魔王を見つけたら勇者組合までご連絡ください。

池田あきふみ

勇者レポート1. 魔王を探せ!


 魔昌暦329年――この年、“勇者組合”と名乗る一団によって“魔王”と呼ばれた最後の一族が滅ぼされた。

 そうして、この世界の“魔王”は絶滅し、世界には平和が訪れた。


 歴史書にはこう記されている。


 しかし、は知っている。

 ――王立魔術士養成学校。

 この学校に、最後の“魔王”が在籍している事を――。


 

---



「だりぃ……」


 新学期初日。

 俺はスーツのような制服に窮屈さを感じながら呟いた。


 教室に入ると、面白くも無い見知った顔ぶれが、ガヤガヤと騒いでいた。

 俺はその中をズカズカと突っ切って、窓際の自分の席にドカッと腰かける。

 すると、前の席に座っていた男が俺を見た。


「チッ……新学期早々見たくない顔を見てしまった。

まさか貴様のような落ちこぼれが進級できるとはな」


 早速悪態をついてきたこの男の名はAlbertアルベルト Blancheブランシュ

 皆からはアルと呼ばれている。


「不快にさせて悪かったな。

 お詫びにこれやるよ」


 俺はポケットに入っていた木の棒きれをアルに手渡した。


「何だこれは、ゴミじゃないか」

「てめえ、ゴミだと?」

「ああ、いやすまない。

 ゴミじゃないのか? 

 ……もしかして魔道具マジックアイテムか何かか?」

「ああ。

 俺は、春休みにちょっくら“ラディースヘン”に旅行に行っててな。

 そん時のお土産だ」

「お土産だと!?

 貴様が……僕に?」

「……お前とは何だかんだ長い付き合いだしな。

 それを拾った時、お前の顔が思い浮かんだんだ」


「……カイル、僕はお前のことを勘違いしていたかもしれない。

 お土産だなんて、まさかお前にそんな気遣いができるとはな……。

 ――って待てよ……。“拾った”?」

「ああ。

 それは森の中を歩いてる時に拾った奴だ」

「ってやっぱりゴミじゃないか!」


「ゴミじゃねえよ。

 使い道はいくらでもある。

 例えば、その棒の近くにはう〇こが落ちててな。

 俺はそれを使って……」

「もういい!!

 貴様が僕を怒らせたいという事はよく分かった。

 表へ出ろカイル!」


 アルはそう言って俺の胸倉につかみかかる。

 俺はそれを手で制そうとしたが、逆に払われた。

 相変わらず無駄の無い良い動きだ。


「無駄だ。

 落ちこぼれの貴様と、学年主席の僕じゃあ勝負にならない。

 僕の組手の成績は知っているだろう?」

「――ハッ。

 勝負はやってみないと分からねえぜ。

 言っておくが俺はどんなに惨めで卑怯な行為でも平然とやる男だ」

「……自慢げに言う台詞じゃないな。

 どうして貴様のような輩がこの学校にいるのか僕には理解できない」


 俺とアルが睨み合っていると――


「ハハ! 新学期早々やってらぁ。

 またじゃれてんのかお前ら」


 俺がアルの目を狙ってツバを吐こうとしていたところに、声をかけられた。

 チャラそうな茶髪の男だ。

 こいつの名はSiegwardジークヴァルト……なんとかだ。

 ファミリーネームは長すぎて覚えていない。

 ジークはまあ俺の悪友ってやつだ。


「じゃれてるだと!?

 僕と、こいつが……?」

「オレにはそう見えるけどな」


 ジークがそう言うとアルの顔が屈辱に歪んでいた。


「やーい、落ちこぼれの俺と同レベルー」

「僕がカイルと同レベル……?

 ありえない、それは……!」

「ははは。

おいジーク、もっと言ってやれ。

 アルは俺みたいなカスと争っている時点で負けてるんだってな」

「……いやカイル、お前もそれ自分で言っててむなしくなんねえ?」


 俺はこのクラスで自他ともに認める落ちこぼれだ。

 その点は事実だから別に虚しくは無い。


「落ちこぼれは落ちこぼれなりに、周りの足を引っ張るしか楽しみが無いのさ」


 俺はキメ台詞風に言った。


「うわあ……かっこ悪」


 今度は後ろから声がかかった。

 俺の後ろにいたのはLieselotteリーゼロッテ Dieselディーゼル

 薄紫の髪を後ろで束ねている。


「なんだリーゼ、いたのか。

……ん? お前髪型変えたか?」

「む、カイルが女の子の髪型に気づくなんて意外ね」


 1年の頃のリーゼはツーサイドアップだったが、今は長めのポニーテールになっている。


「どう?

