7.算数

小学生の頃、IQが84しかなかった私は算数がわからなかった。

誰にでもできる簡単な足し算も、私にはよくわからなかった。


「籠の中にりんごが一つ。後から買ったりんごが一つ。合わせてりんごはいくつでしょう」と先生は言った。

「はい。合わせると、元からあったりんごが一つと、後から買ったりんごが一つです」と私は言った。

先生は困った顔をした。

私も困った顔をした。

先生は何も言わず、代わりに他のクラスメイトに答えさせた。

クラスメイトはなんなく答え、先生は嬉しそうに笑った。

私はぼんやりとその様子を眺めるだけだった。


私は算数がわからない。

実を言うと、大人になった今は、算数だけでなく、もっといろんなことがわからない。

そもそもりんごという言葉がよくわからないのだ。

りんごという概念とりんごという言葉が一致することというか、りんごがあること自体とか、概念とか言葉とか、そもそもそういうものすらもよくわからない。

わからないということがどういうことなのかもわからない。


私は私がわからない。

私は何もわからない。

わからないのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る