Chapter7-1B-2
まず仕掛けたのはミグラントだった。
というのも、槍を構えたかと思ったらビースト、ジョンめがけて投げてから、どこからともなく長大なライフル銃を引き抜いたのだ。
「どうせ君ら、カーネイジにアキチが何ができるか見てこいって言われたんでしょ!だったら見せてあげるから、一人分はお返しってことで勘弁してね!」
お返しってなんだよ、と思い口にしようとしたところで、ジョンは意味に気付く。
だがこの状況で?と思い何故か棒立ちになっているキルストリークに牽制を入れるよう目配せで合図しようとしたときには、ライフル銃が彼の思った方向に銃口を向けていて、発砲と同時にその先の風車小屋にいるガンヘッドに電子頭脳間の通信を発していた。内容は単純に。
「そこから逃げろ!」だったのだが、それをガンヘッドが受け取って動こうとしたときには隣で観測を続けていたレッドアイの左目が撃ち抜かれていた。
そして、ジョンの方では、超人的な狙撃を成功させたミグラントが突然くずおれた。
糸が切れた人形のように、突然その場に倒れ伏したのだ。再生するのと同じように、急速に腐敗していく。服すらも。
「今度は何スかもう!」人が死んでは生々しく生き返る光景を見て辟易しているような電子音でキルストリークが声を上げた。
「人が死んだり腐ったり生き返る度にビビるな!この距離で俺狙いじゃないってのは発想が少々おかしいが、初めから狙ってたんだな」
言いながら風車の方を振り返ると、風車が突然爆発した。正確には、内側から何かが飛び出した。
その直前にガンヘッドが窓から飛び出していて、風車を内側から破壊した何か、白い牙のような物体のいくつかが彼を引き裂こうと追うように伸びるのが見えた。
「なんじゃありゃあ!」「あいつの能力か。ナードが好きな漫画のキャラにいなかったか、宇宙から来た寄生生物みたいなので」「あれよりにくにくしいッス」
「やっぱ慣れねえな、コミックだのアニメだの映画の世界みたいなのが現実に起きるってのは」≪これがナードたちが行きたい
「こんなグロテスクなものが平然と出てくる世界はお断りッス」
思わずのんきに会話する三人。飛び出したガンヘッドも綺麗に着地し、重力に従いながら伸びてくる牙を掻い潜って合流しようと走っているところだった。
「一体何が起きたッス?なんすかあれ」≪レッドアイが頭撃ち抜かれたと思ったら、膨れ上がって牙か肋骨のようなものが飛び出したんだ。あの鳥男の能力なんだろうけども、エゲつねえ≫
それを聞きながらキルストリークがレッドアイを撃ち抜いた上で破裂させたミグラントの遺体に目をやる。そこで遺体の姿が消えているか、目が合おうものなら彼は再び悲鳴を上げるし、生身の身体を持っていたら今度こそ失禁していただろう。
「ミグラントの死体はここで大地に還りつつあるッス。じゃああのエイリアンの肉塊が今のアイツなんスかね」「だったら消毒しなきゃな」
そう口にして、ビーストが左腕と半ば融合した巨大なランチャーを変形させる。
それは火炎放射器へと形を変える。
「なんで消毒ッス?」「そういうものじゃないのか、映画だと」
≪お前ほんと映画やドラマに興味なかったからなあ…≫
キルストリークに首を傾げながら答えて、彼は火炎放射器となった左腕を脈動しながらこちらに向かってくる肉塊に向け、瞬時に火を放った。
火焔がまるでホースから流れる水のように放物線を描いて肉塊に降り注ぎ、一瞬で火だるまになる。声を発する器官があれば叫び声をあげるのだろうが、塊はあげることなく炎を受け入れたかのように燃え上がる。
「よく燃えてるッスね」「おっかないよね」その光景をキルストリークの隣で見ながらミグラントが言う。「はあ!?」振り向いた彼が信じられないものを見たかのように飛び退く。
「アレの中に入ってたんじゃないのか」「あれは君たちの仲間ザンス。まあアキチもあそこにいたけど」
右手でライフルを構えるビーストに、平然と言う。
「アキチ、表向きだと何でも治す「医療」って能力だって言ってるんだけど、実際は単なる「再生」ザマス。本当ならチリになるまで何かされてもアキチは意地でも再生するってだけだったんだけど、カーネイジが「相手の身体に入り込んで乗っ取るくらいのことはできるようになれ」とか言い出しちゃってさあ」
「その結果が、あのエイリアンかよ」「カーネイジが言うには、いき過ぎた再生は肉体の膨張と崩壊を招くんだって。昔見たことがあるらしいよ、回復魔法かけ過ぎて全身が膨れ上がって破裂しちゃった人」
その様子を想像したのかキルストリークがミグラントの後ろで呻き声を出して口があったであろう箇所に手をやる。
「いやもうカーネイジの奴言っても聞かなくってね、初めは魔物とかをけしかけてきたんだけど、アキチも一応強いから返り討ちにしちゃうの、噛みつかれても引っかかれてもすぐ治しちゃうし。そしたらあいつ何吹き込んだのか冒険者とか送り込んでくるようになっちゃって、死にたくないからまあ倒すんだけど、明らかに後で発見されたって言う遺体の状態があいつがデコレーションしたみたいになってたヤンス」
「いつだかの金級パーティとやらが、生首でトーテムポールしてたって奴か」「あれは別の子だよ。アキチが倒した人で聞いたのは女の子がまるで豚の丸焼きみたいになってたってやつ。おかげで裏ではアキチのこと食人鬼なんて呼ばれるようになっちゃったザマス」
「あー想像しちまった、食人村で見かけるやつだ」「変な映画見てるッスねえ」
「なんだかよくわからんが、もう終わりって感じか?」
左腕の武装状態を解除し、手を後頭部に置きながらビーストが聞く。
「ああ、うん。この様子じゃあここのゴブリン退治もカーネイジの嘘だろうし」
「それで、どうするんだこの後。王様は多分俺たちがくたばってると思ってるぞ」
「アキチも王様だからアキチが生かすと決めた。とか言い張れば大丈夫ザマス」
「ホントッスかそれ…」
そして。
「…こうして彼らとアキチは一緒に行動してここまで帰ってきたわけザマス。残念だったねカーネイジ」
「俺らこれからあんた達の宮廷魔導士やることにしたから、よろしく王様」
「宮廷魔導士?魔術師とか道化師じゃなくてか?」
「どっちでもいいッスよ、今後ともよろしくッス王様」
気さくな挨拶と共にやってきた三人とミグラントに対してカーネイジがしたのは。
「なんで殺し合いして普通に仲良くなって帰ってきてるんだこのブリキ共!」
普通に怒鳴った。
それに対して第二の王であるミグラントは「知らないのカーネイジ、戦いから産まれる友情もあるんだよ」と第一の王に答えたのだった。
その返答の直後、ミグラントが人型の蝋燭のように頭部だけが火だるまになった。
「すげー人間ロウソクだ」「うええグロいッス」「器用なことするなあ」
その様子を、三人はまるで見世物のように眺めているのであった。
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