 もう私も2年生だしちょっと大人っぽくしてみたの。

 似合ってるかしら?」


 そう言ってリーゼはふぁさっと髪を揺らして澄まし顔を作っている。

 確かに、前より大人っぽい印象になった。

 だが滲み出る内面は変わらない。


「大人ぶって後輩に先輩風吹かすつもりだろ。

 打算的な女だな」

「うるっさい!」


 げし、と椅子を蹴られる。


「いやー、似合ってるよリーゼちゃん。

 イメチェンって感じ?

 前の髪型も素敵だったけど、今もアダルティックでいいよ、うん!」

「うふ、そうかしら。

 私ももう大人の女って感じかな」

「ジークのお世辞を真に受けるな」

 

 こいつはどう考えてもアダルティックなんて言葉が似合う女じゃない。

 と思っていたら、また椅子を蹴られた。


「お前はアダルティックというよりドメスティックバイオレンスだな」

「意味わかんないし、うざい!」


げし!と今度は脛を直に蹴られた。


「ハッ、お前ごときの蹴りで俺にダメージを与えられると思うな」

「フンッ!」


 ズカッ!と今度は強めに同じ個所を蹴られる。


「効かねえって言ってn……」


 もう一度同じ個所を蹴られる。


「だから……」


 また蹴られる。


「おま、そう何度も同じ個所を……」


 ガンガンガンと連続で蹴られる。


「――ちょ、痛い、いた、いたたた、痛え!

 すみません、リーゼさんやめて貰えませんか!」

「フン、いくらあんたが頑丈でも、同じ個所を責め続ければダメージは蓄積するのよ」


 リーゼは勝ち誇っていた。

 ちくしょう。


「いやー、お前ら相変わらずで何か安心したわ」


 ジークがそう言って笑う。


「ほんと、カイルのアホは相変わらずね。

 2年に上がればもうちょっとマシになっていると思ったのに」

「おい、聞いたか、アホだってよアル。

 アホ同士仲良くしようぜ」


 俺は前にいるアルの背中を叩く。


「だから、僕を巻き込むなと言っているだろ!

 僕は貴様らと同じにされたくないんだ!」

「いいじゃないかアルベルト。

 オレはそうやって感情的になってるお前の方が親しみやすくて好きだぜ」


「僕は別に貴様らに好かれたくない!」

「はは、ほんと昔のアルはいつもぶっきらぼうでいけ好かない奴だったなあ」

「それは今もだけどな」

「いや、今より数倍嫌な奴だったぜ、昔のアルは。

 高飛車でプライドが高くて誰とも会話しなかったからな」


 ジークは俺よりアルと付き合いが長い。

 だから俺が出会う前のアルを知っている。


「……貴様ら、本人を前によくもそう平然と悪口を言えるものだな」

「本人がいなかったらただの陰口になるだろ」

「……ふん、僕にとってはそっちの方が慣れてる」


 アルはそう言ってそっぽを向いた。

 こいつは学年主席の優等生で、プライドが高い。

 しかも、他人を馬鹿にしてるフシがある。

 そんなこいつを見て、周りがどう思うかは推して知るべしと言ったところだ。

 陰口の一つや二つ、言われ慣れているということか……。


「……悲しいものだな、アル」


 俺はアルの肩をポン、と叩く。


「ええい、同情などするな!」


 ぶん、と手を払われる。


「アルがこんなに感情を見せるようになったのは、カイルに会ってからだな」

「俺に?」

「そうさ。

 カイルに会ってからは、感情を露骨に見せるようになった

 おかげでオレもこうしてアルと話せるようになったんだよ」

「なんだよ、アル。

 俺のおかげでロボットから人間になれたのか。

 感謝しろよ」

「……99%貴様に向ける怒りの感情だがな!」


「よっぽど相性が良かったのね」


 リーゼが言った。


「“悪かった”の間違いだろディーゼル!」


 それに素早く反応するアル。

 それだけは認めないという様相だ。


「まあ、いいじゃないかアル、また1年間仲良くしようぜ」


 最後にジークがまとめた。

 アルは「だから仲良くはしないと言っているだろ……」と疲れたように言っていた。


――バン!


