なにしろ、服が好きなので

 物心がついた時から、洋服が好きなのである。


 高校生の頃好きだったファッション雑誌はmcシスターとオリーブだった。(いまはどちらも無くなってしまったのがとても悲しい)

 不変の『可愛い』と流行にたやすく流されない美学が貫かれ、ときめきがめいっぱい詰まった誌面に心から憧れ、わくわくさせてもらっていた。

 乏しいお小遣いでは雑誌に載っているような洋服や靴をぽんぽんと買えることはないまま、東京にしかないお店やブランドの名前をたくさん覚えたことは、いまでも記憶の中できらきらとまばゆく煌めいたままだ。


 わたしが高校生から大学生の頃はちょっとしたブランドブームで、わたしの住んでいる大阪では南船場や堀江がこだわりのセレクトショップの並ぶ一大ファッションストリートとしてどんどん盛り上がり、関西発信の情報誌でも盛んにそれら最先端の街の個性的なショップの数々が多数取り上げられていた。

 頻繁に雑誌に取り上げられるような東京発のブランドやセレクトショップの関西への初出店が相次ぎ、高級路線の駅ビルが多数生まれたのもその頃だったと思う。

 ファストファッションの波が来るよりもずっと前、いまも現役で駅ビルに並ぶブランドの服たちは、その当時はどれももっと高価だった気がする。


 好きな洋服を好きなだけ着こなせるスタイルや容姿の持ち主ではなくても、好きなものを探しだすのはとても楽しかった。

 学生と家族で溢れる平凡な住宅街の地元になぜかあったおしゃれなセレクトショップと古着屋(どちらもいつの間にか無くなってしまった)やおしゃれな街に足繁く通っては、心がときめくものを探した。

 当時はほぼ古着屋だったWE GOやいまは無きハンジローの古着はほかの古着屋よりもうんと安くて、根気よく探せば掘り出し物が見つかるのが宝探しのようで、とても楽しかった。 なにしろ、服が好きなのだ。


 時代は移り変わり、好きで通ったお店は気がつけばほとんど無くなってしまった。よく行った雑貨屋もカフェも古本屋もいまはほとんどない。

 あの頃はもっと身近にあったような胸をときめかせてくれる洋服との出会いや、『今期はこれがほしい、こんな服が着たい』とわくわくする気持ちは昔よりも随分減ってしまった気がする。

 ファストファッションの定着のお陰で、遊びに行く日以外は極力手間をかけたくないわたしでも、それなりに無難に着こなせる服が手軽に手に入れられるようになったのはとても気楽で、悪いことばかりだとは思わない。

 少しずつ趣味は変わっても変わらず好きで居続けるものもまたたくさんあるため、クローゼットにはオールタイムベストのお気に入りの服や靴が溢れている。

 中にはおそらく十年近く着ているものもあるのだから、減価償却率はこの上ないはずだ。



 文芸のイベントに出店していると、みなさんご自身の好きなもの、世界観を突き詰めている方ばかりなこともあってか、街中ではなかなか見かけない個性的なおしゃれを楽しんでいる方をたくさん目にする。

 人様の着こなしを見るのがとても好きなので、おしゃれをしている人にたくさん出会えるのはとても楽しい。

 立ち寄ってくださった方やお話をさせていただいた方がおしゃれで素敵だとつい声をかけてしまうことが多々あったのだが、初対面の相手にいきなり話しかけられると怖がらせてしまうのではないかと思い、最近は我慢することを心がけている。

 というわけで、わたしが特にコメントをしなかったのは自粛していたという可能性も大いにありうるのです。



 この三、四年ほど文芸イベントに出店しているのだけれど、たくさんの人に出会える楽しいハレの場に行くのだからと、自分なりに好きな服を着てめいっぱいにおしゃれをして行くようにしている。

『自分が楽しむ』ことで充分に満足していたのだが、この一年ほどの間、服を褒められることが以前に増して随分と増えた。おそらくは新しく知り合った方が増えたことと、より一層自分の好きな『かわいい』を目指して、前よりも変わった服を着るようになったからだと思う。

 通りすがりのサークルさんに褒められたことは何度かあったけれど(それもまたありがたいし、すごいことだと思う)、見知った方々に楽しんでいることを褒められるのはやっぱり特別に嬉しい。

 小説も本の装丁も当日着ている服も、たくさんの中から好きなものを探して、選び抜いて、自分にとっての『特別』になれるように努力して作り上げたものの完成品であることには変わりないのだ。




 それにしても、我ながら『なんかコスプレみたいだけどこれで本当に外に出る気なのか正気を疑う感じに仕上がったらおしゃれ完了』と思うのはすこしばかりどうかと思う。いい加減いい大人なのに。

(最近はロリータの方には程遠くとも、どことなくメルヘンテイストなふわふわした服を着て出かけるのが好きなのです)

(文フリ大阪会場で通りすがりに出会ったスチームパンクスタイルのお姉さんに勢い余って「素敵ですね」とお声をかけたところ、「服装にシンパシーを感じる」と言っていただけた時は大変楽しかったです。おしゃれをしていくと思いがけない出会いがあるのだな、と思いました)



 手持ちのお出かけ着にも振れ幅があるので、そこまでメルヘンではない、落ち着いた大人の女性に見えるような服だってもちろんあります。

 なにしろ、服が好きなので。



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