするんだよ......ど、大丈夫」

(誰と話してるんだろう)


 そんな事を思いながら塀の中に入りドーラに言われた通り、家に入る前にスプレーを服に吹きかける。ふんわりと花の甘い香りがして、服の破けた所をじわじわと修復した。


「キレ~」


 次に体、全身に吹きかけるとジンワリと焼けるような感じがし、声を上げるまでではなかったが少し感じた。


 しかしボロ頭巾の様だった服は新品同様の状態に戻り、体も風呂上がりの様に綺麗になり、少し嬉しくなったのか鼻歌を歌いながら鍵の開いている寝室のガラス窓から入った。


「やけに静か、ココにもいないしパパどっかに行ってるのかなぁ」


 行く前は居間の方からカタカタとパソコンのタイピング音が聞こえてきていたが、今はシーンと静まり返っていて隙間風の音がやけに大きく感じる。


「とりあえず寝よう」


 家に着いて安心したせいか、体の芯から重く気だるい感覚が全身を襲い、それを吐き出すように口からふぁ〜とあくびを出してゆっくりと自分の布団に潜り込んで目を瞑った。


 どのくらい寝たのだろうか、目を覚ますと薄暗い夕焼け色の電気で照らされた見覚えのない部屋にいた。


(ここは......)


赤と黒のチェックの壁にはびっしりとしらない家族の仲のよさそうな笑顔の写真が掛けられており、黒と白の冷たく硬いタイルの床には沢山のCDが無造作に散らばっている。


「夢の中?」


 部屋の端にはザーと砂嵐を映しているテレビが置いてあり、その前に食い入るように体育座りして観ている、リリィと同い年であろうセミロングヘアーの少女が居た。


「あ、あのぉ......」


 なんとなく怖く感じ、遠くから呼びかけるが返事がなくピクリとも動かなかった。


「すみませ~ん」

 

すると「わたしはきづいてなかった」と話し始める。


「な、なにがです?」

「しはいされていたことを」


 少女は隣に座れと言うようにポンポンと床を叩く、リリィは四つん這いで恐る恐る近づいて、なるべく少女を見ないようにテレビだけを視野に入れながら座る。

初めは砂嵐を映していたテレビだったがリリィが前にちょこんと座ると、映像が鮮明になる。


「なにこの番組」


 映し出されていた映像は、緑色の術衣(じゅつい)を着た一人の男が、一体の西洋人形を組み立ていろんな言葉を覚えさせるという映像だった。雰囲気が暗くて悪夢の様な印象だった為、リリィは目を細めて少し後ろに遠ざかる。


「わたしはしらない、ほんとうのじぶんを」

「ほんとうのじぶん?」

「そう、ほんとうのきおく・ほんとうのかぞく・ほんとうのじぶんのすがたを」

「貴方の本当の姿はそれじゃないの?」


 少女は首を横に振り「めにうつるものがしんじつとはかぎらない」と言うと、リリィの手元にコロコロと可愛いピンク色のボールが転がって来た。


「目に映る物がねぇ」


 ボールを持ち上げて呟く。


「めにうつるものもまたことばといっしょ、うそがかくされている」

「物が?」

「あなたももしかしたら、ほんとうのすがたがあるのかもしれない」


すると壁に飾られていた無数の絵が黒いタイルに代わり床にガシャーンと次々と落っこちた。


 リリィは突然の事に驚いて持っていたボールを落とすと、ベシャリと床に叩き付けられたゼリーの様に潰れ辺りに飛び散る。

よく見るとそのボールはボールではなく誰かの脳みそで気が付くと血がリリィのお尻までこぼれていた。


「ほらね、いったでしょ?」


 何が面白いのか少女は「フフフ」と不気味に笑う。


「みえるものはしんじつじゃない、じぶんをうたがえ、じぶんをうたがえ、じぶんをうたがえ」


少女はリリィに近づいて押し倒す。


「貴方は......」


 顔を見ないようにしていたが、押し倒された時に思わず目を開いてしまった。


 少女の顔は半分見知らぬ女の子の顔で、半分は自分に瓜二つの顔だった。


「わたしはだれ?あなたはだれ?わたしはだれ?あなたはだれ?わたしはだれ?あなたはだれ?わたしはだれ?あなたはだれ?わたしはだれ?あなたはだれ?わたしはだれ?あなたはだれ?わたしはだれ?あなたはだれ?わたしはだれ?あなたはだれ?わたしはだれ?あなたはだれ?わたしはだれ?あなたはだれ?わたしはだれ?あなたはだれ?」


 何度も何度も壊れたロボットの様に同じ言葉を言う少女をどかそうと、両手で肩を掴もうとするがと球体関節人形の様な腕に変わっていた。


「なにこれ......」


目の前の起こっている事を信じられず驚愕(きょうがく)していると、曲がってはいけない方向に曲がり、腕がバキッともげて床に落っこちるとバラバラに壊れて部品が周り転がる。