 と扉が勢いよく開け放たれた。

 その音にクラスの人間が一斉に目を向ける。


「カイル・グレイス! カイル・グレイスはいるかしらー!」


 赤髪の女が俺の名前を大仰に叫ぶ。

 それを見てクラス全員が、「なんだあいつか……」と慣れたように目を逸らした。


 アーニャか……そういえばあのポンコツも同じクラスだったな。

 Anyaアーニャ Augustinオーギュスタン――このクラス一番の馬鹿だ。


「いたーっ!! カイル!」


 俺の姿を見つけるやいなや、指をさしながらズンズンと近寄ってくる。

 人様に指を向けちゃいけません。


「なんだよ、うるせえよ馬鹿」

「なんですって! 馬鹿に馬鹿って言われたくないわ!」


 それはこっちの台詞だ。

 アーニャに馬鹿と言われることほど屈辱的なことは無い。

 こいつは俺以上の馬鹿だ。


「おはようアーニャ。

 そんな大声だして、どうしたの?」


 リーゼが聞く。


「あら、おはようリーゼ。

 リーゼも同じクラスなのね! やったわ!」

「え?」


「それより、カイル!!

 またあなたと同じクラスになれたわね!

 これは宿命だわ!」


 ……何を言っているんだこいつは。


「きっと神はこのアーニャ・オーギュスタン様とカイル・グレイスの決着を望んでいるんだわ!

 ――真の“魔王”にふさわしいのはどちらなのか、今年こそ決めようじゃない!」

「……はあ」


 俺は溜息をついた。


「む、何よ! その溜息は!」

「あのな、俺は魔王になんてなりたくもねえし、なれねえよ。

 お前も魔王じゃなくてただのポンコツ半魔・・だろ」

「ポンコツ半魔ですって!

 私はいずれ魔王になる存在よ!」


 アーニャは魔人と人間の混血だ。

 自称魔王を名乗っているが、どう見ても人間の血が強い。

 ……それに、魔王は15年前に既に滅んでいる。


「去年の戦績は互角に終わったけど、今年こそはあなたに勝つわ、カイル・グレイス!!」

「互角? 違うな。

 俺とお前の成績は17勝8敗だ。

 アーニャ、お前は俺より格下なんだよ」


 俺はアーニャを見下ろし勝ち誇る。


「むむ……そんなの、ほぼ互角じゃない!

 今年のアーニャ様は一味違うわよ!」


 どこがほぼ互角なのか。


「ハッ! お前のようなポンコツが俺に勝てるわけねえだろ」

「ムキーッ! 今に見てなさいカイル!

 あなたにこのアーニャ様の足を舐めさせてやるわ!

 奴隷にしてコキ使ってやるんだから!」


 ムキーッって実際に口で言う奴を初めて見た。

 しかし、妙に似合っている。


「ああ、おもしれえ。

 俺に勝てたら足でも何でも舐めてやるよ」


 俺はこのポンコツにだけは負けないと決めている。

 こいつに負けたら俺の尊厳的なものが失われる気がするからだ。


「って、結局カイルもムキになってるじゃない……」

アーニャクラス最下位カイル下から二番目……なんて低レベルな戦いなんだ……」

「醜い争いだな」


 周囲の3人が口々に俺とアーニャを揶揄やゆする。

 俺をこいつと一緒にしないでほしい。


「あれ、そう言えばあんたたちも一緒のクラスなのね。

 凄い偶然ね!」


 アーニャが言った。

 ……こいつ、やっぱり気づいてないな。

 そもそもこのクラスは去年と誰一人変わっていない。


「アーニャ……クラス替えがあるのは中等部までで、この学校は卒業までクラスは一緒よ」


 リーゼが可哀想な者を見る目で言った。


 アーニャ……こいつは学校から配られた資料とかに一切目を通してないのだろうな。

 ……かくいう俺も見ずにすぐ捨てるが。


「そ、そういえば、そうだったわね!

 もちろん知ってたわよ!

