第3詠唱 廃教会


スーツ姿の健二が、玄関で靴を履いていた。


 すると重たそうにビジネスバックを抱きかかえている、髪を切りボブヘアーになったリリィが、トタトタと小走りで来る。


「リビングの所にあったよ」


「お!ありがとう」


 バックを受け取るとワシワシと頭をなでる


「じゃあ、さっきも言ったけど、仕事部屋には入ったらダメだからね」


仕事部屋とは、 

リビングにある物置部屋を改造した場所で、天井は、大人の男性が立つと頭がすれすれな程低く、幅は、5人ほど大人が入れるスペースがあり特に変わった物は無く、デスクトップパソコンと、足の付ける場所がない程の資料や本が床に置いてある部屋だ。


「はーい!」


 左手を頭上に高く上げて元気よく返事すると、「じゃあ行ってくるよ」と健二は外へ出た。


「さて!お勉強しよ~」


 リビングに戻り健二に言われた、国語と算数のドリルをやり始めた。



 時計は12時を周った時ちょうど勉強が終わり、作ってあった弁当を食べようとしたが、海で食べたくなった為、お弁当とリリィより少し背が高い冷蔵庫から、天然水の入ったペットボトルをとり、健二からもらった黒いリュックにつめると、置手紙を残し首から鍵をぶら下げて家を出た。


