ferment 第2話

竹山 雄一たけやま ゆういち。46歳、既婚、息子が1人。

ユウさんと呼ばれてる。目上の人や同級生からは、ユウとかタケちゃんとか言われる事もある。何故か、アキだけは昔からユウちゃんと呼ぶ。


アキとは高校生の時からの付き合いだが当時は、そんなに親しく無かった。仲が悪い訳では無く、互いに家が溜まり場だったので意外に一緒に遊ぶ事は少なかった。


高校を出て、この地を飛び出し大きな街へ出て料理人の世界に飛び込む。

周りの友達は大学やら専門学校へ。

料理人の世界は休みが平日だったので、段々と友達とは疎遠に。

そんな中、早々と専門学校を中退した

アキ。当時のアキは、明るくて軽くて少しチャラかった。

ただ、おかげで急にアキと遊ぶ機会が増え仲が凄く良くなった。


二十歳ハタチ過ぎ、アキは飲み屋で働いていた。俺もその店に通いアキにとって俺はいい客だった。

まさか、その十何年後には逆の立場になってるなんて。

意外にも当時は、長い年数遊んでた訳じゃ無かったが若い頃の時間は、とても濃密で楽しく無茶な遊び方をしていたので印象に残ってる。


ただアキが突然、別の地に移ってしまい、疎遠どころか連絡すら取れない間柄に。


丁度、俺も家族の事情で故郷のこの地に戻って来る事に。地元の居酒屋で働きながら、30過ぎに自分の店を出す事ができた。

元々は料理人志望だったが、地元の居酒屋で働いていたせいか飲み屋をやる事にした。


アキとは全く逢う事は無かった。一度、居酒屋で働いていた時、噂でアキの話を聞いた。

丁度、アキが別の地に行った後の事だが

当時の彼女絡みだったそうだ。何となく当時のアキの彼女は覚えていた。可愛いくてお嬢さんっぽい。

その彼女を見る事が少なくなりアキも彼女の話をしなくなった途端、アキは何処かへ行ってしまった。噂によると彼女が重い病気になり、専門の病院が有る所へ移った。

それにアキが一緒について行ったらしい。

ただ彼女はその後、人生を全うする事なくまだ若い年齢で逝ってしまったらしい。


それでアキが、体力的にも精神的にも窶れてしまい大変みたいという話だった。


俺の知ってるアキは、元気で前向きな奴なので大丈夫だろう。俺が故郷で店をやってれば、そのうち逢えるだろうと……


自分の店をやり始めた頃、いまの奥さんに出逢った。それまでは余り 女っ気が無いと言うかモテなかっただけだが、奥さんとは割とスムーズにいった。


三十半ばで結婚した。


結婚となるとスムーズでは無かった。

奥さんは一つ年上、バツ1 だった。

今、いる息子も奥さんの連れ子。

自分がいきなり奥さんと子供の責任がもてるのか?まだまだお店の経営も不安定だし。不安もあり悩んだが、思い切って籍を入れた。奥さんも別の仕事を持ち家計を安定させてくれたので何とかやって来れた。


子供とは、上手くやっていけてる。

奥さんが結婚前に病気で子供はもう無理そうという事に。自分の子は仕方ないが、その分息子を自分なりに一生懸命育てたつもり。すっかり大きくなり自分が何かしてあげる事すら無くなった。


この中年と呼ばれる歳になり、平穏にやっていけるかなと思っていたが甘かった。

子供がまだ少し手のかかる時は、子供の事で揉め今はお互いの事で揉める時が多い。


何処の家庭も同じだよ! とよく言われるが、やっぱり揉め事は辛い。自分が悪いと分かっていても歳のせいか、認めたくないし頑固になる。夫婦はお互い様の所もあるのでそれぞれ分かっているのに。


そんな時、開店前の店のドアを開けようとした音がした。カギが掛かっていたので慌ててカギを開ける。


アキが立っていた。


かれこれ15年いや、もっと経つか。

そんな長い時間が過ぎていた筈なのに、アキは変わっていなかった。

余りの急な訪問に


「おーーい。どうした! びっくりするなーー 」

と言ってしまった。


「ゴメン。いきなり来て…… 」

見た目は変わってなかったアキだか、その一言を聞いた時、何か変だった。


昔のイメージがまるで無い。元気が無く、とても静か。歳をとり変わったのか?


とりあえず店に招き、話を聞いた。


別に故郷に戻ってきた訳じゃ無く、一時的に帰って来ただけだった。

色々聞いたが、昔の彼女の事以外もかなり大変な経験をして来たらしい。それなりに楽しい時期も過ごせてきたらしいが、最近またとても辛い思いをしたらしい。


アキは

「逢えるときに逢っておこうと思って、思い切ってここに来てみた」


その、あまりの憔悴ぶりからアキの言葉が何か意味ありげに聞こえ思わず、


「コッチに帰ってこい! 何も考えないで帰って来い! なんとかなるから…… 」

と、言ってみた。


アキは少し、うつむきながら…… 軽くうなずいた。その日を機にアキと連絡取る様にして、なるべく気に掛けた。


アキがここに戻るまでは、それから暫く経った後だったが、無事この街の住人になって安心した。戻って来た直後は、まだまだやつれていたけど店をやるって言ってからは、少し明るさを取り戻した。


俺は商売柄、色んな人を見てきたり噂話や相談事もあるが、やっぱり同級生は特に気になる。他人の事ばかり構ってる場合では無いけど……

アキもそうだけど、歳を重ねると色々ある事を実感する。

夫婦なら尚更。所詮は他人同士の仲。

いろいろありながらも最終的に上手く落ち着けば良いかな。


楽観的すぎるかな……


ともあれ 今、アキとかカオリとかマコとか…… 昔、アキと遊んだ時の様に楽しく濃密な時間を過ごしている気がしている。


あの時と違うのは俺もアキも歳を重ね見事な中年オヤジで酒も弱くなり、朝目覚めるのが早くなり、携帯の文字も離して見る老眼と白髪の量に日々戦っている事かな。



第2章 終

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