特別編 来たぞ! 我らのタイタノア 後編

 突如、この戦場に降臨した巨神の名は――タイタノア。

 かつては銀河憲兵隊に属していた、巨人族をルーツとする異種族――「機械巨人族」の生き残りであり。8年前、この地球の英雄である男と共に、宇宙の危機を救った「守護神」である。


 赤を基調とする、筋骨逞しい全身の関節各部は、金色の胸当てやプロテクターで固められていた。白銀の鉄仮面の頭頂に備わるトサカや、翡翠色のバイザー部分からは、「巨人」というよりは「ロボット」を想起させる。

 何より――53mもの体躯を誇る、彼の巨神の最大の特徴と言えば。


『なっ……なにをするんだ貴様ァァアッ! 許さぬ、絶対に許さぬぞ! ヒュウガ・タケルに言いつけてやる! 神に等しい余に狼藉を働いたこと、意地でも後悔させてやるからな! バーカバーカバーカ!』


 その荘厳な外見に見合わない、尊大な上に臆病な振る舞いであった。タイタノアの「旧知」である烈騎は顔を片手で覆い、他の者達は何とも言えない表情を浮かべている。

 彼の巨神はそんな彼らを見向きもせず、一目散に海中に飛び込み退散してしまった。一体アレはなんだったんだ、という空気がこの一帯に立ち込める。


『なんですの、あの臆病神。あなたがわざわざサインで呼びつけるくらいだから、どんな強者なのかと思っていれば……』

『……まぁ、あの駄メシアは基本ああだからな。なに、問題ねぇよ。すぐに勇ましいツラ引っさげて帰ってくるさ』


 だが。かつて地球人と共に戦ったタイタノアの「記録」を知っているアースマウンテンは、訝しむ白をよそにほくそ笑んでいた。

 銀河憲兵隊によって管理されている、その「記録」には――自分達にも対処出来なかった「大怪獣」を、あの臆病神が仕留めた経緯が記されていたのである。


(……来るのね。タイタノア)


 そして、その「記録」は。

 8年前に現場に居合わせ、この状況を基地から見守っていた志波円華にも、分かっていたことであった。


 ◇


 彼女は海の向こうに逃げていくタイタノアの背を、BATファイターに搭載されたカメラ越しに見つめながら――最愛の男に、通信を行う。


「……ねぇ、威流」

『分かってる。……懐かしいな、円華』

「えぇ。……無事に帰ってきてね。葵様と、ルクレイテと……」

『お前のために、な』

「……ばか」


 BAT司令官よりも遥かに高い地位にある、若き防衛軍中将。名家の子女を妻に迎え、2人の公妾を持っているその男は――昔と変わらない口調で、かつての同期と言葉を交わしていた。


