炭酸水の泡は一瞬であった

綿麻きぬ

プロローグ

 僕はいつもと同じように今日も何か意味を込めてペットボトルの蓋を開けなければならない。だがもう、意味さえない。中身は彼女が好き好んで飲んでいたただの炭酸水だ。なんの味もついていない。


 僕にとっての炭酸水は苦いし、炭酸は強いし、気が抜けるとなおさらマズイ、そんな代物だ。でも、僕は毎日ひたすら、あの日からずっと飲んでいる。





「おい、何をボーッとしてるんだよ。次の講義に遅れるぞ」


 友達からの声によって現実に引き戻される。


「あぁ、ゴメン、ゴメン。ちょっと、考えごとしてた」


「おいおい、講義あるだろ、急げよ。そういや、なんでお前はいつも同じ炭酸水飲んでんだ?」


「あぁ、ちょっと理由があってな」


 僕にとっての約束であってほろ苦いもの、いや、苦すぎるものだ。





 そう、これは僕と彼女との泡のような一瞬の話だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る