 カイルが知っていることを私が知らないはず無いもの!!」


 アーニャは顔を赤くして首をぶんぶん振っていた。

 絶対嘘だが誰もそれに突っ込まない。

 アーニャ、可哀想な子……。


 っていうか、そんなところまで俺に張り合おうとするなよ。


「アーニャ、またリボンがずれてるわよ」

「ありゃ、ほんとだ」


 アーニャは自分でリボンを直そうとしたがぐちゃぐちゃになっていた。

 見てて不憫なほどに不器用だ。


「もう、私がやってあげるから、無理に引っ張らないで」

「わ、わかったわ」


 リーゼはそう言ってアーニャのリボンを結んでやっていた。

 ついでに寝ぐせも手で直している。

 ……まるで保護者と子供だ。


「2年になって、何かが変わると思っていたけど、何一つ変わらないな」


 ジークが言った。


「ああ、びっくりするほど見慣れた光景だ」


 俺もそれに頷く。

 こうしてリーゼがアーニャの世話を焼くのも、クラスの連中がいつも通り騒いでいるのも、全て1年の時から変わらなく続いている光景だ。


「僕はクラス替えしたかったがな。

 少なくともカイルがいないクラスに行きたい」


 アルが疲れたように言う。

 本心から出た言葉だというのが伝わってくる。


「俺はアルと同じクラスで嬉しいけどな」


 にっと笑う。


「はあ……」


 深いため息で返されてしまった。

 薄情な奴だ。


そんなこんなで、俺達がクラスの不変をしみじみ感じていると――


――ガララ


 教室の前方の扉が開いた。

 新しい担任のご到着だ。


「おっはようみんなー!

 さあさ、すぐ席についてねー」


 入ってきたのは客観的に見てかなり美人な女だった。


 あれが担任か。

 去年の無愛想なおっさんとは打って変わって爽やかな美女だ。


 クラス内の男子が一斉に色めきだった。

 その様子を見て女子は顔をしかめる。


「ヴえっ!」


 ……アーニャは席につこうとしてズッコケていた。

 パンツが見えているが見なかったことにしよう。



 ちょんちょんと、後ろから背中をつかれる。

 リーゼだ。


「何だ?」

「今年の担任すごい美人じゃん。

 カイル、嬉しい?」

「別に」

「ふーん。

 でも本心は嬉しいんじゃない?」

「別になんとも思わねえよ」

「……へえ、本当になんとも思ってなさそうね。

 ふむふむ、カイルさんは大人の女性は好みじゃないと」

「何でそうなる」

「カイルさんはロリコンと」

「……言ってねえ!」

「ハハ、冗談だって」


 リーゼはけらけらと笑っている。

 何が言いたいんだこいつは。


「ね、じゃあカイルは私の今の髪型どう思ってる?」

「……はあ? いいんじゃねえの」

「うわ、投げやり!

 そこはちゃんと答えてよ。

 女の子にとって髪型は重要なのよ?」


 ペンの先でちくちくと背中を刺される。

 ……痛い。


「痛いんだが……」

「カイルは大人っぽいのと、子供っぽいのどっちが好み?

 答えたらちくちくするの止めてあげるわ」

「……答えてもいいが、俺の好みでお前は髪型を変えるのか?」

「な、何言ってんのよ!

 別にカイルの好みに合わせるわけじゃないわ。

 自惚れないでよね!」

「自惚れてねえよ……」

「あくまで参考よ、参考。

 他の人がどう思ってるかって気になるものでしょ」

「俺は別に気にならんが」

「あんたのことはどうでもいいのよ!」


 酷くないかそれ。

 なんか理不尽だ。


「ほら、さっさと答えてよ」


 ちくりとペンでつつかれる。


「わあったよ。

 答えりゃいいんだろ、答えりゃ」

「うん」

「……俺はな、どっちかと言うと――」


「はい、ホームルーム始めまーす!」


 俺が言いかけて、遮るように声が響いた。

 教壇に立った女の声だった。


「チッ……」


 リーゼがあからさまに舌打ちしていた。

 俺は背中の痛みから解放された。

 よかったよかった。


「そうね、まずは私の自己紹介から始めますね!」


 ニコッと爽やかな笑顔だ。

 その笑顔にてられて、どっかの男子が「カハッ!」と呻いた。


「私の名前はOliviaオリーヴィアAiblingerアイブリンガーです。

 今年からこのクラスの担任になりました。

 よろしくね!」


 最後にパチッと星がでるようなウィンク。

 およそ教師らしくない振舞いだ。

 まるでアイドルだな。


「あー! 俺このクラスで良かったあー!」

「おい、オリヴィアちゃん今俺に向けてウィンクしなかったか……?」

「馬鹿野郎俺だ!」

「ああ、神に感謝を……」

「デュフw オ、オリヴィアたん中々萌えポイント高いでござる デユフォウww」


 クラスの男子が騒ぐ。

 神に感謝するやつまで現れるとは。


「こらこら、静かにー!

