あなたは自分の記憶にどこまで自信が持てますか?


一本の電話が伝える妻の緊急入院から物語は始まる。

主人公が病院にたどり着いた時、すでに最愛の「妻」は帰らぬ人となっていた。
妻の顔と対面した瞬間「これは誰の顔だ」と困惑する主人公。
トントンと鼓動に合わせて疼くこめかみの痛みは、何を象徴しているのか?
あまりにも急すぎる「妻」の死の影には、いったい何が隠されているのか?

この物語はミステリーなのだろうかと思うやいなや世界は一変し、主人公は「妻」が制作したガラスの魚たちに、幻想的かつ非現実的な世界を連れ回される。
妻と暮らした日々の記憶を辿りたいはずなのに、行く先々で待っているのは知らない世界、覚えのない過去、欠落した記憶。

ここはどこなのか?
いったいいつの話なのか?
魚たちは何を見せようとしているのか?
主人公にもわからない。
もちろん読者にもわからない……。


謎解きのキーは冒頭の方にありますが、しかしこの物語の魅力は謎を追うだけでは味わえないでしょう。
推敲に推敲を重ねられた幻想的な文章と世界を、主人公とともに体験することにこそ、この物語の最大の魅力があると私は思います。

エピローグで明かされる主人公を取り巻く謎とあまりにも素敵なエンディング、そして爽やかな読後感はいつもながら作者様の真骨頂。

一人でも多くの読者が、主人公と彼を導く「魚」とともに、この独創的な世界を味わい尽くしてくれることを、切に願います。

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