 そして潮風を浴びながら、円華との通信を終えた彼は、すでに。


「……相変わらず臆病神だよな、あんた」

『……五月蝿いぞ、羽虫の如き地球人の分際で』


 かつて共に戦った仲間と、8年ぶりの再会を果たしていた。東京湾の下に潜り込み、膝を抱えている巨神の姿は、彼にははっきりと視えている。

 将軍としてのロングコートに袖を通した、黒髪の青年は――東京湾を一望できる港の端に立ち。うっすらと海の中に映る巨神の影を、静かに見つめていた。


『……奴のことは知ってはいた。知ってはいたが、あんなに強いとは思うておらんかった。あんなに痛いとは思うておらんかった』

「だろうな」

『……余では、あの神獣には勝てん。知っての通り、余はチキンであるからな』

「知ってる」


 臆病だということも、それだけではないことも、全て知っている獅乃咲威流は。今この瞬間だけ、「日向威流」に戻り――朗らかな笑みを浮かべ、赤き巨神を出迎えていた。


『……ルクレイテは、娘は元気か』

「元気だよ。あんたが思ってるより、ずっとな」

『……ならば父として、余はカッコいいところを見せねばならん。故に主神タイタノアの名の下、今ここに命ずる』

「……あぁ」


 すると。海の下で膝を抱え、蹲っていた巨神は。

 威流を誘うように胸当てハッチを開き――その中から、眩い光を放つ。


『……怖いから、さっさとあの神獣なんとかせい。余の力と、貴様の技を以てしてな!』

「……よく言った。あとは、全部任せとけ!」


 彼の意思を汲んだ威流は、その輝きに身を委ね――巨神の胸中へと、己の身を投じて行った。


 やがて「合体」が完了し――眼から激しい光を放つ巨神は。ただの臆病な巨神から、「赤き巨星のタイタノア」へと、「変心」する。


 ◇


『デュワァッ!』

『シュオォッ!』


 タイタノアが逃げ去った後も、依然としてゼキスカイザーとの戦いは続いていた。アースマウンテンと白の拳打が神獣の鱗を打ち据え、その堅牢な装甲を削り取っていく。

 ――だがその攻勢も、徐々に弱まり始めていた。この星では長く活動出来ない彼らは、決定打に届く前に神獣の装甲を削りきれずにいたのだ。


「隊長! このままではエネルギー切れです……!」

「クッ! だが、一旦引き返して体勢を整えていられる時間はない……!」


 絶えず援護射撃を続けているBATも、装甲に守られていない部位にダメージを与えられてはいるが、致命傷には遠く及ばない。

 ――このままでは、ゼキスカイザーを倒す前にこちら側の継戦能力が尽きてしまう。


獅乃咲流しのざきりゅう――波濤精拳はとうせいけんッ!』

「……ッ!?」


 ――その時だった。突如海中から飛び出た真紅の鉄拳が、神獣の大顎を真下から撃ち抜いたのである。無敵を誇っていた黄金の装甲に――亀裂が走った。

 蒼く輝く球体の波動を纏う、その巨神の拳打によって。再び破壊光線を放とうとしていたゼキスカイザーは、激しい水飛沫と共に後頭部から転倒してしまう。


「す、すげぇ……! あのデカブツが、1発でノックアウトだ! 逃げたんじゃなかったんだな、やるじゃねぇか赤いヤツ!」

「私達も続きましょう!」

「おうッ! 行くぜ三代子ッ!」


 神獣は再び身を起こし、自身の前に立ちはだかる者達に向かっていく。だが先程の一撃が効いているのか、その動きはやや鈍っていた。

 それはまさしく、獅乃咲流空手を極めた獅乃咲威流の「技」があってこそのもの。巨神と「合体」した彼が、内部からタイタノアの巨躯を操ることによって――臆病な守り神を、最強の闘神へと「変心」させたのである。


(……!)


 そう、これはあくまでタイタノア自身の行いではなく、彼の体を操縦している威流によるもの。だが、それはタイタノア自身が威流を信頼し、自分の肉体を預けなければ叶わないことであった。

 自らの体と命を、生きながら他者へと明け渡す。それがどれほどの勇気を必要とするかは、察するに余りある。


 かつて死んだ機械巨人族ヘラクロアの身体を操り、遠い宇宙で怪獣軍団と戦っていた烈騎は。その重さを知るが故に、今のタイタノアの「本質」に目を剥いていた。


 ――私はね、レッキ。タイタノアを憎んでなどいないんだ。彼は誰よりも、傷付くことの怖さを知っている。ただ、それだけなんだよ。


(……今ならわかるよ、ヘラクロア。タイタノアは、やはり……!)


 遥か昔に別れた、かけがえのない友の言葉。その意味をようやく理解した烈騎は、彼の巨神と共に戦う決意を新たにする。

 傷付くことの怖さを知ればこそ。その痛みに共感し、それを止めるために動くことが出来る。そんな彼に足りない勇気を補い、背中を押す「日向威流」が付いていれば――彼は守護神の名に恥じない、戦いが出来るのだ。


「隊長!」

「分かってる! 朱鳥隊員、一気に仕掛けるぞ! 志波司令、例の秘密兵器……お願いします!」

『分かったわ! ……行くわよ、対怪獣用特殊起動兵器「コニャン」発動!』


 戦意を高めた烈騎は流星と共に、BATファイターで神獣に向かっていく。そんな彼の要請に応じて、戦況を見守っていた円華は、基地のブリーフィングルームにある「赤いスイッチ」に触れた。

