俺、魔境へ行く。

特筆すべきことは何もなくウィンドウショッピングは終わった。

強いて言えば、桜ちゃんに何回か「これ、似合いますか?」って聞かれたことくらいだろうか。

見栄を張って「欲しい服あったら買うよ」と言ったが、「特にこれと言ってないんですよね。」とのことだった。


女の子の買い物は長いと聞いていたが、思ったほどではなかった。

人によりけりなのか、俺に気を遣ってくれたのか。

もし気を遣っていたのなら、何から何まで申し訳無くなる。

でもそんな様子はおくびにも出さず、桜ちゃんは笑顔で話しかけてくれる。


「先輩、近くに評判のカフェがあるらしいので行きませんか?」


今は午後の3時を回ったところ。

元から桜ちゃんのプランに乗っかっているだけだし、異論はなかった。


「うん、じゃあ行こうか。」


それにしても、桜ちゃんはかなり優しい。

律儀にお礼ということで今日という日を設けてくれたし、いろいろと気を遣ってくれるし。

さらに、かなり可愛いということも考えると俺の好みどストライクなのでは……


意識してしまうと手を繋いでいるのが恥ずかしくなって、体温が上がったような気がした。

手汗大丈夫か……?


◇◇◇◇◇


やってきました、評判と聞かされたカフェ。

なるほど、確かにオシャレだ。

ただ、やけにカップルが多い。

よって俺には魔境にしか見えない。


桜ちゃんは知っていたのかと思い隣を見ると、今日一日見せてくれている可愛い笑顔が目に入った。

特に動揺していないようだ。

これは来る前から知ってたのか、男女がカップルだって気づいていないのか。

おそらく前者だろう。

でも、それならなぜ誤解される危険性を無視してこんなところに来たのか気になる……


頭の中を渦巻く動揺やら疑問やらを置いてけぼりにして、桜ちゃんは俺の手を引いて魔境へと入っていった。

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