 スキップをしながら約30分でやっと着く


「いい匂い!」


 深呼吸して潮風を感じながら、砂浜をしばらく歩いていると、遠くの地面に、うつ伏せの状態で倒れている人が見えた。


 人の肌は病気なのか青白く、髪が白く足先まであるボサボサの長い髪が特徴的だ。


「大丈夫?」


リリィは駆け寄りひっくり返すと、

一瞬、性別が分からなかったが、よーく見てやっと男だった。


何も食べていなかったのか、

顔色が悪く、頬が痩せこけていて、目の周りが凹んでいた。


「み......ず」


リリィの事に気づいたのか、死にそうな声で言う


「わわわ!」


いきなり話した男にビックリして遠ざかったが、

男がまた「み......ず」というと、

急いでリュックからペットボトルを出して手渡した。


「のま……せ」


男が自分で飲めない事に気が付いたリリィは、

キャップを開けると、飲み口を口にねじ込む。


口の端から水をこぼしつつも飲み干し、

すこし元気になったのか目蓋を開く


「ありがとな......ちびっ子」


左の目が白く濁り、右の目は灰色になっていた。


リリィが目をまじまじと見ていると、男は「すまねぇ......食べ物あるか?」と呟く


「う......うん」


リュックから弁当箱をだすと、男はゆっくりと起きる


体を起こした時、初めて分かったが、首の後ろに、番号とバーコードが入れ墨で書かれていた。


「すまないな......」


相当お腹が減っていたのか、手渡された弁当を素早く取り開けると口にかきこんだ。


「いっぱい食べないでね......」


自分の分が無くなるんじゃないかと心配になり言うが、男の耳に入らなかった。


「うめぇ......うめぇ......」


全部食べ終わると、長い間まともな食事をしていなかったせいか、胃が驚き突然、吐き出す。


「だっ大丈夫⁉」


「大丈夫…こんな美味しいのを食べたのは数ヶ月振りでな」


涙を流しながら言い、リリィの方を向くと少し眉間にしわを寄せる。


「君あの女に似てるな......まさか子供か?」


「あの女?」


 首をかしげて聞き直すと「気のせいか…そうだとしたら、そのペンダントをしてないもんな」と

何やら独り言を呟いてポケットから赤く透き通る子供の握りこぶしぐらいある石と、どこかの場所を記してある、地図を取り出した。


「同じ場所に居た女から、宝石のついたペンダントをしている女性を見つけたら、

渡してくれと頼まれたんだ」


「くれるの?」


 嬉しそうに言うと、男はニコリと「これも何かの縁だろう、お前に託そう」と言い渡した。


「この地図は?」


 自分よりも大きな地図を広げると、地図にはこの町が載っていた。右端辺りに丸で教会が囲まれている。


「俺にもわからねぇ......でも必死に行けって言ってた」


「へ~......そうだ一緒に行こ!」


「え?」


 リリィは男の手を引っ張り駆け出した。



場所は変わり、健二の働いている会社


 カタカタとパソコンに向かい合っていると、ふとキーボードを打っていた手を止める。


「どうしたんですか?健二さん」


 窓の外を見ている健二に、部下の女性が話しかける


「え?」


 何か考え込んでいたのか、間の抜けた声を出した。


「健二さんが、そんな風に外を眺めているなんて、珍しいですね」


「あ…あぁちょっとね」


 笑ってごまかすと、女性はますます心配そうな顔をした。


「お疲れなんじゃ......この頃、私たちのお仕事も手伝ってもらっていますし......」


「いやいやそんなことないよ!ただ、家に8歳の女の子を一人で留守番させてるから心配でね」


「それは心配ですね......では、いつも助けられていますしお仕事は私たちに任せて、その子の基に元に行ってあげてください!」


「ありがたいけど、ほかの人は......」


 ほかの社員を見ると、皆グッドサインをしていた。


「皆ごめんな、今度何かお礼をするよ」


 そういうと帰る支度をしてから、一目散に会社を出た。



視点を戻しリリィと男へ


 二人は木々が茂っている、森を歩いていた。


「ねぇ本当にこっちなの?」


 薄暗く、道が湿っているトンネルを行こうとする、男の腕をつかみ止めた。


「ここが一番の近道なんだ我慢しろ」


 男は誰かに警戒しているのか、周りをキョロキョロ見渡す


「なんでキョロキョロしてるの?」


「いや女が追いかけてきたらマズいから見ていただけだ」


 リリィは怖くなってきたのか涙目になり「食べられちゃう?」と聞く


「あぁ食べられるな......それも骨まで」


 ニヤリと笑い少しからかうと、男の背中を後ろから、目を瞑り全力で押して走った。


 トンネルは長く数分かかり、出た瞬間、男は体力の限界で仰向けに倒れた。


「はぁはぁ......少し休憩......」


「でも女の人が来るかもしれないよ!行こうよ!」


 寝っ転がっている男の腕を引っ張ると、「大丈夫だ!」と怒って手を振りほどく。


「俺にはあいつのオーラを感じることができるんだ」


 ム~とリリィがジト目で見ると、しぶしぶ「はいはい......」とため息と共に、腰を上げてゆっくり歩き始める。


 体力が回復したと言っても、まだ6割ぐらいで右足も引きずっていた。


「ちっこいの肩を貸してくれ」


 手招きで先を急ぐリリィを呼ぶと肩に片手を置く


「ちっこいのじゃないもん!遥陽(はるひ)だもん!あと肩なんて持ってないし」


 頬をプクーと膨らませながら言う


「これが肩を貸すって意味だよ」


 そういうと「なくさないでね」とリリィは心配そうに言い、二人は黙々と獣道を歩いた。しばらくすると、遠くから蔓が張めぐされている十字架が見えてくる。更に歩くと蔓だらけの教会が姿を現した。


 教会に誰もいないことが、蔓と周りに生い茂っているリリィ長い雑草が物語っている。辺りは静かで木のざわめく音と、カラスのこだまする鳴き声で更に不気味さを増していた。


「廃教会か」


「誰かいるかなぁ......」


「とりあえず入るぞ」


 男の腰にしがみつき目をつむる


「歩きずらいぞ」


 二人はぶつぶつ言いながら教会のドアを開くと、やはり中は暗く人の気配は無かった。


 床は汚れていて外だけかと思っていたが、外に生えていた蔓は、室内まで浸食していて、司会台や椅子などいろんな所に張り付いていた。よく見ると蔓だけでなくキノコもところ生えている。


 リリィと男が中へ足を踏み入れた。


 その時、二人の後頭部に、棒で殴られたような衝撃が走りそのまま気を失った。


 

