俺、動揺する。
ひとしきり頼み終えた桜は、満面の笑みを浮かべている。
それを見た俺はすごく可愛いと普通の感想を抱く反面、なぜか不安に思えてきた。
女の子の笑顔に不安を感じたのは人生で初めての経験だ。
いや、そもそも女の子に笑顔を向けられたことなんて数えるほどしかないんだけどさ。
そんな俺の不安は的中することになる。
ほどなくして、それはテーブルの上に置かれた。
「お待たせしました~!『ラブラブカップルに送る甘々トロピカルドリンク』になります!」
…………?
ラブラブカップル…………
ラブラブ…………
ラブ…………
頭が上手く回ってないのか、店員さんは恥ずかしくないのかな……とか、トロピカルと言うからには夏限定なのかな……とか、現実逃避になっている。
桜ちゃんを見ると、イタズラを成功させた子どもみたいな顔をしている。
後輩に手のひらの上で踊らされたみたいで悔しい……
少し落ち着こうと運ばれてきたグラスに目を向けたが、俺は再び動揺することになった。
なんで1つのグラスに2本もストローが刺さってるんだ!?
俺が知りえる限りではグラス1つにつき1本のストローを刺すんじゃなかったっけ!?
……現実逃避しているのは分かってはいるが、こういうのって恋人同士で飲むやつで、それこそ『ラブラブカップル』が飲むやつだよ。俺らが飲むものじゃないよ……
一縷の望みをかけて尋ねてみる。
「桜ちゃんはこれ、良いの?」
「何がですか?」
うっわ、楽しそーに笑っていらっしゃる。
それはもうすごく楽しそうに笑っている。
まあ恥ずかしいが、桜ちゃんが楽しいなら良いか。
……でも、さすがに桜ちゃんだって分かってるはず。
分かっててこれを頼んだってことは、つまり……
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