エピローグ

「今、なんて言ったんだ?」


 一月ぶりに再開した女剣士は目をぱちくりさせて問い質す。時刻は昼下がり。今日も屋敷は静かで平和で賑やかだ。


「えっとね。あそこの山にダンジョンが出来るんだって! 大丈夫、タケモトが村は守ってくれるから」


 姉は腕を組んで、妹が話した物語の様な実話を吟味する。ふと、ピアノの屋根に座る幼げな少女がニコニコと、


「どうも、第八迷宮エルフィリードだよ」


「ど、どうも。迷宮?」


「うん、そうさ。でも、迷宮って堅苦しいよね、ここの人達はエルフィと呼んでるからクレア君もそうして欲しいな」


「あ、ああ」


 こんな歯切れの悪いクレアは初めて見た。よっぽど混乱しているみたいだ。


 因みにクレイグは撃沈済みだ。今は哀愁を纏って一心不乱に窓を拭いている。


 もう分かるだろうが、今日は客人が二人いる。クレアとエルフィだ。クレアはいつも通り妹に会いに来ていた。


 エルフィはダンジョンの制作が一段落して遊びに来ていた。と言うのも、彼女の引っ越し先が屋敷に近いのだ。隣の山である。その山頂に女の墓が立ててあるのだが、女の死骸周辺に魔力が集まるのを利用してダンジョンの立地にしたのだ。


 この辺りも凄い事になってきたな、と他人事みたいに俺は広間を見渡した。どうやら姉妹は今回の一件について話しているみたいだ。妹に無理をさせるなと後で姉の方にどやされそうだ。


 エルフィは遊びに来ているというか、魔導書を読みに来る。古代と全く様式が異なる現代の魔法が記された書物――魔導書が無数にあるこの屋敷は、彼女にとっては宝の山なのだ。


「まったく。また変な奴を増やしたな」


「ああ。別に望んで変な奴を集めている訳じゃ無いんだけどな。……因みに、変な奴の中にお前も入っているからな」


「どういう意味だ?」


 若干の鬼気迫る物言いに、そう言うところだよ、と言いたくなるが。


「ゾンビと普通に会話して、屋敷の変な奴らに一切物怖じしない女なんて、変な奴以外になんて言えばいいんだ」


「冒険者なんてこんな物だぞ」


 なるほど。流石に冒険者が皆クレアみたいな人間だとは思わないが、どうやら俺は元の世界の常識に当てはめて考えていたみたいだ。言われてみれば、冒険者はゾンビなんて見慣れているだろうし――。


 いや、ダンジョンと会話した冒険者なんて史上初だろうし、吸血鬼に惚れられる人間なんて、もはや変な奴どころか――。


「何か失礼な事考えていないか?」


 そんなことは無いですよ、と苦々しく返す。


 何はともあれ、今日も今日とて屋敷からは奇妙な物語が生まれては誰にも知られず時間と共に流れていく。だから今の内に語ろう。


 今回はこんな事があった。

 村の側にダンジョンが生まれ、タケモトに新しい友人が出来た。

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