 何時間だろうか目を覚ましと、男と背中合わせになった状態で縛り付けられていた。


 部屋の中は蝋燭で明るくなっており誰かが住んでいるのか綺麗に掃除されていた。


 周りには暖炉ややベッドなど電化製品以外の家具は置いてある


 隣にも部屋があるのかシチューの匂いしてきた。


「おぉ......起きたか、ちびっ子」


「うん......」


しかしまだ視界がぼやけていた。


 するとドアが少し開く隙間から一人が覗くと再び閉まり、何人かいるのか会話する女性の声が聞こえてきた。


「いいか変な事言うなよ?全て俺が話すからな」


「分かった」


 数分待つとドアが開き、四人の女性が入ってきて二人を囲む


 皆胸には、それぞれ色の違う宝石が着いた、魔法機動隊の変身ペンダントをぶら下げている。が魔法が使えないのか、鉄パイプや包丁など武器を持っていた。


「ねぇあなた達?ここに何しに来たのかしら」


 女性は鉄バットでコツコツと地面を叩きながら言う


「お前らと同じペンダントを身に着けた女に、頼まれた物を渡しに来ただけだ」


 男はこういう場面になれているのか、落ち着いた様子だった。


 すると後ろにいる「まともに話してるよ」や「ゲートじゃないんじゃない?」など小さな声で話す。


「ゲート…」


 聞き覚えがあるようにリリィが呟くと、鉄バットを持った女は「あなたそういえば…」とリリィのペンダントを見る。


「そのペンダントを付けているという事は、あなた、部隊の人?」


 リリィは記憶がない為「部隊と分からない!」とブンブン顔を振る


「でもこの微弱ながらも感じる魔力は、気のせいじゃないはず」


「マジカルコアを持ってきますか?微弱なのは魔石が枯れてるからかも」


「そうだよね、ライラーさんが魔力の弱い人を入隊させるわけないし」

 

 少し考えてから緑色のペンダントを着けた女性に、「あーちゃんお願い」というと「はい!」と、

歩いてさっき出てきた部屋へ行き、しばらくするとリリィが男から渡された赤く透き通る石を手に持ち戻って来た。


 因みに『あーちゃん』と呼ばれた女性のフルネームは、アロージア・バルテンである。


「これは君が持っていたものだ」


 女はアロージアが持ってきた石を持つと、拘束されているリリィの目の前で見せる。

石から出るまるで聖母の様な安心する温もりに、リリィは癒されて力が沸き起こる感覚がした。


「やはり私の感覚は狂っていなかったか」


「え?」


「あなたは魔導機動隊員だったの」



「ふふふ~......みぃつっけた~」


 拷問室の女はリリィ達の居る教会の真上を飛んでいた。



 それに気づいたのか女はマジカルコアと呼ばれていた石を、魔法で素手を石で覆い半分に割る。


「ちょっと!デリちゃん!それは......」


「奴が来るこの子だけは逃がさなくちゃ!あなたは思い出の宝玉を持ってきて!」


「でもアレは、私たちがやっと手に入れた物じゃないですか!」


「ごめんね......でもこの子は私たちの最後の希望になるかもしれないの、だからお願い」


 女性はリリィの方を睨むと「了解」と言い走って取りに行く


 その間にデリちゃん(本名、デリア・アーベル)と呼ばれていた女は、二人を拘束していたロープを解き、アロージアはリリィのリュックを持ってくると砕いたマジカルコアの半分を入れる。


「持ってきました」


 大理石のような素材で作られた、ダークグリーンの丸い石をデリアに渡す。


「あなたは記憶を失ってるの、だからこの球を毎日見なさい、そうすれば全て思い出すわ」


 リリィを怖がらせない様に石を見せて優しく説明する。


「うっ......うん分かった」


 返事をすると「いい子だ」と頭をなでて、宝玉を自分が羽織っていた上着に包みリュックに入れて渡す。


「もう逃げられないな......」


 近づいてくる女のオーラに、男は強張った表情で言う額からは冷や汗が流れる


「いいね皆!今回の任務はこの子の防衛だから」

 

デリアの言葉に3人は「了解!」と声を合わせて、ドアから数メートル離れたところで、横一列に並び変身ペンダントを握って構えた。

 

「このマジカルコアの大きさからしてあんまりたいした魔法は使えないから気を付けてね」

   

 女のが止まりドアの取っ手が回った瞬間、それぞれ変身して私服から色とりどりな、フリルのついたドレス姿に変り髪型や色も変わった。


 ドアが開き女は姿を現した。


「あらあらこれはお出迎え?ありがとう」

   

 リリィの方を見ると「かわいい子猫ちゃんね~」と言い、一瞬で姿を消すとリリィの背後に立つ


「まずい!」

  

 男は自然と体が動きリリィに手の平を向ける。


 すると、手の平の皮が横に裂けて、ゲートと同じ目玉が現れ、たちまちリリィはその目玉に吸い込まれると、姿が消える。


「あなた達は逃げなくてもいいのかしら?」


 女は「まあ逃がさないけどね」とふふふ…笑いながら、光り輝く片手剣と円型の盾を出す


 女の魔武(マブ)を見た時、デリアは驚き口を開いた。


「まさか…アシュリー先輩?」


「ふふふ…久しぶりね、可愛い後輩ちゃん❤」

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