 ――次の瞬間。


「にゃーん、こにゃん!」


 などと、緊迫感のかけらもない「鳴き声」と共に。神獣の遥か上空から、無数の白い子猫が舞い降りてきた。

 否、子猫を模した小型のロボット軍団が。


「え……」

「ちょ……」

「何よアレ……」


 その光景に、BAT隊員達は唖然としていた。「秘密兵器コニャン」の全貌を知っていた烈騎は、なんとも言えない表情で戦闘を続行している。


 ――対怪獣用特殊起動兵器「コニャン」。子猫を模した自律型無人兵器であり、小型のサイズを活かして素早く対象に接近し、制圧することを目的とした志波円華の「秘密兵器」である。

 限られた予算で大型の怪獣に対抗するため、「小さいこと」を武器とする発想により設計された機体なのだ。


「み、見て……! あの子猫達、怪獣と戦ってる!」

「よくわかんねぇけど……俺達をカバーしてくれてるんだな! よし、行くぜッ!」


 彼女の見立て通り、ゼキスカイザーの前進に張り付いた子猫ロボの群れは、彼の神獣の手や尾が届かない腹部や首回りに張り付き、「ガブー」と噛み付いている。威力自体はそれほどでもないが、「撹乱」としてはこれ以上ない効果を発揮していた。

 無論、彼らの形状が「子猫」をベースとしているのは――


『きゃわいい〜! 私のコニャ〜ン!』

「……朱鳥隊員、一旦通信を切るぞ」

「……はい」


 ――設計者たる志波円華の趣味である。BATファイターの通信機から響いてくる彼女の猫撫で声を前に、烈騎と流星は暫し居た堪れない空気に包まれてしまった。


『全く……地球人の考えることは理解に苦しみますわ』

『はは、地球人も面白いもん作るじゃねえか。一気に畳み掛けるぜ、ツクモ!』

『とっくにそのつもりでしてよ!』


 その隙を縫うように、白は身体の大蛇を鞭のようにしならせ、コニャンに当たらないように神獣を打ち据える。……タイタノアの「波動精拳」によって生じた外殻の亀裂が、さらに広がり始めていた。


