第008話 「魔法使い僕」

 妹達を抱き抱えながらひとしきり泣いた後、僕はやっと落ち着きを取り戻した。

 

 子供みたいに泣き叫んだ。

 心が溢れて、また恥ずかしい事を言ってしまった。

 

 4歳児なんだから自然なはずだ。

 気にしない。

 

 カカに改めてお礼を言う。


「カカ、コロンを助けてくれてありがとう」


 僕の背中に回復魔法をかける前にカカはコロンを治療してくれていたのだろう。


 するとカカは「キーキー」言いながら僕を指さす。


 最初は意味がわからなかったが、身振り手振りを交えて教えてもらう。


 どうやら『コロンに回復魔法を使ったのは僕』ということらしい。


 確かにカカの回復魔法はイメージしたけど、闇雲に泣きながら叫んだけだ。


 僕の叫びが魔法になったとは信じ難い。


 あまりにカカが真剣に言うので、試しにコロンに向かって回復魔法をイメージしながら手をかざしてみる。


「ヒール」


《ホワン》


 手が薄く光りコロンがくすぐったそうに体をくねらせた。


「うそ? できた!

 僕って魔法使いなの?」


 僕も驚いたが、カカも実際に僕が魔法を使うのを見て目を丸くしている。


 カカが僕が魔法を使ったって言ったんだけどな……


 それからカカはとっても上機嫌になり、鼻歌交じりに夕食を作った。


 バレリーナの真似をして何回転もして、無駄に手をブンブン回して魔法を使って料理をしている。

 杖はなしだ。


 すごく機嫌の良い時のサルだ。


 しばらくして帰ってきたトトとジジに、「キキーキキー」言いながら何かを自慢している。


 キョウって僕の名前もよく出てくるし、声の抑揚や顔の表情から判断するに、


『キョウが魔法つかえるの。すごいでしょー』みたいなことを言ってるんだと思う。



 トトもジジも嬉しそうにカカの話を聞いているが、カカにはもう少し考えてほしい。

 

 今日は『家に侵入して来た獣が息子と娘を殺しかけた』という大事件が起きているはずだ。


 カカはその話は忘れている様に見えるーーまぁ、そんなところも含めてとっても大好きだけど。







「僕にもっと色んな魔法を教えて欲しいんだ。」


 夕食の時に身振り手振りを交えてカカにお願いした。


 今日と同じ事がまた起こるかもしれない。


 その時に僕の目の前でハクビとコロンが亡くなってしまうなんて我慢できない。


 それは絶対に嫌だ。

 ずっと一緒に居たいんだ。


 2匹の妹を守れる力が欲しい。


 カカは白い歯を見せながら笑って二の腕に力こぶを作るようなポーズをする。


 お調子者のサルが『まっかせなさーい』と言っているのは言うまでもない。







 鳥の襲撃は、ハクビにもちょっとした変化をもたらした。


 1人と2匹でジャレあっている時にスイッチが入ったように攻撃的になるようになったのだ。


 強めに噛みついたり、引っ掻いたりしてしまう。


 その状態になってしまうと、ハクビ自身もなかなか制御できないようでかわいそうだ。


 ある日、コロンを強く引っ掻いてしまいずいぶんな血が出てしまったことがあった。


 僕やコロンのケガはカカに治してもらえるから何も問題ないけど、落ち着きを取り戻したハクビはコロンのケガを見てすごく悲しい顔をした。


 僕は少し考えてハクビに提案した。


 『ハクビのスイッチが入ったら僕の左前腕に必ず噛み付く練習をしてみよう』


 僕は何故か傷の治りが早いし体も丈夫だから何も問題ない。


 ハクビは僕の提案を受け入れてくれた。

 

