番外編3「二人、何年経っても寄り添って。」

祐樹、駅前で待つ。

 四月。既に桜の花びらも散って、側溝に溜まってしまっている。昔は入学式と満開が重なっていたそうだが、今では関東ですら春休みの間には見頃が終わってしまうらしい。少し理由があって桜にはかなりの思い入れがあるから、物悲しい気分になる。


 そんなことはさておき、今年の春から大学二年生になる俺がどうして駅前で桜の木を眺めてるかって、人を待っているからだ。今日こっちに出てきて、俺の今住んでいるアパートの近くに引っ越してくるから、手伝いをしようと思って。いやまあ、単純に会いたいというのもある。そう、誰って、桜ちゃんのことだ。


 結局付き合い始めてから一度も破局の危機なんかを迎えることなく、順調にお付き合いしてきた。たぶん、周りとか「バカップルだ」って思われてたんじゃないかな。というか彼女持ちなのがバレた後、実際に友人に言われた。


 転機が訪れたのは俺が高三の時。俺は地元の国公立の大学に行くか、少し高望みしてこの地方では一番の大学に行くか、迷いに迷っていた。結局、桜ちゃんの後押しもあって都会に出ることにした。


 当然のように遠距離恋愛になるわけだけど、もともと学校も学年も違ったからか二人ともあまり気にすることなく交際続行。そして今年、晴れて桜ちゃんも俺と同じ大学に通うことになった。


 桜の木に引っ張られて昔を思い出している間に桜ちゃんが乗っているだろう電車が着いたらしく、続々と人が改札から出てくる。さて……桜ちゃんは……


 いた。彼女だしあれだけ可愛いし美人だし、探す前に見つかった。ほぼ同時に桜ちゃんも俺のことを見つけたらしく、改札を出てからこちらへ駆けてくる。


「祐樹くーんっ!」


 あぁ、相変わらず桜ちゃんは最高に可愛いなぁ、俺幸せだわ……


「祐樹くん、久しぶりですね。ちゃんと会うのは一月以来でしょうか?」

「桜ちゃん、久しぶり。一月以来だっけ。なんだかそんな気がしないなあ」


 ずっと桜ちゃんのこと考えてたから、とはさすがに口には出せない。あまりにも恥ずかしすぎる。だけど照れで微妙に逸らした目線から見透かされたらしく、桜ちゃんにクスクス笑われる。


 なんだか無性に時間が気になって、桜ちゃんの荷物を持ちながら俺は言う。


「は、早く行かないと時間なくなっちゃうから行くよ」

「あっ、祐樹くん、待ってくださいよ!」


 本当だから。大きな荷物は明日届くけど、少なくとも今日中に住める部屋にしないといけないんだから。照れてるのがバレて恥ずかしいとかじゃないから。

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