次元とユニバース理論

KIKI-TA

第1話 プラネット

 t恒星系のデータなんだが。


「t恒星系といえば、そうだ、a銀河のなかでも放射線の影響の少ないポケットに、ここ30億(unv)年か落ち込んでいた、実に稀なタイプとしてね。

 t恒星は、a銀河内でも比較的エネルギーポテンシャルの高い恒星だ。公転速度も銀河の自転速度と融和している、他の恒星からも距離があって強い宇宙放射線の影響からも守られている。

 こんな基礎データがあったはずだね」


 それが、ここ数億(unv)年のデータではt恒星のエネルギー値が低くなっている。


「何故なんだい?」


 原因?いまのところ判らない。ただデータとして、内部の核融合エネルギー値は明らかに下がっている。t恒星が誕生してから45億(unv)年で、ここまでエネルギー値が低下したのは初めてだ。


「t恒星系に影響がでているのか?」


 特に貴重な試料として記録している、t恒星系第三惑星eの問題がある。

 この惑星eは、t恒星から受けるエネルギー量が適度で、重力と自転速度が絶妙に融和していたために、氷結も揮発もしない状態でwater分子を蓄え流動させることができた。実に30億(unv)年もの長い間でだ。

 water分子の量は、惑星eを覆い尽くすほどの量で、また、惑星内部では自重力による核エネルギーの崩壊で地殻元素が活発に循環していた。

 そう、循環!。

 この惑星eに顕著なのは、その循環なんだ!。

 それにもう一つ。この惑星eは、衛星mを持っていた。mの大きさと惑星eまでの距離は絶妙でそれは兄弟と言ってよい。mはその重力で、惑星eのwater分子の循環、地殻エネルギーの循環に影響を与えた。

 惑星eは、デリケートな歴史を歩むことになる。

宇宙(unv)年のなかでも、貴重な試料となっている。


「惑星eの循環が活発でいられた遠因としてt恒星系がa銀河内で偶然にも穏やかなエリアにいたから、ということもあるのかな」


 それは大きな要因かも知れない。強い放射線エリアから外れていたからね。苛烈な宇宙の環境から離れて30億(unv)年もの間、穏やかな空間のなかで様々な元素が反応を繰り返し、自己複製できる物質が誕生している。


「物質が自己複製できるまでに成長するには何かきっかけが必要だったのか、記録はどうなっている?」


 t恒星系が誕生した頃、宇宙塵や小惑星が頻繁に惑星eに衝突していた。衝突エネルギーが惑星e内部の核エネルギーに影響し、様々な元素の電磁的エネルギーが火花となって、高温の惑星eを駆け巡っていた。それは非常に激しい反応で、いまの惑星eからは想像できないものだ。


「そのような反応が、何億(unv)年ものあいだ続いていたということか?」


 そうだ。そのような激しい反応が何億(unv)年ものあいだ続くなかで、30億(unv)年という長い時間をかけて、自己複製できる物質は誕生している。

 われわれがこうして存在する物質宇宙ですら、誕生から138億(unv)年だ。いかに長い助走期間を経て、自己複製できる物質が誕生したかだ。その宝のような時間は、t恒星系が、a銀河のなかでも放射線の影響の少ないポケットに30億(unv)年落ち込んでいた時期と重なるのだ。


「ほかのスモール要因もあるようだが」


 t恒星系内の、巨大ガス惑星jの軌道が安定することにより、その巨大な重力によって恒星系外部からの宇宙塵や小惑星の、惑星eへの破壊的な衝突が避けられたのも大きい。記録では、5億(unv)年前から、急激に自己複製パターンが複雑化しているようだ。


「衝撃がどれほど強いものであっても、物質進化を止めることはできなかったようだね。寧ろ衝撃が物質進化を促進させた。物資進化を止めてしまうものは衝撃ではない。反応が薄まってしまうこと。濃度や密度が薄まり、互いの反応が無くなってしまうこと。すべてが一様になってしまうことにある。そこには、音も光りも希薄な、均一な世界がどこまでもひろがっている。

 ところで、惑星eで自己複製できる物資として進化した、稀な試料としてのホモS種についての記録はどうなっている?」


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