mixing 第7話

あの雨の日。カオリさんに [マコちゃん]と、呼ばれてから何か少し変わった。

何が変わったかは、分からないが周りの人達の対応なのか自分自身の対応なのか。確かに [マコちゃん] と呼ばれる事が増え、少しこの街に受け入れて貰った感じがした。


ある日少し残業になり、帰りにコンビニに行きお弁当を物色していたら、

「何を食べるのかな? マコちゃんは」

振り返る事無く、そんな言い方で声を掛けてきたのはあの人だけだとすぐ分かった。

「今晩は〜〜 」と互いに挨拶。

「仕事、大変そうね〜〜 こんな時間まで」

カオリさんが、初めて⁈気を使った言い方。

「大変じゃないけど、カオリさんは役場だから9時〜5時ですか? 」

「実際は9時〜5時じゃ無いけど、大体ね。 ていうかタメだから敬語やめようよ」カオリさん。

「あっ、うん。じゃ遠慮なく」なんか嬉しい自分。

「この時間に1人で買い物? 」


「この時間て、まだ9時前。(笑)…… 実はね、アキさんとこ行ってたんだけど仕事の片づけで相手して貰えなかった…… 」

目をそらしながらカオリさん。


「アキさんとは…… えーと」また余計な事を、アホな自分。


「結構、グイグイいってると思ってるんだけどね〜〜 相手にしてもらえない? みたいな? 只のストーカーかな? やっぱり」照れ笑いしながらカオリさん。


「そうなんだ…… アキさんて、よくわからないけど誰かいるのかな? 女性。いても不思議じゃないけどあまりそんな影、感じないから」微妙な気持ちの自分。


「いないみたいよ。今は。でも何か訳ありっぽいけど。こっちに戻って来た事も関係あるかもね」

「[ピッグペン] のマスターは、その辺知ってるみたいだけど教えてくれないし」 「う〜〜ん。謎、だよね」と、口元に指を押し当てながらカオリさん。


その後少しモヤモヤした感じのままお互い家に帰る。


そういえば、なんか過去にあったみたいな事ユウさん言ってたしな〜〜

ユウさんにも、無論アキさんにもきける訳無いし。自分が口出す事じゃない!

人には色んな事がある! と強気の姿勢。

でも、やっぱりカオリさんアキさんの事好きなのね〜〜 。

強気の姿勢が直ぐに崩れた。


歳が同じ事もあり、カオリさんとは結構仲良くさせて貰っていた。まぁカオリさんはアキさんの事がアレなので自分の事は男というよりタメの友達的な存在。

自分は、あわよくば的ではあったがなるべく意識はしない様に振舞った。


カオリさんという同い年の友達。アキさんとユウさん。会社の同僚。など、すっかり良い人達に囲まれ楽しい日々を過ごせていた。


…… ある日、15日の夜。会社の人達とご飯を食べ、その後1人でユウさんの店 [ピッグペン] へ。

カウンターの端にアキさんが1人で飲んでた。何故かユウさんと会話を交わす事無く、静かにウィスキーをロックで飲んでた。いつもは水割りかハイボールで飲んでたのに、何かいつもと違った。

アキさんとユウさんの雰囲気も違う気が…… その雰囲気にのまれ、アキさんと少し席を離れて座った。

アキさんはいつもウィスキー。それに憧れて自分もウィスキーを飲む事が増えた。ユウさんが水割りを作ってくれながら、たわいもない話で自分に付き合ってくれた。まるでアキさんをそっとしてあげて。と、言わんばかりに。


チラッとアキさんを見ると結構お酒が進んでる。何か嫌な事が、あったのだろうか? そんなに飲んで明日、お店大丈夫なんだろうか? 何気なく小声でユウさんに聞いてみた。

「大丈夫ですかね? アキさん。明日お店あるだろうに」


「大丈夫。店は明日は休みだろうし」

ユウさんがボソリと答える。


「明日、土曜なのに休みなんすか? 」

そう自分が訊いたが、ユウさんは静かにうなずくだけだった。

今の自分に出来る事は、そっとこの場から帰る事。と思い席を立つ。


初めて見るアキさんの姿。気になる。

カオリさんは、どう想うんだろう。でもこの事はカオリさんには内緒だろう。

自分が言う事じゃないし。

たった1杯の水割りしか飲まなかったが、いつまでもウィスキーの味が残っていた。


第7章 終

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