『おおっ……と!』


 反撃とばかりに伸びる神獣の腕が、彼女の首を掴む。だが「骨格」を持たない彼女の身体は、軟体動物の如くその手からするりと抜け出してしまった。

 ならばと勢いよく振るわれた尾が、彼女を横薙ぎに打ち抜こうとする。だが、白を庇うように立ち塞がるアースマウンテンの豪腕は、がっしりと尾を受け止めてしまった。


『ボサッとすんなよ――デュオワァアァッ!』


 圧倒的な体格差をものともしない、ジャイアントスイング。その力技によって宙を舞ったゼキスカイザーの巨躯が、勢いよく海面に叩きつけられた。

 外殻はメッキの如く剥がれ落ち、その下にある無防備な皮膚が露出していく。


「狙い目、確認したわ! 鱗が剥がれてる!」

「よしッ! 潜水モードに移るぜ、三代子!」


 その部位を目撃した三代子の眼を信じ、好孝は変形レバーを倒す。次の瞬間、BATチェイスの前後輪が横に倒れスクリューとなり、潜水モードへと移行した。


「……当てるッ!」


 好孝の操縦により海中へと向かったBATチェイスの中で――皮膚が露出したゼキスカイザーの脚を見つけた三代子は、車体ルーフに装填された小型魚雷を一気に発射する。

 その全弾が命中した瞬間。片脚の肉に減り込んだ魚雷の爆発を受け、神獣は悲鳴の如き咆哮を轟かせた。


『やりますわね。……ワタクシも、仕上げと行きましょうか。下がっていなさい、子猫ちゃん』


 足の筋繊維を破壊され、身動きが取れなくなった今なら――「大技」を外す心配もない。白は一気に「カタ」をつけるべく、邪蛇同士を摩擦させ莫大な静電気を精製する。

 彼女の呼びかけに応じるように、ゼキスカイザーに噛み付き続けていたコニャン達は、一斉にその場から離れていった。


『高級邪術――蛇牙雷邪ジャガライジャッ!』


 刹那。シゥーア星人の邪術においても、最高峰の破壊力を誇る蒼白の電光が迸り――無粋な侵略者に、裁きを下した。

 苛烈な電撃を放出され、神獣の外殻がさらに剥がされていく。


『とっとと楽にしてやるぜ! アースッ――バァーストォオォオッ!』


 そこから、さらに追撃が続く。アースマウンテンは、巨大な拳を勢いよく突き出し――そこから、緑色の破壊光線「アースバースト」を放出する。

 ルヴォリュードの「エクシウムブラスター」さえ凌ぐ、猛烈な力の奔流が神獣を飲み込み――その身を守っていた外殻を全て、引き剥がしてしまった。


「よし――タイタノア。久々に、アレ・・やるか」

『ア、アレとな!? ちょっと待つのだヒュウガ・タケル! まだ余の心の準備が――どひぃぃいい!』


 8年の時を経て再現される、威流とタイタノアにしか出来ない「大技」。その発動を予感した巨神は、躊躇う暇すら与えられず――天にも届かんばかりの大跳躍を強いられてしまう。

 ゼキスカイザーの遥か頭上から、泣き喚きながら手刀を振り上げるタイタノアに対して。その身を借りる威流は躊躇うことなく、「奥義」を解き放つ。


獅乃咲流しのざきりゅうッ――!」

『ぬぉおぉおぉおッ! 余は、余はっ――最強にして最高のっ、神だぁあぁぉぁあぁぃっ!』


 この地球を、守りたい。その想いが、導くままに。


 赤き巨星の手刀が、天の裁きの如く。


「――兜両断閃かぶとりょうだんせんッ!」


 鎧を失った神獣の脳天に、炸裂する。満身創痍の身にとどめの一撃を叩き込まれ、ゼキスカイザーはすでに瀕死となっていた。

 ――だが、まだその命は尽きない。彼の者はせめて、目の前に立つタイタノアだけでも亡き者にしようと、その大顎を開く。


「朱鳥隊員ッ!」

「はいッ!」


 しかし、そんな未来を地球人は決して認めない。空を裂き、風を切り――BATファイターの機体が、その場に割り込んできた。

 タイタノアを救うべく、決死の一撃に臨む烈騎の操縦に、己の命運を託して。照準を覗き込む流星の眼差しは、ゼキスカイザーの大顎という「急所」を捉える。


 ――どんなに清く生きたって、誰かにとっちゃ誰もが悪役だ。でも、そう思っちゃいない奴にとってのそいつは、間違いなくヒーローなんだよ。


(……あの人の言う通りだ。周りに、なんて言われたっていい。税金泥棒団でも、構わない)


 アサマ・ダイと名乗る青年が残した言葉と、今こうして戦場ここに集った仲間達の勇姿。その全てによって、流星の目の前が澄み渡って行く。


「俺と一緒に戦ってくれる、俺と一緒に居てくれる。そんな人達のために、ただ生きていく。……俺は、それだけでいいんだッ!」


 心の何処かに残っていた、微かな迷いさえも掻き消して。流星はレバーを倒し、無防備となった神獣の大顎に、とどめのレーザー砲を撃ち込んでいく。


 そして、一斉放火を終えたBATファイターの機体が、機首を上げ空に舞い上がる瞬間。崩折れるように伏したゼキスカイザーの巨体は、爆散し――この激戦の終焉を告げるのだった。


『……そうだよ、アスカ・リュウセイ。お前は、それでいいんだ』


 神獣の最期を爆炎と共に目撃し、BATチェイスの中から歓声を上げる好孝と三代子。ようやく我に返り、懸命に咳払いする円華。後輩の活躍を見届け、静かに佇むタイタノア――を操る威流。

 そんな彼らを他所に、BATファイターを見上げるアースマウンテン――アサマ・ダイは。親友であるルヴォリュードから託された「戦友」の生き様に、微笑を浮かべるのだった。


『……さぁて、ツクモ。さっき目をつけたとかどうとか抜かしてたが……ありゃあどういう意味だ? おい』

『えっ!? え、えーと、あれは、その……まだ「侵略する」とは言っておりませんわ。ただ「目をつけた」というだけですの。ええ、ほら、今度のオフは何処へバケーションに行こうかしら、的な意味ですわ。本当の話ですのよ』

