12000年前だか13000年前のいくつめかの記憶-3

わたしが生命を落とした後、世界には何が残ったのだろう。


よくないものとしてはわたしが撒き散らした汚染が最初に挙げられるだろう。

わたしが死んだことで、わたしの中にある生体原子炉は制御を失いメルトダウンを起こしたはずだ。

となればわたしが没した海域は、深海に至るまで放射線汚染を受けたことになる。

そして汚染は、海流に乗って世界中に流れていくだろう。何かしら対抗手段は人類は思いついて実行すると思うけど、それが間に合うか、それで解決するかは分からない。

次にあがるのは、カルトだ。

どうしたことかわたしにはカルトが生じていた。わたしを神と崇める宗教団体だ。

わたしに人生を破壊されたのか、元々壊れていたのか、誰かにどんな形でもいいから世界を壊して欲しかったのか、わたしにはわからないけど。彼らはわたしを神だと崇めていた。

わたしが人類社会を破壊するのは、人類への罰なのだととか。人によって教義、わたしがやっていることへの解釈は違ったけど、概ねわたしは人類への試練だった。

そんな神や神の使者を核兵器で消し飛ばした世界を、彼らは決して許さないだろう。

…まあ、その一派の一つを踏み潰したのはわたしだけども。アリを気にせず踏んづける象みたいなものだと思う。わたしにとっては、彼らもそれ以外も、喧しい光の元の一つに過ぎなかった。

それに、わたしが人類への試練だというのなら、わたしを倒すのは試練を乗り越えたことになるんじゃないかな。まあ、その次の試練がすぐに待ち受けているんだけども。


最後はわたしをあそこで殺すことを誰が承認、決めたのか。

誰がわたしを殺した後に起きることへの責任を取ったのか。

わたしにはどうでもいいし、今のわたしには分からないことだ。

でも人間って、責任を負い、責任を負わせる生き物でしょう?


ただ一つ分かっているのは、わたしが死んだあと、わたしが生まれた世界は決してすぐに平和が訪れたわけではないだろう。

わたしは海中に没しながら考えるのもバカらしくなるような汚染を海中に撒き散らした。

わたしが歩いた場所は生物はともかく人間が立ち入ることができない場所になった。

わたしの汚染は風に乗り、雨と共に世界中に降り注いだ。

わたしを追い払うために人間は途方もない出血を強いられた。

そしてこれからも、わたしのせいで人間は犠牲と苦悩を強いられることだろう。


…これはきっとわたしの前世の記憶。

それはそれとして、では藤森椎奈としての記憶はなんなのだろう。

カーネイジのように怪獣のわたしと今のわたしの間の記憶が藤森椎奈としての記憶なんだろうか。

にしては所々作り物みたいな気がする、怪獣の前世もだいぶ作り物感がすごいけど。

だが違うのは、怪獣の前世は明確に思い出せる。椎奈としての記憶はあまりにも覚えていない箇所が多すぎるということだ。

この記憶は何物なんだろう。

そう思ってわたしは目を開く。閉じる前と変わらない海。違いとしては潜水用の魔法で息を長く続けれるようになったカーネイジのしかめ面が目の前にあることだ。

がぼぼこと口を動かして彼女に話しかけるけど、彼女はわたしを銛か何かで突き刺そうとしてきたので慌てて浮上した。


「つまりわたしは怪獣だったのよカーネイジ」

「藤森が酸素欠乏症か潜水病で壊れた…」

壊したのはあなたでしょうに。

「あなたが壊したわたしの頭なんてどうでもいいでしょ、それよりもあの海よ。あの調子じゃ10人だろうか100人突っ込んだり饅頭をトン単位で落としても晴れないわよ」

「なんで饅頭なのかは分からないが、それについては原因ははっきりしてる」

わたしが破壊した国の古い話になかったかしら、生贄の代わりに人の頭を模した肉饅頭を投げ込んだとか言う逸話。これが肉まんの由来だって聞いたんだけど。

「王様。ディートリンデも戻ったか。その様子じゃ全身がふやける程度で済んだようだな」

「藤森の頭が海水漬けになって壊れた」「あんたほどじゃないだろ、蒼天が作戦というか手順を持ってきたぞ」「おい、なんでもう決まってるんだ」「そりゃカーネイジ、アキチと君と叢雲ちゃん、呉くんらは蒼天から作戦会議出禁食らっちゃったからね」

ワイワイと騒がしいけど、今のわたしは当時のわたしよりもだいぶ落ち着いたのかやかましく感じない。

あるいは人並みの視聴覚を手に入れたので昔よりもずっと鈍感になったのか。

それはそれでいいことだと思う。あるいは、思い出せたのでもしかしたら部分的にあの時の感覚を使えるかもしれない。そうしたら、カーネイジを次こそ捉えることはできるだろうか。


「あの海だが、この世界の主要な港や島で定期的に起きてる現象だというのがわかってる。生贄文化がある場所は生贄を、そうじゃなきゃ金銀財宝を投げ込んで鎮めているとか」

「で、それを起こしてるのもはっきりしている。この世界が誕生した時に一緒に生まれたとか帝国で信じられてる7体の竜の一体、水竜リヴァイアサンだ」

「そして蒼天が狙ってる大物エースの一体でもある。どんなやつなのかも分かってる。周囲の水を操って巨大な竜の体を形成している。そのせいで俺たちの得意武器の効きが悪い、てか効かねえ」

「王様の電撃魔法も通じるか怪しいんだよ、魔力で集合させてるからあれ自体が対魔法の装甲みたいなものだとヤクモが言い切った」

「とはいえ弱点がないわけじゃない。世界の始まりと一緒に生まれたと豪語する割にはタネがあることをヤクモが突き止めている。だが相手はその気になれば数キロかつ数百トンの超巨体になれるでけえドラゴンだ。そこで蒼天が抜擢したのが」

世界を滅ぼす怪物だと言うには、無防備に誰もいない広場の真ん中で会話しているわたし達を影が覆う。というのもこの港町はとっくの昔にゴーストタウンになっている。なった理由としてはウェステッドと大国間の戦争がある。

見上げると、そこには一体の人型ロボットと四足ロボ。

「ブリキが増えた…」とカーネイジが呟いている。ブリキじゃなくて鉄製じゃない?と思うけどその辺はどうでもいいだろう。

「サイクロプスとライノガンナーって言うんだとか。こいつらで海の怪物を退治するって話だ」

ブリキ1号ことサイバービーストが言う。正確にはサイボーグのアメリカ兵士らしい。

後に聞いた話ではわたしが最初に辿り着いた街で暴れたことのあるウェステッドとか。

見る感じでは水陸両用には見えないが、大丈夫だろうか。

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