第010話 「我が家の日常」

 僕らの1日の流れは基本的に変わらない。


 朝起きて軽い朝食を済ますと修行の時間だ。


 昼食後は子供達はジジにまたがって食料調達、及び森の探索をする。


 ハクビは相変わらずジジから降りて寄り道して遊んだりカエルを採ったりしている。


 ネコは狩猟動物だと聞いた事があるので、その性なのだろうか。


 カエルはコロンの大好物なので妹のためというのもあるのだろう。


 コロンは僕にくっついてるか。

 たまにハクビに乗っかって森の中に入って遊んでる。



 引率はジジだけだ。


 その間、トトとカカは何か自分たちのやるべき事を進めているようだ。


 それについてはあまり深くは考えない様にしている。


 食料調達から帰るとジジは夕食前の見回りに行く。


 僕らは家で待機だ。

 

 夕食はカカが魔法で作るわけだが、ある時からハクビも手伝う様になった。


 魔法が得意だからというのもあるだろう。


 僕も手伝いを名乗り出たが断固として拒否された。


 家事は女性がするものらしい。


 男性に家事をさせることはその家の女性の恥となるようだった。


 家事には料理の他にも掃除や洗濯がある。


 カカはそれを【水】や【風】の魔法をうまく使いながらこなしている。


 ハクビもそれに習い、掃除魔法、洗濯魔法、それに布を作る魔法等、家事に役立つ魔法をどんどん覚えている。


 僕も家事魔法自体の練習には参加させてもらえるのだけど、実際の家事はさせてもらえない。


 僕自身、本当に家事は嫌いじゃないから是非手伝いたいのだけれど……


 トトは『ハクビの花嫁修業だ』みたいな事を言って冷やかしてカカに怒られている。


『ハクビが連れてきた男がロクな奴じゃなかったら俺はぶん殴る』みたいなこともよく言っている。


 ハクビは『やめてよ、そんな話』みたいな事言ってすこし照れている様に見える。


 まぁ、正確にはなんて言っているのかは分からないけど大枠は外れていないだろう。



 いつかキザな雄猫が現れて僕ら家族に挨拶したりする日がくるのだろうか?


 もしくはトトの完全な冗談なのだろうか?

 

