35:「装甲騎兵と名乗るべきか、鋼鉄核兵と名乗るべきか」

<サイクロプス、ライノガンナー。これよりわれの指揮下に入れ。この世界から脱出させてやる>

雲一つないような青空に、三つ首の竜の影。

その影の下で、二機のメカが所々を損傷させながら倒れていた。

一機は、カーキ色の人型ロボット、もう一機は、亀のような四足歩行型ロボットである。

二機が十数メートルであり、そして場所がクレーターであることを除けばまるでプラモデルか可動フィギュアをおもちゃ箱に放ったかのような状態で、二機は倒れながら三つ首の竜…蒼天の声を聴いていた。


蒼天。本名、ミハイル・パステルナーク。ウェステッドの王の一人として知られていて、サイクロプスとライノガンナーの認識はそれに加えて話が通じない、カーネイジ同様要注意人物の一人でもある。

もとい、王と呼ばれているウェステッドの大半が、話が通じないか近づかない方がいいと言われているというのは彼ら以外のウェステッドでは常識となりつつある。

”十年前の敗戦”の後からはその常識が広まるのに拍車がかかった。

元々は空軍のトップエースだったという彼が、何をどうしたら三つ首の機械竜へと姿を変じたのか、声をかけられる前の挨拶代わりとばかりに投下されたクラスター爆弾で痛めつけられたサイクロプスは声を聴きながら思った。

もっとも、爆弾を投下されるまでは同じように爆撃を受けてひっくり返った亀のようになっているもう一方、ライノガンナーと些細なことで喧嘩になり、見ようによってはロボット生命体が相撲を取っているような取っ組み合いをしていた自分達に話をするためには争いを仲裁する必要があったのかもしれないが。

だからといって、実弾で仲裁するのは違うような気もするな。と考えをまとめると、彼は片腕が吹き飛んでいるとは思えない軽快さで身を起こした。

ライノガンナーは、まさにひっくり返された亀のように足をばたつかせていた。

こいつは本当に人類に反旗を翻した自律兵器なのか、とそれを尻目に吹き飛んだ自分の片腕を適当にくっつけてから、彼を助けた。


<作戦は後で連絡する。それまで修理と装備を整えておけ>

そう言い放ち、蒼天が空へと消えていく。とんでもない轟音を響かせながら飛行する彼だが、この世界の人間は積極的に彼に攻撃を仕掛けない。

それを行った国のことごとくが貴重な航空戦力を破壊し尽くされ、対空設備も同様の運命を辿ったことで攻撃したくてもできない、とも言う。

そしてこうしたファンタジーな世界においては定番というべき、空の王者を名乗るような存在、主に巨大な竜は、逆に彼に戦いを挑まれ、地に墜ちた。

帝国という軍事大国が彼を強く憎んでいるのは、帝国の主教が竜信仰であり、神の化身ともいうべき竜を殺して回った機械の竜なんて存在は、悪魔といっても差し支えないのだろう。

そして、その悪魔に抗う力を奪われたのも帝国だった。

「パイロットとして、空を統べると言う竜に戦いを挑んでみたかった」が動機で、トップエースだった彼にとって、名のある竜、強大な力を有すると言う竜は敵のエースパイロットに匹敵すると思ったのだろう。

実際は、ハイテクノロジー兵器で嬲り殺しどころか、その巨大竜たちよりも巨体から繰り出されるドラゴンらしい攻撃…引っかきや噛みつき、尻尾の一撃で地面に墜落し、大抵はそれっきりだという。

名のある竜を次々としていった彼が、転生者によるものなのか航空部隊を有する国家に狙いを定めるのは彼がこの世界に来てほんの数日の事だった。

まずは竜人の国なる場所が、その次は竜狩りで知られていた国を、最後にこの世界最大の軍事国家たる帝国が、彼によってその戦力を破壊された。

それも航空戦力、対空戦力とされるようなものだけを的確に。


「何をどうしたら奴は俺の足元にスマート爆弾を滑り込ませるなんて芸当ができたんだ?」

「エースパイロットらしいし、曲芸飛行と曲芸爆撃は得意なんだろう」

体勢を戻したライノが口に該当するパーツを動かさずに喋る。

この四脚兵器は何度も蒼天に戦いを挑んでは、その度に様々な方法で亀のようにひっくり返されている。

最初は本当に亀が鳥にさらわれるように砲台を掴みあげられて宙づりにされた。

それ以来アンカーパイルと呼ばれる固定装置で地面に張り付いていたが、今回はクラスター爆弾の雨を迎撃させている間にスマート爆弾を足元に滑り込まされ、爆風でひっくり返されたようだ。

その前は多数の無人機から伸ばされたクローアームで持ち上げられたため、迎撃システムを追加して近付けないように対空能力を高めたわけだが、今回は精密誘導爆撃にやられたということになる。

なお、人型の方のサイクロプスもミサイル迎撃装置を備えるようになったためか、無誘導のクラスター爆弾の雨を叩きつけられたようだ。

「それにしても、この世界から出してやるってどういうことなんだ」

「わからん、俺達ウェステッドは世界のことはおろか、ウェステッド自分自身のことすらよく分かっちゃいないんだ。この世界がどういうもので、俺たちは何のために存在して、何をすればいいのか、そしてこの世界から出れるといっても、どうやって脱出して、その後どうすればいいのか、全部わからんままだ」

「相変わらず、わからないままなのか」「世界を壊すというのも、誰かが言い出しただけで本当なのかは分からないんだ。王のウェステッドは何かを知っていると聞くが、その王様たちはカーネイジを筆頭に俺達他のウェステッドを嫌ってるような素振りをする奴が殆どで、そうじゃないミグラントは何も知らないときた」

「孤独主義なんだろう、カーネイジはなおさらに。何かしらのカテゴリーに含まれてるってだけで奴は死ぬほど腹立たしいんだろうな」

そんな連中に、これから従うことになる。

使い潰されるのがオチだろうな、とサイクロプスは思った。

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