第19話 マコト、ハートブレイクして燃え尽きた灰になる

 どうにか、衛兵たちに連絡し、一行の連行をお願いした。

 彼らは魔王がいると聞いて、びくびくとおののいていたが、魔力や攻撃力などはないことを伝え、女性の衛兵を連れてきてもらい、連行されていった。それらを見送ると三人は肩の力を抜いて一息ついた。


「あの魔王、女には通用しない手口よね、エマさん」


「ええ。あんな簡単に泣き真似をしているのに、なんで見破れないのでしょうね」


「魔王の角って、切ってもすぐに伸びるらしいですよ。きっと『あなたのために切るわ』とか言って切ったのでしょうね」


「まあ、それはあれですね。異世界のニホンの売春婦が客に忠誠を誓う指詰めみたいなものですか? 偽物の指を沢山用意しておくという」


「エマさん、物知りですね」


「ええ、昔、とある勇者から聞いたことありますの。それにしても、今回の勇者さんやパーティーの皆さんは女性に免疫がなかったのですね。勇者ならチーレム状態になるだろうから、女性にモテたと思うのですけどね」


 女二人で盛り上がっているので、マコトは会話に割り込む。こうでもしないと、エマとなかなか話せない。


「さあな、俺の世界でもイケメンの元スポーツ選手が40過ぎても独身で、アイドルグループにハマっているからな。世の中わからんよ」


「そういえば、マコトさんはカトリーヌの色香に惑わされませんでしたね」


 エマに微笑みかけられ、マコトはドキッとする。そりゃあ、そばにこんなに綺麗なエルフがいたら、魔王なんて目じゃない。胸はカトリーヌの方が大きかったが。


「そ、そりゃあ、元の世界にもああいう輩はいっぱいいたから、沢山見ているし、だまされないように心掛けているからね」


「まあ、心が強いのですね」


 なんだろう、この流れ。もしかしたら、告白なり、お誘いなりするチャンスなのかもしれない。出張もあと一日。明日でお別れだ、その前に……!!


「え、エマさん、あのっ!!」

「エマ!!」


 唐突に声が被った。振り向くと支部に残っていたはずのジョゼさんが駆けつけていた。


「大丈夫だったか? エマ。俺、心配で」


「ああ、大丈夫よ、あなた。マコトさんのおかげで仕事はうまく行きました」


「俺、本当に心配で。しかも今回は勇者が魔王を連れているというから、万一のことがあったらと思うと、居ても立ってもいられなくて」


「あなた、心配なのはわかりますが、公私混同ですよ。マコトさん達も困っているじゃないですか」


 ジョゼはエマの手を取り、本当に心配げな様子で優しく彼女を見つめている。


 あれ? なんか、この雰囲気はカップルが醸し出すものだとマコトは感じた。もしや……嫌な疑念がマコトの中を駆け巡る。

 それを見て冷ややかにチヒロが言い放つ。


「エマさんとジョゼさんは婚約しているそうよ。再来月に結婚式を挙げるのですって」


「な……!! チヒロ、知ってたのか?」


「魔法講習中の雑談でね。残念ねえ、エルフとラブラブの夢が破れて」


 ……なんてことだ、最初から失恋確定だったのだ。そりゃ、いちいち仕事の相手に独身だの既婚だのは言わないとはいえ、まさか職場恋愛して婚約者がいたとは思わなかった。


「とどめを刺すようだけど、エマさんは八十三歳、ジョゼさんは九十二歳よ」


「なん……だと?!」


 エルフは長命だから年齢も人間の倍あってもおかしくない。だが、自分の祖母よりも年上の女性に淡い恋心を抱いてたのかと、マコトは心が折れる音を聞いたような気がした。


「まあ、相手の方がいろいろ上だったのよ。ほら、そこで燃え尽きた灰みたく突っ立ってないの! 行きましょう、心が強いんでしょ! ユーリさんが舞台を観に行けるように支部へ戻らなくっちゃ」


「はい……」


 こうして、勇者ナカヤマの在留資格審査は摘発という形で完了となったのであった。

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