俺、帰る。

俺の抱いた期待は無惨にも砕け散ったらしい。

返事すら貰えなかった。

ニコニコと笑う桜ちゃんが、今は無性に怖い。


「先輩の告白のお返事をする前に、私が話そうとした話をさせてください。」


今にも泣きそうな、いや、泣いているかもしれないかもしれない俺に桜ちゃんがかけたのは、意外な言葉だった。

てっきりこのまま悪し様に言われて終わるのかと。

話が死体蹴りじゃないことを願おう。


「私は昔、男が嫌いでした。いえ、今でも基本的には嫌いです。」


あれ?ということは、もしかして最初から俺に勝ち目なんて無かったの……?


「一生独身のままでいいやなんて思っていたんですが、最近好きな人が出来まして。」


死体蹴りか?死体蹴りなのか?


「その人はかっこよく私を助けてくれて、その後も気をつかってくれたりもして。」


俺も似たようなことしたつもりだよ?

やっぱり顔か?顔なのか?


「今日もいろいろ楽しい時を過ごさせてもらって。この人だったら付き合ってもいい、いや、付き合いたいなって……」


へぇ、今日もねぇ。

そいつが羨ましいかぎりだ。

ん?あれ?今日?


「好きです、先輩。付き合ってください!」


ふーん、つまり桜ちゃんは俺のことが好きで、付き合いたいと……

は!?付き合う!?俺と!?


「えと……つまり俺と桜ちゃんは両想いだったってこと?」


「はい、そうですよ。嬉しいです!」


「えぇ……ちょっと信じられない。」


「信じてください!私と先輩は両想い。だから、これからお付き合いをしましょう。」


手の甲を爪でつまんで引っ張ってみると、結構痛かった。


「ということは、げんじつ……?」


「先輩、そこまで疑われるとちょっと傷つきます。」


「いや、美人な後輩が俺のこと好きとかちょっと夢みたい……」


「て、照れますよ……私の方こそ初恋が実るなんて思ってませんでした」


「初恋だったんだ……」


「…………」


「…………」


互いに照れまくって時間だけが過ぎていく。

告白する前に地平線に接するだけだった夕日は、もう半分くらい沈んでいる。


「……じゃ、じゃあそろそろ帰ろうか。」


「はい、帰りましょう」


そうだな、帰ろう。

さっきまでみたいに手をつないで。

でも、これまでと違うのは、俺から手を差し出したこと。

俺が恐る恐る差し出した手に、桜ちゃんはしっかりと指を絡めて、そして二人で歩いていく。


幸せを踏みしめつつ、一歩一歩。

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