カフェでの一コマ

 病院を出た後、やって来たのは近くにある一件のカフェ。ここで桐生君と待ち合わせをしていた。

 予定よりちょっと時間が押してしまったけど、ちゃんといるだろうか?そう思って店内に入ったけど、桐生君はすぐに見つかった。

 ただ問題なのはその状況。桐生君は席についてスマホをいじっているのだけれど、その向かいには同い年くらいの、見知らぬ女の子が二人ほど座っていた。


「ねえ、今日がダメなら、また今度遊びに行かない?スマホの番号教えてよ」

「当分の間は忙しいからなあ。番号交換しておいて一切連絡しないってのも失礼だから、その話は無しでいいか?」


 彼女達の方を見向きもしないで、投げやりな態度で答えている桐生君。良い態度とは言えないけれど、女子二人は気にする様子もなく、構わず話続ける。


「ええー、冷たいー。でもそんなに忙しいのに、待ち合わせの子ってまだ来ないんだよね」

「そんな子放っておいて、今から出掛けない?」

「う~ん、そうしたいのは山々だけど。そいつ嫉妬深いからなあ。ほったらかしにして別の子と遊んでたなんて知ったら何て言われるか。怒られるのも嫌だから、やっぱ遠慮しとくわ」

「そんな怖い子なの?待たせた上に怒るだなんて、酷い彼女さんじゃない」


 聞いててだんだん腹が立ってきた。もしかしなくても今話してる彼女って、私のことだよね?実際は彼女じゃないけど。

 放っておけとか酷い彼女とか、好き勝手言ってくれる。桐生君も桐生君だよ。嫉妬深いとか怒られるとか、ちょっと酷くない?

 私は呆れながらも、桐生君達の座っている席に近づいて声をかける。


「お・ま・た・せ!ごめんねー、ちょっと遅くなっちゃってー」


 自分じゃ分からないけど、おそらく引きつっているであろう笑顔を作りながら挨拶をする。しかし桐生君は特に動じる様子もなく、「ああ、来たか」と、素っ気ない返事をしてくる。そして一方、向かいに座っていた彼女達は。


「えっ、待ってたのってこの子?」


 心底驚いた顔をされた。きっと桐生君みたいな美人を待たせるくらいだから、もっと可愛い子を想像していたのだろう。悪かったね、地味顔で!


「と言うわけで連れが来たから、俺もう行くわ。話し相手になってくれてありがとな」


 そう言って席を立つ桐生くん。もっと食い下がるかと思っていた二人も、呆気にとられたようで、すんなりと解放してくれた。

 そうしてお会計を済ませようとレジに並んでいると、桐生くんが言ってくる。


「来てくれて助かったよ。アイツらしつこくてさ」

「もっとキッパリと迷惑だって言えばよかったんじゃないの?人を悪者なんかにしないでさ」

「そこから聞いてたのかよ?悪かったって。それに悪いことばかり言ってた訳じゃないからな。聞いてないかもしれないけど、お前の事誉めてもいたんだぞ」

「どんな風に?」

「今から来る奴は超絶に可愛い子だって言ってたんだ。そう言ったら大抵のやつが気圧されて退散するからな。生憎アイツらには通じなくて、面拝んでやるとか言われたけど」


 何を言ってくれたんだこの人は?ハードルの上げ方が尋常じゃないよ。あの子達があんなにビックリしていた理由がわかった。てっきり絶世の美女が現れると思っていたのに、来たのがこんなのだったから反応に困ってたんだ。確かに誉めはしてたけどさあ……


「何でそんな嘘つくのよ?」

「別に嘘って訳じゃないだろ。龍宮が可愛いのは本当なんだし」

「ふえっ⁉」


 完全な不意打に、思わず変な声が出てしまった。いや、騙されちゃダメだ。どうせ誤魔化すための常套手段に違いないし、これくらいのことは誰にだって言うんでしょ。


「またそんな心にもないことばっかり言って」

「本当の事なんだけどな。確かに俺はよく嘘をつくけど、お世辞で可愛いとか言ったことはないぜ。お前、自分で思ってるよりもずっと可愛いんだから」

「――ッ!」


 いけない。こういうストレートな誉め言葉に慣れていないものだから、嘘だとわかっていてもつい照れてしまう。きっと今、すごくしまりのない顔をしているのだろう。恥ずかしくて、桐生君と目が合わせられない。顔をそらしながら、表情を整えようと四苦八苦していると。


「本当だって。昔渚が飼っていた犬に似た、独特の可愛さがあるな」


 ……何に似てるって?

 火照っていた顔が途端に冷めてくる。

 桐生君の、してやったりと言わんばかりの顔がムカつく。絶対バカにしてるでしょ!


「もう知らない」

「おい、待てって。冗談だよ」


 怒って立ち去ろうとする私の肩を、桐生君が掴んだ。


「嘘だから。本気のわけないだろ、そんなに怒ったら……」

「可愛い顔が台無しになるとか言うつもりなんでしょ。桐生君が考えてることくらいお見通しだよ」

「バレたか。けど、可愛いって言うのは本当だから」

「またそんなこと言って」


 全く呆れた嘘つきだ。その後も調子のいいことを言ってきたけど、断固としてツンとした態度で接する。ここで甘い顔をしてなるものか!


 しかしそうしている間に、いつの間にか会計の順番が来ていたけどその事に気づかなくて。店員さんに迷惑をかけてしまった。

 店員さんごめんなさい。これも全部、桐生君のせいだからね!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る