第9話 バトルは嫌いなんじゃ!

 わしはゾンビと睨み合った。互いに盾を構え、じりじり左右に少し動きながら、隙を伺う。


 装備では完全に負けていることが、わしを焦らせた。


 ちょっとずつだが、ゾンビがこっちに近づいてくる。


 まだ当たるような間合いではなかったが、ゾンビは体を左側に巻き込むように引いたかと思うと、剣を横薙ぎに振った。

 そして左右めちゃくちゃに振り回している。


「うぉっ!?」


 さすがにわしとて、そんなところに突っ込んでいくようなアホではない。

 バックステップで離れ、ゾンビの気が済むのを待つ。


 やつの腕がだらりと垂れ下がった。


 わしは思い切り地面を蹴り、棍棒を振り上げながら飛びかかった。


「キィヤァーーーーッ!」


《『ジャンプ攻撃』を発見しました》


 棍棒はゾンビの肩に直撃した。


 お互いに衝撃によって仰け反る。


 わしは踏ん張ってなんとか体幹のバネでサイドロールした。

 その際に垣間見た真後ろでは、頭蓋骨の上で突っ伏して死んでいたはずのゾンビがこちらに向かって剣を振り上げているところだった。


 とにかくローリングで距離を取る。


 片方を手負いにしたとはいえ、挟み撃ちにされてしまったのだ。


 わしはしっかり盾を構え、二人の敵と一定の距離を保つように動いた。

 狙うのは弱っている方だ。


 元気なほうが剣を振り回し始め、もう片方が剣を振り上げてこちらに走ってくる。


 わしはかなり後ろに下がり、走ってくるゾンビを誘い出した。

 剣先の行方をしっかりとみながら、こちらに向かって叩き込まれる一撃をステップで回避する。


 そのまま、やつの後方に回り込んで、バックスタブをお見舞いしてやった!


 まだ発見しただけの段階なので大したダメージは入らなかったようだ。

 起き上がりざまにジャンプ攻撃を食らわし、光になってゾンビが消える。


 あと一体。


 と思った瞬間、背中に強烈な痛みを感じた。

 もう一人のゾンビが、ジャンプ攻撃をしてきたらしい。


 気力をしっかり保たねばならん。

 必死になって敵の正面を向き、ステップでどんどん後ろに下がって距離をとる。


 トドメを刺さんとばかりに、ゾンビが走りこんできた。


 わしは盾を構えて、やつの挙動に集中した。

 それによって背中の痛みが引くことはなかった。


 ゾンビが走って一歩動くたびに、鎧がじゃらじゃら音を立てている。

 それは一定のリズムを刻んでおり、どのタイミングで密着することになるのかなんとなくわかった。


 やつは剣を両手持ちにして、上に向けながらこっちにくる。


 今だ!


 わしは前方にステップし、真正面に密着したゾンビが振り下ろしてくる腕に向かって盾を薙ぐ。


 +10に強化したパリィは凄まじい威力だった。


 ゾンビの両腕が吹き飛び、後方によろめきながら下がったあと、尻餅をついた。


 こちらも棍棒を両手持ちし、座っているゾンビに詰め寄る。


「ラッシャァーーーーッ!」


 そのまま、やつの頭にフルスイングをお見舞いした。


 ゾンビの首が危険な角度に曲がり、そのままの勢いで横に倒れながらイスとなって消える。


 わしはやった!


 だが、素直に喜ぶことも難しい。激しい背中の痛みが残っている。


《CLIを開きます》


「お姉、さんや…… わしゃ死ぬんかいの……?」


《十分な時間があれば、イスを肉体に還元して傷を癒すことが可能です》


「おお! 頼むぞ!」


《イスを肉体に還元します》


 その言葉を聞いた瞬間、わしは卒倒した。


 たしかに、十分な時間が必要じゃ……な……

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