腕からは血は出なかったが、赤い糸が伸びてた。


「あなたはじぶんのしんじてるあなたじゃない、おもいだして」


 そういうと、上に跨っていた少女の髪の毛が全て抜け落ちて顔がボロッと胸に落っこちた瞬間に、人形の部品となってバラバラに崩れ落ちていった。


「イヤァァァァァァァア!」


 悲鳴と共に飛び起きると隣に寝ていた健二が「どどどどうした!」と立ち上がり格闘家の様なファイティングポーズをする。


「ん?何もいない?」

 

息を荒くし汗をダラダラ出すリリィに気づき「怖い夢でも見たのか?」と近寄り落ち着かせるように頭を撫でた。

 

 リリィはコクリと頷くと「暖かい物でも飲んで落ち着こうか」とゆっくり立ち上がろうと健二の背中を小さな手が掴む

「いっしょにいて......ひとりはやだ」

「はいはい」

 

 リリィは健二の布団に入り、その晩二人は同じ布団で寝ることにした。


* * * *


「あの、部長さん」


 平日でいつも通りに仕事に行っていた。何やら高層ビルの様に高く積み上げられた資料をガニ股になりながらヨロヨロと持ってくる健二に、部長さんと呼ばれた紺色のスーツを着た年配の男は「また頑張ったねぇ〜」とハッハッハと呑気に笑う。


「現在行っているプロジェクトの資料と部長さんに頼まれた資料、それと新しく導入されたソフトの使い方が書いてある説明書全員分作りました」

「仕事早いねぇ、え?ハッハッハ!キミみたいな社員が僕の部下で良かったよ」

「ありがとうございます、そう言っていただけて何よりです」

 

 一礼してから「それでちょっとお話があるんですが」と話題を変える。


「ん?どうした?」

「明日から一週間の有給休暇をとりたいんですがよろしいでしょうか」

「資料を確認するにもう頼む仕事もないし良いよ、てかパンダみたいに目のクマがこの頃凄いと思ったらそう言う事だったのか、なんだ?一人で旅行か?」

「娘と旅行にと」

「あれ?結婚してたの?」


 健二の薬指の方をちらりと見る。


「いえいえ結婚なんてしませんよ、孤児の子を養ってるだけです、それでその子と親ぼくを深めようと日本の観光スポットをいろいろ巡ろうかなと思いまして」

「あぁ!そうだったの」


そう言うと腕を組んで顎を親指と人差し指で摘みながら何やら考え事をする事数分、突然「お!そうだ丁度いいこれ持っていきなさい」と手をポンッ!叩いて机から何やら白い封筒を取り出して、中身を確認すると健二に渡す。渡された健二は「ありがとうございます」と言ってから封筒を開けて中身を出してみると5枚の有名な遊園地のチケットが顔を見せた。


「こ、こんなに良いんですか?」

「良い良い、家族サービスで買ったんだが女どもはこの年で家族で行くのはダサいだの、ヨガに行くから無理だの言ってな、俺が持ってても良くて鼻紙になるだけだから」


 かなりショックだったのか徐々に声が小さくなり、最終的にハンカチで涙を拭く。


「で、その子は今は一人なのか?」

「そうですよ?」

「ならもう帰りなさい、どうせ今日の分も無くなってるんだろ」

「あはは、そうです」

「ならいい、雑用は君の優秀な部下にやらせるから」


“優秀”を強調してニヤリと健二の後ろにいる部下たちを見ると、皆はビクリと驚きキーボードを打つタイピング音がやけに早くなる。


「皆やる気あるようだ、関心関心!ハッハッハ!健二も安心して娘ちゃんと楽しんできなさい」


 苦笑して申し訳なさそうにする健二に、「ほら行った行った」と言わんばかりに手を叩いた。


「じゃ、じゃぁお先に失礼します」


 ペコペコお辞儀すると荷物をまとめて速足で会社を出て家に帰る。

塀の中に入ると、縁側で深い緑色の大理石でできた子供の顔ぐらいある大きな宝玉を両手で眺めているリリィの姿が見え、家の中に入らずそちらへ向かった。


「遥陽(はるひ)、何してるの?」


 しゃがんでリリィと同じ目の高さに合して聞くと「え?あ、え~とねぇ」と何かを隠す様に言葉を選んぶ姿に、ん?と健二は首をかしげる。


「きれいだからながめてたの!」

「そうか、確かに綺麗な玉だな」


 健二は球を見ると幼い女の子が戦争地帯の道端で泣いている映像が映り、悲しそうな表情になる。


「パパそういえばおしごとは?」

 

 見入ってたのか「へ?」と間の抜けた返事をすると、「ぱぱおしごとは?やけにはやいね」と心配そうに聞くリリィに、笑顔に戻して「そうそう!そのことでいい報告があるんだよ!」と言う。


