最終章・因縁の相手との決戦

第43話 マコト、直訴をする

 カルムでの調査(休暇)を終えて、一行はフィエルテに戻ってきた。


「おお、皆さん、無事でよかったですな。出勤は明日からじゃなかったのですかな?」


 職場の前に先に入ったカフェ・ジェラニウムにて日替わりランチのキッシュプレートを食べながらマコト達は答える。


「ああ、本当はそうなのだが、急ぎの報告があるから、飯食ったら出勤さ」


「そ。調査したのは私だから報告書は私が出す必要があるからね。あ、おじいちゃん、お土産はカルムのお塩と貝の干物、カルムのお酒ね。晩酌の友にしてね」


「おお、ありがとうな、チヒロ」


 フィルじいさんはニコニコとお土産を受け取る。意外と酒好きのようである。


「フィルさん、お休みをありがとうございました。私も心ばかりのお土産です」


 そういうとタマキはカウンターの中に移動して、大きめの黒蝶貝でできたブローチのようなものを出してきた。


「マントを留めるアクセサリーです。この世界の流行りがよくわからないので、市場の方に見立てていただいたのですが。災いを避ける縁起物だそうですよ」


「おお、これはこれは見事な細工ですな、ありがたく使わせていただきますぞ」


「ええ、こないだのメダイのお礼も兼ねまして。男性のアクセサリーを選ぶのなんて久しぶりでしたわ」


「いえいえ、そんな気を使わなくても」


「いいえ、男性の流行りとか知ることができて楽しかったですわ」


 なんだか、いい感じである。チヒロはそっとマコトをじと目で見ながらため息をついた。


「はあ、おじいちゃんまで春なのかしら。アレク様も既婚者、ブルーノ様も結婚する……この変態と独身連盟を作るのはなんだしなあ」


「勝手に変態にするなって言ったろ」


「はあ~あ」


 盛大なため息をついているチヒロのそばでランチを食べ終えたマコトはカバンをごそごそとして、何かを取り出している。


「じゃ、これ、どうすっかな。おばちゃんの姿の時に聞き込みついでに買った奴だけどさ。やろうと思ったけど、変態からもらってもうれしくないよな」


 マコトは取り出していたのは、カルム特産の貝を使ったブローチ。中心はピンクシェルのような桜色の貝で作ったプルメリアに似た花、周りは白蝶貝で作った小花を散らしたデザインだ。


「娘に買うと言ったから、ちゃんと若向きのデザインなんだけどなあ。変態からじゃ、要らないか、そうか。ばあちゃんにプレゼントするか……」


 そう言ってカバンに戻そうとしたその時、がしっと手首をつかまれた。


「誰が要らないって?」


「え? いや、俺のこと変態呼ばわりしているから貰っても嬉しくないだろ?」


「も・ら・っ・て・あ・げ・る・わ・よっ!!」


 そのまますごい力でカバンから手を引き出され、ブローチを強奪された。


「そうよねえ、あの調査であわただしくなって買いそびれてたから、ちょうどよかったわ。ピンクカルム貝って、とっっっても硬くて細工が難しいから高いのよ。うん、綺麗ね。市場の人のセンスに感謝だわ」


「俺への感謝は無いのかよ……」


 そんな二人をフィルじいさんとタマキは微笑ましく見ていた。


「仲いいわねえ、あの二人。でも、うちの孫でいいのかしら」


「まあ、そこは生暖かく見守るのがいいですぞ。まあ、うちの孫はマコトさんの好みから外れているとは思いますが、理想と現実に付き合う人は違ってきますからの」


「フィルさんも、さらっとえぐいこと言いますわね」



「ふむ、調査報告書はこんなものか」


 チヒロからの報告書を読み終えたアレクが渋い顔をしてマコト達に問いかけた。


「さて、元勇者の不正を暴いたこと及び強制送還はよくやったと言いたい。だが、タマキ殿が調査に加わっているのはなぜだ? そして、なぜ大叔母の家の警備隊が捜査に協力しているのだ? 答えによっては処分モノだぞ」


「その報告書にあるのが全てです。ばあちゃんの暴走はギリギリ食い止めたのだし、安全は確保したからそれで勘弁してほしい。あ、いや、処分はきちんと受けます」


 予想に反して毅然とした態度で受け答えしたマコトにアレクは面食らってしまった。


「それより、カウルーンの暗躍は思った以上に深刻だ。このままでは隣国アルコンがこの国を侵略しかねない」


「しかし、カウルーンはカルムを拠点にしているのではないか? 確かに貴族は多いが、ターゲットは行きずりの観光客であって、国の弱体化を狙うとは現実的ではない気がする」


「いえ、ヒガシと、警備隊が取り押さえたヒガシの家を張り込んでいた組織の人間の供述によると、カルムはテストケースであり、この首都フィエルテに拠点を移しつつあるそうです」


「む……」


「知識が浸透し、医学が発達した俺の世界でも麻薬に一度手を出すと体を蝕み、最悪廃人となり死んでしまう。この異世界だと、麻薬に関する知識がないから、あっという間に蔓延して中毒患者が増えて崩壊してしまうでしょう。俺の世界でも数千年の歴史を持った大国がそれで滅びました。銃にしても剣や弓が基本のこの世界ではあっという間にやられてしまいます」


「確かにそうだ。応急措置として警備の強化は王に提言しておくが」


「そこで、俺に提案があります。先ほどの規則違反の処分の話、休暇中に関わらず仕事をしていたこと、祖母とはいえ情報が流出したこと、アレクの親類の警備隊とはいえ外部の人間に捜査させてしまったこと、このままお咎め無しとは思えません」


「あ、ああ、確かにそうだ」


 マコトが真面目なことを言っているので、アレクもさすがに薄気味悪く感じているようだ。


「だから、俺を元の世界に強制退去にしてください」

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