第2話 プライバシーを守ろう
木の中は暇だったので思い出にでも浸ろうかと思ったが、寝すぎた人生だったために、ほとんど時間を潰すこともできなかった。
というか、全然雨が止まないのでそっちの方が最悪だった。
しかも日が沈んでもう何も見えない。とんでもない静寂の中、余計な野生動物やヤバそうな虫たちが侵入してこないことは幸運だと言える。
いや、森の中とはいえ、でもいくらなんでも……
「暗い! くらすぎ!」
《
「うおっ、なんじゃ!?」
思わずじじい言葉が出てしまい、咳払いをしてごまかす。
いや、やっぱり自然体の方がいいのかもしれない。
『ぼく』は肉体と一致しているからいいかもしれないが、『わし』は精神と一致している、そんな感じだ。
「わしじゃ」
うん、やっぱこれ。
これだわ。
目の前には半透明の薄膜が浮かんでいた。
ハガキの倍くらいのサイズで、羊皮紙のような背景になっている。
左半分にはデフォルメされた人の絵があり、それが着ている服からなんとなく自分を投影したものだとわかる。
右側には、文字と数字のペアがリスト化されていた。
「お姉さんや、こりゃなんじゃ!?」
《あなたの概要です。この世界ではこのように視覚化され、前世のあなたのような人間を生み出さないようになっています》
「わしのような……って、やかましいわ! 使い方がわからんのだが」
《チュートリアルを開始しますか?》
「おなしゃす!」
《チュートリアル空間へ転送します……》
「ヒェ〜……」
わしは突然目が回り、そのままコテンっと意識を失った。
次に気付いた時には、広めのグリッド線の引かれた無機質なグレーの部屋にいた。
わしの格好は相変わらずで半透明の薄膜もそのままだったが、目の前には胸元のがばっと開いたスーツ姿のお姉さんがいた。
正直、心臓バクバクである。
あまり若い女の人と喋ったことがない!
彼女が口を開いた。
《CLIでは、自分に関して様々な干渉を行うことが出来ます。STATSを開いてください》
「そ、ソゥァ…… そうは言われても、読めんのでふ」
《言語野の最適化を試みます。承諾されました。イス変換によりこの世界の読み書きを獲得しました》
体が光に包まれ、CLIの中身が読めるようになる。
その上の方に横並びになったSTATSの文字を指で触ってみた。
するりと表示が横にスライドし、文字の一覧が現れた。
くしゃみ:16、睡眠:0、あくび:2、食事:0と、あらゆる行動回数が記録されているらしい。
《STATSでは、あなたの行動回数やデータが記録されています》
「ほう……」
わしはようやく意を決した。
この人、いや女に慣れようぞ。
成長せねば、また前世のような人生が待っている!
「ところでわしの股間を見てくれ、こいつをどう思う?」
思わずじじい感が出てしまったが、この7割ほどしかソレを隠せていない腰巻を指差して問うてみる。
《見ないようにしています》
わしはなんかニヤニヤした。
このお姉さん、意外と乙女のようだ。
すると、STATSの一覧に、『セクハラ:1』と新たな項目が追加され、記録された。
《新しく記載されることもあります。これらのデータはあなたのプライバシーです》
「この右上におどろおどろしい書体で書かれている『慧眼:0』という数値はなんじゃ?」
《それは、鋭い眼差しのことです。現在のあなたの瞳は曇っています》
なんじゃ……
説明になっとらんとおもうんじゃが……
とまあ、そんな感じでCLIの使い方の説明を受けた。
すぐ忘れるかもしれんが、色々いじってみれば思い出せるだろう。
「『性向』のメータが一つ『業』の方に傾いたみたいじゃが」
《セクハラが影響しました。『性向』両パラメータ共に0に引き寄せられるようになっています》
「つまり、セクハラは悪いことじゃと」
《その通りです》
「天使様の加護みたいなやつは大丈夫なんか?」
《一度取得したものは特別な理由がない限り消えません》
「ほァ〜、そういうものか」
わしの人生が記録され、いろいろと影響が出るようだ。
『性向』によって加護を得たのだから、他のパラメータや行動によっても何かが獲得できるかもしれない。
そのためには、真っ当で充実した人生が必要だ!
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