「なあに?」

「これから旅行に行こう!」

「りょこう?」

「そう!旅行!ちょっと待ってな荷物はもうまとめてあるから」


 そう言うと走って玄関の方へ行った。


「この玉は思い出の宝玉、見た者の過去を映し出す......か」


 夢の少女の「目に映る物が真実じゃない」と言う言葉を思い出したリリィは「パパは私に嘘つかないよね」と呟いき、宝玉に映された映像に少し不安に思いながらも、そんな健二との旅行に心が躍る自分が居て足をパタつかせながら青空を眺めた。


*  * * *


 ここはアロマの匂いがふわりと香る白で統一された清潔感のあふれる結衣の部屋、床には呟くように羊の皮で作られた魔法の本が置かれていてベットには寝転んでいる結衣を守る様に大量のぬいぐるみたちが置かれている。


「今のお姉ちゃんは人格が二つある状態で不安定なんだよ、だから朝は襲って来たんだと思う」

 

 ぬいぐるみを抱きしめながらベットに座るアイラを見ずに本を読む。


「二つの人格ってさっき言ってた、ワルキューレとしての人格と人間の人格の事?」

「そう」

「結衣もワルキューレの試作品だったんだろ?いきなり人格が変わったりはしないのか?」

 

 隣に座るウサギのぬいぐるみを手に取り触る。


「大丈夫、ワルキューレとしての人格はもうなくなったから」

「無くなった?それって無くすことできるのか?」

「まあね、ワルキューレの人格っていうのは脳に特殊な魔法陣が脳に張られて初めて生まれるものだから、高度な呪術に詳しい人だったら直ぐとまでは言わないけど取り除かれるはず」


 ぱたんと読んでいた本を閉めてグーンと伸びをした。


「そうだったのか......じゃあリリィも人間に戻すのは可能なのか?」

「可能っちゃ可能だね、ただあのお姉ちゃんの様子じゃ素の状態から魔導機動隊に対する怒りがあるようなきがする」


 白い天井を眺めているとふとリリィの悲しそうな表情を思い出し、重いため息を一つする。


「まぁリリィはアシュリーの一人目の子供なだけあって長くいるからだろ」


 「一人目の子供?」と眉間に皺を寄せ呟く。


「どうかしたの?」

「いや、一人目の子供だったらもっと歳をとっていてもおかしくないなと思ってね」

 それを聞いた瞬間、病室でみた夢の光景が一瞬脳裏をかすめた

「いやそんな訳......」

「ん?どうしたの?」

「え?いや、もしかしてリリィの格好をした影武者なんじゃと思って......」


 真剣に言う結衣に、アイラは思わず吹き出し口に手を当てて笑いを堪える。

その姿に結衣は顔をカーと赤くして掛布団を全身に掛けて隠れた。


「笑ってすまなかった......プックックック」

「いいよ!どうせ本の読みすぎとか言うんでしょ!」

「まぁまぁそうすねるな」


 アイラは裏声でウサギの人形を動かしながら「お顔を見せてニュ~!ゴメンなさいニュ〜!」と言うと布団の中から呆れた様にため息をつく声が聞こえる。


「ったく」


ジト目で鼻から上だけをヒョコリと出す。


「まぁ、真面目な話をすると整形技術はそこまで進化してなくて、まだ誰かの顔に似せるってのは不可能なんだよ」

「っそご親切にありがとう」


 更に機嫌を悪くし再び布団に潜ろうとする結衣に、「ただ」と引き止める様に強調して話しを続けた。


「誰かになりすます、なりすましの魔法ならあるんだ」


 それを聞いた瞬間、にゅっと顔を出して「詳しく聞かせて」と仏頂面(ぶっちょうづら)ながらも興味津々そうに言う。


「数時間だけ誰かになりすませる事が出来るんだ、主に暗殺稼業の覚者達が昔良く使っていてな、今は魔女達が人と交流する時に使われてる魔法なんだよ。まぁ時間制限があるからそれこそありえないかもしれないけどね」


 自分でも自分の推測があまりにもバカバカしいと思ったのかフッと鼻で笑った。


 結衣もさっき笑われたお返しか「アイラも浅はかじゃけぇのぉ」と顔元にぬいぐるみを置いてド太い声で言う。


「そうだな」


 もとにあった場所に持っていたぬいぐるみを置いて立ち上がる。


「まぁ明日の朝時空移動ゲートが完成するらしい、出来上がり次第調査隊を行かせるつもりなんだ、だからそこら辺の真実が明かされるのも時間の問題だろうね心の準備しとけよ」


それだけ言うと「お休み」と付け加えてウィンクすると部屋を出た。


「心の準備......ねぇ」


ギュウとぬいぐるみを抱きしめて「すぐに出来るなら苦労しないっつの」とム〜と眉間にしわを寄せながら天井を睨んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る