 私はこう見えても上級魔術師ですからね。

 悪い子にはおしおきしちゃうぞー」


 そう言って教師オリヴィアは“魔術媒体”と思わしき杖を顔の横に上げている。

 ……あの若さで上級魔術師か。

 見た目と違って実力は本物ってことだな。


「可憐だ……!」

「オリヴィアちゃんにならおしおきされたい……!」

「オッフw オ、おしおきと来ましたか……これまた乙でござるなww」


 ……どうやらこのクラスには変態が多いようだ。

 オタクのピートに至っては何かデュフデュフ言っている。

 ピートは何故か暑くもないのに、いつも汗で顔がテカっている。


「ちなみに私の“魔術適性”は『黒』。

 魔工学の授業を担当してるからねー」


 黒魔術士で魔工学担当となると、魔工士系の資格も持ってそうだな。


「さて、じゃあ私の紹介はこの辺にして――

 クライヴくーん、入ってきていいわよー」


 オリヴィアが教壇から廊下に向け言った。


 廊下に誰かいるのか……?

 ……全く気配に気づかなかった。


「ぁ、どうもー」


 覇気の無い声で猫背の男が入ってきた。

 ボサボサの黒髪、よれよれの制服、目が隠れるほどの長い前髪。

 ――見るからに根暗そうな男だった。


「じゃあ、クライヴくん

 皆に自己紹介と挨拶をお願いします!」

「ぁ、はぃ……」


 そいつは聞き取れないほどの小さな声で返事をしつつ、後ろ頭をポリポリ掻いていた。


「ぇー……、あー……。

 BradfordブラッドフォードCliveクライヴっす……。

 よろしくお願いします……」


 教壇に立つそいつを、クラスの連中はつまらないものを見るような目で眺めていた。

 女子生徒の一人が「それだけ?」と髪をくるくる巻きながら言う。


「あー……、ちなみにオレ“勇者”っす」


 何……?


その言葉に「え?」と女子生徒が反応する。


「あー……これ言っちゃまずいんだっけか。

 まあいいや」


 『勇者』と言ったか……?

 

 周囲もきょとんとした顔をしていた。


「……勇者識別番号1323011。

 勇者組合から派遣されてきました」

 

 その言葉に周囲の見る目が一転して好奇の視線に変わる。


「嘘でしょ……」

「勇者って、あの歳でマジかよ……」

「あの根暗そうな奴が勇者……?」

「でも、よく見るとちょっとイケメンかも……」

「へえ……案外アリ?」


 教室がざわつく。

 女子生徒達はさっきまでの態度を一変して、品定めするようにクライヴを見ていた。


「あー……、それと――この学校には“魔王”を探しにきました。

 見つけたら即殺しますんで、ご協力お願いします」


 教室が一瞬シン――と静まり返る。


 俺はその言葉を聞いて――、

 ――口の端が吊り上がるのを抑えられなかった。





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《PRPFILE》


【王立魔術師養成学校 1年次試験 生徒評価】


 カイル・グレイス【男】

 魔術適正【青】

 志望兵種【魔剣士】

 身体能力D- 知性E 剣術E 洞察力C- 魔力E 魔術E 体術D


 総評 E

 総じて平均の剣士の能力値を大きく下回る。

 現状、前線で活躍できる見込みはほぼ無いと言っていい。

 特筆すべきは魔力についてだ。魔剣士志望であるにも関わらず彼の総魔力はわず か10程度。これは一般的な魔術師が幼児期には既に超えている数値である。

 付け加えて、青魔術師で魔力の少なさは致命的なデメリットとなる。

 ちなみに使用できる魔術は無い、とのこと。

 さらに剣術では剣の握り方さえ知らない様子であった。その他試験に取り組む意 欲も薄く終止やる気の無い様子であった。

 しかし、一貫して態度だけは誰よりも大きかった。総評は妥当な最低評価。





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息抜きに地の文が少なめの文章を書いて見たくなりました。

重苦しくしないように気をつけようと思います。

気軽に読んでください。

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