Call6 悪友? 親友?




 夢見ヶ丘中学校、そこが私の通う中学校だ。



 まだ眠気は残っていたけれど、学校を休むわけにもいかない。

 いつものように一人で登校すると、隅っこの窓際の席に座る。

 深夜に見たはずの教室は、朝になるとクラスメイト達の賑やかな声で満たされていて、まるで別の世界のようにも感じられた。

 おはよーとか、昨日のテレビの話題とか……みんな仲良くお話してる。

 私は自慢じゃないけど友達は少ない、いるにはいるから、一人ってわけじゃないけど……その一人を除けばほとんどいない。

 オカルト的なことにはまった小学校時代、名前のことも合わさって悪目立ちして、私は完全に孤立してしまったのだ。

 男子にいじめられた時に喧嘩して叩きのめしたり、私をいじめてきた女子と取っ組み合いの喧嘩をして……その子が階段から転落、入院なんかをさせてしまった結果、いじめとかはなくなったけど……今でも陰口は叩かれたりはしてる。

 とくに私が入院させた子なんかは私の話をすると必ず悪口をいう……どころか狂人の不良扱いだ。

 あの子の中では私のほうが加害者らしい。

(私もあなたも加害者でしょ? 嫌なら最初からいじめないでよ)

 とか思うけど、まぁいいんだ。

 入院までさせちゃったのは反省してるけど、反抗したことを悪いとは思わない……スカッとしたし。

 私の学校生活は、楽しい……とまではいかないけど、悪いものじゃない。

 お母さんが死んでからはなんだか色褪せちゃってるけど、うん、最低じゃないかなって感じで……。



「おっはよーエンジェルー」



 あ、今は最低の気分だ。



「エンジェルは禁止だっていってるでしょ! かずみ!」



 私は声の主をびしりと指差す。

 私の席に向かって歩いてくる、長身、眼鏡、ポニーテールのその人物は、三井和美……親友というか私の悪友で、廃墟なんかに二人で行ったりする人物。



 けど、今はそんなことどうでもいい、和美は今私の本名を呼んだ。



 それは禁忌だ!



「でもうち、自分の名前は大切にするもんだーって婆ちゃんから聞いてるし?」

「普通の名前だからそういうこといえんのー! 今日から牛丼特盛に改名させてあげようか!?」

「あははー、なかなかずいぶんボリュームありそうな名前。私はやめとく……っと」

 私の怒りの言葉を軽く流すと、和美は私にずいっと顔を近付ける。

「で、どーよ親友、ちゃんと教室にいけた?」

 ……声を小さくしてそう聞いてきたから、私は仕方なく、名前の件を保留にする。

 なにを隠そう、和美はオカルト部の部員で……深夜に学校に忍び込む方法を教えてくれた人物でもあり、私にこの学校の七不思議を細かに教えてくれた人でもある。

 警備員とかも呼ばれず、私が昨夜学校に入れたのは彼女の知恵のお陰とも言える。

「いけたいけた……」

「……電話来た?」 

「きたきた」

「来たの!?」

 ひょえ、と大声で驚いた和美が、目を見開く。

 大きな声だったけど、教室自体がやがや賑やかだからみんなが気にした様子はない。

 ……と、なにを思ったのか、和美は勝手にうんうん考え……急に合点がいったような顔をする。

「あ、実は家族から電話きたってオチ?」

 ……どうやら私がなにか冗談をいってるのだと思ったのかもしれない。

 気持ちはわかる……オカルト部だからって、都市伝説が実在するなんて信じきる人ばっかりじゃないんだろう。

 けど……。

「違う違う、私の夢じゃなければほんと」

「え、え、すっごい、それすごーい!」



 私の答えに、和美はきらきらと目を輝かせてはしゃいだ様子を見せ……るだけならよかったのに。



「ちょっとエンジェル! あんたマジ天使!」



 そんな言葉をいってきた。

 なにがどう天使かしらないけど怒っていいな私、よし怒ろう。



「今の会話に天使要素ないでしょ! だいたい私が実名NGだって何回いってきたと思ってんの!?」

「やー覚えてないようち、食べたパンの数と同じ同じ、そんなことより」

「そんなことじゃなーいー! もう怒った! 昨日のこと話してやんないから!」

「えええ!? ひどい、エン……るー様!るー様の武勇伝聞きたいんですよぅ!」

「ゆるさーん! 向こういけー!」

「ご無体な!」



 とそんな風に和美とちゃわちゃやってたら、チャイムが鳴った。

 それを聞いて、あ……と和美が真顔に戻る。

「あっちゃー、これじゃ話し聞けないじゃん……るー! 授業終わったら聞かせて」

「いいよ、おっけー……私の本名で呼ばなければね!」

 私が言うと、ぱっと顔が明るくなる。

「さっすがるー! じゃあまたあとで!」

「うん、じゃあね」

 教室の前の方の席に戻っていく和美を見送ると、ふぅ、と息をつく。

 本音を言えば、信じてくれそうな誰かに話しておきたい気持ちもある。

 こんな事、私だってどこか信じられないし。



 ……昨日と同じ教室。

 そこにいた怪異の姿はいまは無くて、本当に夢だったんじゃないかと、そう思いたくなる。

 それもすこしだけイヤだけど、現実なら現実で、身に迫る恐怖もある。



 あの出来事は、夢と現実のどっちがいいんだろうか……。

 メリーさんのいた場所を眺めながら、私は一人、そんなことをぼんやりと考えた。

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