53

異様なまでに静まり返った教会の中に、五人のシスターがいる。

五人のうち四人はシスターらしく両手を組んで祈りを捧げるように頭を下げている。

一人は何も飾られていない祭壇を前に、浮かび上がっている映像を無表情で見つめていた。

「Bチームはやはり地下に潜って以降報告がありません。この土地の地下が次元レベルで断絶されているためでした。彼女らのバックアップが起動していない所を見るに、機能を停止しているわけではないでしょう」

彼女の声に応える声はない。彼女は続ける。

「セリスは宗教国家での職務が忙しく、また情報収集があるため今回は連れていけません。ですがレフィーナ、レイがいればなんとかはなるでしょう。ならなければ私だけでなんとかします」

言葉が発された時には、既に席の一つにレフィーナが座っていた。

金級相当の冒険者、または謎多き冒険者のレフィーナが。

その顔は快活な表情のまま動かない。まるでそういう仮面をつけているかのようだ。

「レフィーナ、障害と思しきものは全て排除して構いません。レイとの合流をなるべく優先してください」

シスターからの声に反応し、頷くがやはり表情は変わっていない。

「ベロニカ、クラリス、ダリア、エリス」

その声に祈りを続けていたシスターたちが顔を上げる。

「私も出ます。貴方達も準備をしておくように」

言いながら、リーダーのように振る舞っているシスターの視線は一つの画面に注がれていた。

これから向かう地下ではない地上の町。そこで因縁をつけてきたごろつきに言われるがまま裏路地に向かい、その直後には彼の顔面を拳で破壊している長身の女性。

黒と白、リボンの一つは赤のゴシックドレスを着た女性。

藤森椎奈という存在なのだが、様子を見ていた彼女の口からは違う言葉が漏れた。


「…フレデリカ」

その言葉にレフィーナが表情を変えないまま疑問を呈するように首をかしげるが。

「あなたには関係のない話です。それに、フレデリカはもういません」

と答えると、彼女は興味を失ったかのように姿を消した。

「何故、私はフレデリカの名前を呼んだのでしょうか」


「地下に向かう?」

フレデリカと呼ばれていた藤森椎奈に、カーネイジが言う。

彼女はパッと手を放すと、彼女に因縁をつけてきた不運な男が糸が切れた人形のように地面に崩れ落ちた。その顔面は素手でどうやったのかと思われるほどに破壊されていた。

「そう、地下だ。ここら一帯の妖怪どもの様子がおかしいのは、連中の理性と力の源である霊力がこの江戸のような町の地下に集められて枯渇しているからだ」

突き止めたのはヤクモと蒼天だがな。と加えながら。

「あの二人の説明が複雑すぎて聞く現代アートみたいだったが、ここの地下は次元が異なる異世界で、普通の方法では調べられない。調べるには地下に直接潜るしかない。ということだ」

「まさかあなた、町のど真ん中でわたしにスコップで掘れとか言うんじゃないでしょうね」

「ぼくをなんだと思ってるんだお前は…。安心しろ、入る方法ならある」

蒼天で爆撃でもする気?と椎奈が半分ほど本気で言っている間にそれは起きた。

異空間に入る時に感じると言われている特有の酩酊感や異変を感じ取ることもなく、二人は別の世界に降り立っていた。

先程まで戦国か江戸時代のような町にいたはずなのに、椎奈が今いる場所は地面はコンクリートで、ネオンライトが太陽のように輝いている近代都市となった。

「ここは…何処?」「全く別の世界が、何故か世界に食い込むように混在することがある。他のウェステッドが言っていた」

それは本人の意図しない所で入り込んでしまう異世界。

「どうやったかはわからんがヤクモが「場所を固定した」とか言い出したと思ったらこうして入れるようになった。…何をすればいいのかは分からないが」

「そんなの、わたし達は何だって言われてると思ってるの?」

「世界を滅ぼす棄てられの獣、ならやることは一つよ」

「そうやって思考停止してはいけないと言っているんだ。ぼくも叢雲も」

「だけどあなたも何をすればいいのか分からないというのなら、やると言われていることをやるしかないでしょうに」

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