『まだって何だコラァ! てんめっ、いい加減にしやがれッ!』


 そして、相変わらず油断ならない「見習い隊員」に手を焼きつつ。

 銀河憲兵隊としての使命を果たした彼は、やがて宇宙の彼方へと飛び去っていく。「まだお酒飲み足りませんのー!」とゴネる白を、引きずるように。


「……どうした、朱鳥隊員」

「……いえ」


 そんな、正義のヒーローとしては少し可笑しな戦士達を見送った後。流星はBATファイターの中で、宇宙そらを仰ぎ――優しげな笑みを浮かべていた。


(……ルヴォリュード。俺、杏奈と結婚するよ。君がくれた光を、2人でずっと……紡いでいく。君と俺の仲間達が、それでいいんだって……教えてくれたから)


 その一方で。体内からBATチェイスの上に降ろされた威流は、母星に帰ろうとしているタイタノアを見上げていた。


「な、なんであの赤いヤツから獅乃咲中将が……!?」

「ゆ、夢でも見てるのかしら……」


 巨神の中から防衛軍最大の英雄が現れたことに、好孝と三代子は絶句している。そんな彼らを他所に、威流は8年ぶりに再会した「旧友」の成長ぶりを喜んでいた。


「……来てくれたんだな。あんなにビビリだった、あんたがさ」

『……あの男からサインを寄越されたのだ。余のルクレイテが住まうこの星に、危難が迫っていると。だから来た、それだけだ』

「だとしても嬉しかったよ、オレは。ルクレイテも絶対、そう思ってる」

『そ、そうか。うむ、当然であろうそうであろう! なにせ余は、この星を救った至高の守護神なのだからな!』


 威流の言葉に気を良くしたタイタノアのは、自慢げに腕を組み鼻を鳴らす。相変わらずな彼の様子に、安堵の笑みを浮かべる彼に対し――タイタノアが背を向けたのは、その直後だった。


『……おほん。本来ならすぐさまルクレイテを返してもらい、さっさと我が母星に帰還しているところだが……』

「……」

『ここに来る前に少しばかり、宇宙うえからルクレイテの様子を見ておった。……幸せそうであった』

「……そうか」


 母星を離れ、威流のそばにいることを選んだ異星人の巫女・ルクレイテ。彼女の父として、娘の幸せを願うタイタノアは――強がるように両手を腰に当て、笑い声を上げる。


『……どうせ地球人の寿命など、我々に比べれば短く儚いものよ! なれば余と共に戦った功績に免じて、貴様がくたばるまで好きにさせても良かろう!』

「……そっか」

『だが忘れるな、ヒュウガ・タケルよ! ……余はいつも、この星を見守っている。ルクレイテを、泣かすでないぞ』

「あぁ、約束だ。任せてくれ、タイタノア」

『……うむ』


 そんな彼の本心は、声色に全て顕れていた。名残惜しげな色を滲ませる、タイタノアの声に応じて――威流は強い口調で頷いてみせる。


『……達者でな』

「……あんたもな」


 そして、巨神は銀河憲兵隊に続き――この星から飛び去って行くのだった。躊躇うように一瞬だけ振り返ったタイタノアの眼に、優しげに手を振る「親友」の姿が映る。

 それだけが、愛娘から離れ行く父にとっての、支えとなっていた。


 ――それから、1週間後。


 突如地球に来襲してきた謎の怪獣と、BATの熾烈な戦いが報じられ――「税金泥棒団」と揶揄されていた怪獣攻撃隊の評価は一転し、世界を救った新たな英雄として、人々に迎えられたのであった。


 そして、朱鳥流星と天城杏奈は――。


 ◇


「ママぁっ、見て見て! パパのひこーき! ほら、びゅーんて、びゅーんて!」

「本当だね……パパ、カッコいいね」

「うん、カッコいい! だからね、セイナね、おっきくなったら『ばっと』でパパのお手伝いするの!」

「え、えぇ? うーん……それはパパが心配しちゃうかなぁ」

「えー……そうかなぁ。……んー、んぅー……」

星奈せいな?」

「……じゃあね、じゃあね! セイナね、ママみたいな『あいどる』になる!」



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