forming 第1話

紅葉が散りはじめ、寂しさを感じさせる季節。冷たい空気が漂い始める秋。紅葉の色鮮やかさに見惚れていたのも束の間、物悲しい気持ちになる晩秋。


季節だけが寂しさを醸し出す訳では無く。

自分の気持ちが、ただ寂しいだけなのかもしれない。

ついこの間までは、あんなに楽しく時間を過ごせていたのに。

自分の勝手な思い過ごしだけなんだろうか?自分が抱いている気持ちを抑えきれないだけなんだろうか?


この小さな街に来て初めて、切なさと淋しさを味わった気がする。

何もわからない、誰も知らないこの街に来て素敵な人達に出会い、この街の良さを知りこの街に慣れ、落ち着いてきたのに。

慣れ親しんできたからこそ、寂しさを感じる様になったのだろうか。

そして もっと楽しく、もっと仲良く、という欲が出てきたせいだろうか?


正直、アキさんユウさんの本音が知りたい。

カオリさんともあれ以来会っていない。段々と会うきっかけを見失っている。普通に会えば何て事ないだろうに。

先生 (マサユキ) に嫉妬なんだろうか、駄目だな自分は…… 器が小さくて。カオリさんの事 好きなのに、それすら表現できずに……


大人になればなるほど、素直に表現できない。見栄や安いプライドが、気持ちを抑制してしまう。ある意味経験上からくる自己防衛なのだろうが……


ただ黙々と仕事をこなす日々。

一時の忙しさからは、解放され仕事も落ち着いた感じ。段々と冬に向けての準備を始める仕事先の人達。人も畑も賑やかさを失っていき始めた。


そんな落ち着きが出始めた時。


訃報が……


仕事先の大事な顧客であり、自分に釣りを教えてくれ、公私共に仲良くさせて貰ってた農家の三代目。

その三代目のお父さんが、事故に遭い亡くなってしまった。

三代目は自分と歳は、あまり変わらない。

その父親が亡くなると言う事は、自分の父親を亡くす事の様なもの。自分の父親もそれなりに歳は取ってはいるが、いざ失うまでは想像できない。

まだまだ元気で、三代目に仕事を教えながら現役でバリバリ働いていたのに。


三代目、大丈夫かな?


早速、会社から手伝いに行く様に言われ急いで三代目の所へ。

お通夜や告別式は、まだ後になる様なので急ぎの手伝いは無かった。

意外に三代目は、落ち着いていた。


「わるいね、マコちゃんまで手伝いに来てくれて」


「この度は、何て言ったらいいか…… 突然で。三代目も…… 」


三代目のお父さんにも、良くしてもらってたので…… いざここに来ると何も言えなくなった。


「しょうがないよ…… 事故じゃねーー 今年は、夏に水害があったりして忙しかったけど、やっと落ち着いてきた矢先…… 」


流石に話を始めたら、辛そうな三代目だった。


「親父さん一人で車、乗ってたんですか? 」


「そう。仕事落ち着いたから一人で病院行った帰り。まさかね、事故に巻き込まれるなんてね」


賑やかな三代目の家族一家だったのに、静かでひっそりとしていた。元気な子供達も。


近所の農家さんや親交のある人達も沢山来たおかげで、自分達がお手伝いする事は余り無かった。

それだけ三代目のお父さんが、周りの人達に信用され親しまれていた証。


三代目は、集まってくれた人達に一人ずつ丁寧に頭を下げていた。お通夜も明日になったので、気を遣わせないよう自分達は会社に戻った。

帰り際、三代目の広大な畑を見て、これからは三代目が一人でこの畑をやっていかなければいけない……

そう思うと、より一生懸命仕事やらねばと自分に言い聞かせた。


ツラい夜だった。

もし自分がそういう状況になった時、三代目の様にしっかり対応出来るのだろうか? 誰にでもいつかは起こり得る状況。


家族では無いが、アキさんはその状況と変わらない事を二度も経験している。

それも愛した人を……

自分には計り知れない辛さが、あって当たり前。体を壊しても、しょうがない。

早々、忘れられない、引きずっていて当然。


でも今は、一生懸命生きてる。


みんな凄いな。


久々に実家に電話を掛けた。


次の日。夕方からお通夜に出る為早めに会社を出る。

沢山の人達が来ている為、会社の方で少し手伝いをする事になり、駐車係のお手伝いを。

小さな街のお寺が、車でビッシリ囲まれていた。

そんな中、ユウさんが来た。

「ご苦労さん、マコちゃん。参ったね、突然で」


ユウさんも三代目の事は、良く知っていたのでショックを受けていた。


お通夜も告別式も滞りなく……

三代目は、常に気丈に喪主として対応していた。


ただでさえ寂しい気持ちの自分だったのに悲しい出来事があり、より寂しく。


夜、アキさんの店に行った。


アキさんは、一人で革にミシンを掛けていた。

ミシンの音が響いていたが、アキさんはとても静かに作業をしていた。


「お葬式行って来たの? 大丈夫? マコちゃん」


自分を気遣ってくれるアキさん。

自分がアキさんの店に来た理由を察して、気遣ってくれている。


「アキさんは…… つよいですよね」

思わず、アキさんの辛かった過去が過ぎり言ってしまった。


「ん? 何が? 強くは無いけど」


「あ、いえ。すいません。何か色々ツラくて…… つい」


「強い人なんていないよ。みんな同じ。もしオレが強い人間なら、こんな生き方してないよ」

やはり自分の気持ちを察してくれてるアキさん。


「自分は、あんなにしっかりしていられるのだろうか。自信無いな〜〜 」


「しっかりする必要は、ないんじゃ無い? 自分の経験から言えば、大事な人になればなる程その場は、意外と普通な感じだった

。勿論、その後はすごく悲しいし、辛いけど」


説得力があった。

ユウさんから聞いた話で余計に……


こんなに穏やかな感じに見えるのに、心の奥ではツラい日々を送っているアキさん。


自分は小さな事に拘り、つまらないやら寂しいやら愚痴ってばかり。


情けない。


「アキさん! 自分、カオリさんの事…… 好きです。でもアキさんとカオリさんにも上手くいって欲しいんです。矛盾してるけど…… アキさんは、カオリさんでは駄目なんすか? 」


言ってしまった。何を言っているんだ自分は……


「おーー、やっと言ってくれたか。じゃ、これからはライバルって事で宜しく! 」


アキさんが手を止めて言った。

……ん? やっと言って? って。

そんなに自分、バレバレでしたかね?


「マコちゃん! ライバルは多そうだよ! あの幼馴染の先生やら役場の人やら」


先生か〜〜。えっ、役場の人? 知らなかった。

流石、女王! 男を惑わしますな〜〜。


でもアキさん。

どうみてもアキさんに勝てる自信が……

ないっす。せめて少しハンデを……


第1章 終

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