 まぁ、どちらかはわからないけど。


 僕も父と一緒にとりあえずオス猫はぶん殴る。

 それは決めている。


 その為にも修行に集中しなくてはならない。







 出来た夕食をみんなで床で食べる。

 これは僕の提案によるものだ。


 最初のうちは、僕とトトとカカと一緒にテーブルで食事をとっていた。


 四足獣である妹達はフォークやナイフを扱えないため床に置かれたごはんを4足獣スタイルで食べる。


 ジジも一緒だ。


 しかし、僕がテーブルに座っていると妹達は食事の用意ができても僕から離れずになかなか自分のご飯を食べようとしないのだ。


 僕も妹達と一緒にご飯が食べたかったので、『みんなで床でご飯を食べよう』とトトとカカにいってみた。


 するとトトとカカは喜んで承諾してくれた。


 それからはずっと床に食器を置いてみんなで食事をとっている。



 ハクビもコロンも食べ物の好き嫌いが結構ある。


 好きな食べ物が食卓に並んだ時に僕の分をわけてやると2匹ともすごい喜ぶ。


 ハクビもコロンの好物のカエルの食事が出た時は自分の分を妹にあげている。


 食いしん坊のコロンは大喜びだ。


 僕はハクビ自身もカエルが大好物なのを知っていた。


 ハクビはすっかりお姉さんになっていて、本当にコロンをかわいがっている。


 それが微笑ましくて誇らしくてとっても嬉しい気持ちになる。


 逆に嫌いな食べ物がでると、妹達はその食べ物を隠れて僕の皿に置こうとしてくる。


 これはイタズラに近い。


 僕は限界まで気づかないフリをして、皿に置こうとする瞬間に声を上げる。


「コラー!ちゃんと食べなきゃダメだろー!」


 妹達をゴシゴシとクスぐって、キャッキャ言いながらいつものジャレ合いになる。


 そしてたいていの場合トトに怒られることになる。







 夕食後には一日で一番ゆっくりとした時間になる。


 何をするわけでもなく時間を過ごす。


 この世界には本もテレビも娯楽というものが何ひとつない。


 毎日、同じメンバーで同じ様な夜を過ごす。


 ハクビは僕にイラズラしたり、コロンをかまったり、その日覚えた魔法や闘気の技を自慢してたりと大忙しだ。


 コロンは僕かハクビにくっついてるかゴロゴロしている。


 たまにハクビの野生スイッチが入ることがあるけど、僕らもハクビ自身ですらもう慣れたものだ。


 小さい頃から比べると頻度もだいぶ減っている。


 それでもコロンはハクビの尻尾の付け根あたりにくっついて応援する事を忘れない。


 いくらウトウトしてたり、しっかり寝てたりしても必ず目を覚ましてハクビに抱きつく。


 コロンも姉が心配なのだろう。







 数日に一回は赤ちゃんの頃から使ってる水場の池で水浴びをする。


 最初にカカと僕ら子供達が入り。


 トトとジジは僕らに背を向けながら辺りを警戒している。


 未だに理解できないが、サルの裸を見ない配慮がある様だ。


 そもそも全身毛むくじゃらなわけだし何を隠すものがあるのかと思うが、本人達には大問題なのだろう。


 そう思うと河原でのイノシシ事件の時、布切れを巻かないで家から飛び出してきたカカは本当に焦っていたのだろう。


 ありがとう、カカ。


 僕の水浴び場での役割は丸々した妹獣たちをゴシゴシ洗ってやること。


 ハクビは水浴びが嫌いで最初はすぐに逃げだそうと暴れた。


 けど顔に水がかからない様にゆっくりやさしく洗ってやると、その内なんの抵抗もなく黙って体を任せてくれるようになった。


 今では、水場に着くと僕の近くに寄って来て体を洗わせてくれる。


 洗い終わるとすぐに水場からは離れてトトとジジの所に行ってしまうけど……


 コロンは水浴びが好きでジャバジャバと僕が体を洗ってやるとご機嫌だ。


 放っておくといつまでもプカプカと水面に浮いている。


 夜になると、葉の布団の部屋で家族みんなで雑魚寝する。


 2匹の妹達はいつもの様に絡まってきて、ひっついてきて眠る。


 前世ではよく、深夜に目を覚まして無性に不安になることがよくあった様に思う。


 目が覚めて意識がはっきりしてくるとなんともないのだが、あの意識がはっきりしなくてなにか無性に不安で怖くて、すごく嫌な気持ちになることがあった。


 それが今では寝ている最中ですら妹達の心音が聞こえる。


 起きる理由も鏡餅かがみもちの上二段が重すぎることが多い。


 特に1番上の段の動物は成体のはずなのにまた少し太った気がする。


 起きて辺りを見回したらすぐに父と母と祖父もいる。


 夜は少しも怖くない。







 雨が降った時は僕ら子供達はひたすら家で留守番していることが多い。


 1年の目印にしている雨が続く時期なんかは何日も家から出ないなんて日もある。


『長時間雨に当たっていると風邪をひくかもしれない』という理由で僕ら子供達は食料調達には出ない。


 おそらく僕が1歳から2歳にかけて発熱を繰り返したことを考えているのだと思う。


 代わりにトトとジジで食料調達に出る。


 僕も一緒に行きたかったけど、本当に熱を出してしまったら皆すごく心配するだろうからおとなしく家に居る事にしている。


 ハクビもその事を説明したらわかってくれた。


 雨の日には少し変わったイベントがある。



 コロンの『雨転がり』だ。


 コロンは何故だか大雨が大好きだ。


 変にテンションが上がるみたいで雨の日はとっても元気でお昼寝もせずに雨を見ている。

 

 そして大雨の日は少しの間だけ家の前の広場に出て雨を体一杯に浴びながら大地を転がるのだ。

 

 これが『雨転がり』

 コロンの大好きな一人遊びだ。


 最初は僕らもカカもコロンを外に出る事を反対した。


 雨に濡れないために家の中に居るのに、わざわざ雨に当たりに行くなんて風邪をひくかもしれない。


 けれど、コロンがあまりにも主張するので少しの時間だけ『雨転がり』を許してやった。


 うれしそうにゴロンゴロン転がって、約束通り直ぐに帰ってきた。


 コロンは風魔法で体を乾かしてもらっているときも、転がりの余韻を感じてとっても幸せそうな顔をする。


 僕らはこんなにコロンが喜ぶんだったらわざわざ禁止することもないだろうと考えた。


 だから短時間という条件をつけて外へ出る事を許可し、それ以来、コロンの『雨転がり」雨の季節の風物詩となっている。


 ハクビは喜んでコロンと一緒に遊びそうなものだが、雨に当たるのが好きじゃない様だ。

 

 そして僕らは家の中からコロンを見てホンワカするのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る