 それからはスイッチが入りそうになると、ハクビは僕のところへ飛んできて左前腕に噛みつくようになった。


 噛みつきながら、しばらく自分自身のその野生の猛りと必死に戦うのだ。


 僕は空いてる右腕で頭を撫でてやり、コロンもハクビの尻尾の付け根あたりによじ登って抱きつくようにくっつくいてハクビを応援する。


 ハクビは必ず自身との勝負に勝って我を取り戻して僕らのところに帰ってきてくれる。


 僕とコロンはそんなハクビを見てキャッキャ言いながら喜ぶのだ。


 コロンに攻撃してしまうことはあれ以来一度もない。


 ハクビはとっても強い娘なのだ。







 魔法を教えてくれるよう頼んだあの日から、カカによる魔法授業が始まった。


 ちなみに、1番高い位置にある窓には鳥の襲撃事件の4日後に柵が取り付けられた。


 やはり忘れていたんだと思う。



 魔法教室はカカが土魔法で整地したのであろう森の中の広場で行われる。


 言葉が伝わらない修行は難しいとも考えていた。


 しかし、思いのほか魔法修行はうまく行った。


『ヒール』ができる様になった時点で、最初で最後の難関をクリアしたのかもしれない。


 要はイメージができれば魔法は形にできる様だ。


 呪文も適当でいい。

 あくまでイメージを高めるためのツールでしかない。


 だから、カカが実際にやり方を見せてくれた魔法は僕のイメージで解釈し直せる。


 それが上手く合致すれば魔法は形になる。


 魔法は5つの属性がある。


【火】炎を生み出し操作できる魔法。料理でも活躍

【水】水を生み出し操作できる魔法。氷も作れる。

【土】大地を変形したり操作できる魔法。整地にも便利。

【風】風を生み出し操作できる魔法。包丁代わりになる。

【光】回復魔法。目くらましもできる。


 それぞれの属性を組み合わせて色々な事が便利に出来る様だった。


 カカは繊維の多い草を【風】で形を整えて、【土】と【水】で加工して『布』を作ったりもできる。


 それが僕らの腰布やカカの洋服? になっている。

 

 トイレも【土】【風】【水】あたりが活躍して匂いも出ずに糞尿を処理できているのだろう。


 組み合わせはアイデア次第。


 そしてそれぞれの属性の力には何段階かのレベルがある様だが要は出力の大きさの違いだ。

 

 僕の魔法の修行には遊び半分でハクビとコロンも付いてきた。


 2匹は僕らの傍らで追いかけっこをして遊んでいた。


 しばらくするとコロンは疲れて木にもたれかかって休んでいる。


 ハクビはしばらくコロンの横で丸くなっていたが、興味が湧いたのか僕らの修行に加わってきた。


 カカが炎をだすのを見せてくれた後、それを真似て僕もやる。


「ファイア」



《ボッ》

 

 しっかりと炎の形にはならない。

 目の前に種火の様な小さい炎が光る。



『次は私』とばかりにハクビが前に出てくる。


 同じ様にカカを真似てグッと4足に力を入れる。


「ニャニャ」



《ボワッ》

 

 カカの出した炎には到底及ばないが、明らかに僕より大きい炎がハクビの前で光って消える。


「え?

 ハクビすごい。炎でたね!

 すごいねー!!」


 僕は駆け寄ってハクビを抱きしめて撫でてやる。


 ハクビは得意そうな顔だ。


 魔法の練習を見ていたコロンも駆け寄ってきてハクビの魔法の才能を喜んだ。


 カカを振り返って見ると絶句していた。

 僕が魔法を使った時より驚いている様に見える。


 サルが魔法使えるんだから、ネコが魔法使えてもおかしくないだろうに――そういう問題じゃやないのかな。


 よくわからない。


 コロンは興味がないのか、魔法を試してみようとしなかった。

 

 ハクビが魔法が使える事がわかってコロンが心底喜んでいるようで良かった。


 僕とハクビだけ魔法が使えて、コロンだけ使えないのは、コロンが拗ねはしないかと少し心配したから。

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