エピローグ

 夜のテラス。

 屋敷の明かりを背に、二人は沈黙して佇んでいた。


 俺が見た世界は、地獄でしかないと思っていた。こんな精根だからこそ、そこに「もし」を見出だす事が出来なかった。

 

 もし、未来が憎しみに染まった物でないのなら。そう考えると、突如、何も聞こえない記憶に音が宿った。


 どうしようもない俺が。

 何百年も歳を取った俺が。

 俺に可能性があると考えたのだ。


 検討違いも甚だしい。

 今すぐ振り払ってやりたい身勝手だ。

 

 送りつけられたのが憎悪だった方が、ずっと楽だった。そうであるべきだった。それなのに、救ってくれと言っているのか。


 流石は俺だ。こんな重い物を送り付けて図々しく人任せとは。


 そして俺のことがよく分かっている。俺は、こんなとき手を差し伸べてしまう奴なのだと。


 だが、それでも、


 ――ヒーローなんてなれないって、お前が一番知ってるんじゃないのか?


 重い。

 絶望のなか必死に願った人間の希望。それも背負うのは世界の命運だ。背負うのはレティシアの理想さえ叶えられなかった俺だ。


 それでも踏み出せと言うのだろうか。


「どうして、泣いているんだ?」


 クレアの言葉に答えられない。

 だって、さっきまで考えていたのは空想、妄想の類いだ。決して真実とは限らない。もしかしたら、本当に憎悪を押し付けられたのかもしれない。


「……それじゃあ、戻ろうか」


 そう言って、明かりの中へと帰っていくクレア。 

 俺もまた踵を返すと、一歩を踏み出した。

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