悪意の結末 〜カラス編参〜
ナイフを出しちゃったかー。さて、真希さんが撮影してるだろうから、時間稼ぎをしよう。
『危険ですよ、作戦Bにいきますか?』
「いや、大丈夫。こいつに刺す度胸はないから、たぶん」
ハンズフリーでの会話が真希さんとつながっている。音声も一緒に記録するためだ。
「小谷よぉ、おまえなんで妹のプロフィールなんか、出会い系サイトにアップしたんだ?」
「ああ!? そんなこと知らねえよ! 俺は、こいつから『儲け話がある』って持ちかけられてただけだ!」
「ひっ」
小谷は受け答え中、ナイフを使って脇にいる女の子を指した。……つまり、始まりはこの女の子ってわけだな。しかし、妹は中学生に恨みを買う何かをしたのか……?
「まあいい。小谷、てめえナイフを出したからには、あのときの続きをやる覚悟はできてんだろ?」
「……う、ううっ……」
小谷、やたら半グレ気取りな割には、意外と小心者なんだよな。窮鼠猫をかむ、にならんよう、あまり追い込まないでおくか。――あの女の子に折檻するまでは。
よし、撮影するには十分な時間だろ。じゃあケリつけるとするか。
「よっ」
俺は警棒を小谷に向けてゆっくり突き出す。リーチ差を利用しての牽制だが、小谷はそれを空いている手で掴んだ。
「……バカが。掴んだぞ」
「いや、離さないと、死ぬぞおまえ?」
「寝言言ってんなよ!」
「あ、そう」
俺は警棒の奥にあるスイッチを、躊躇なく押した。刹那、ショートするような効果音とともに、暗闇に閃光が走る。
「ギャーーーーッッッッ!!」
小谷の悲鳴があたりに響き、その場に倒れ、転げ回る。
「いてえ、いてえ、いてえよぉぉぉ!」
俺は小谷の手から落ちたナイフを瞬時に拾い上げて、小谷を無力化した。よし、あとは蹂躙タイム到来。
「だから言っただろ。警棒兼スタンガンなめんじゃねえよ」
三万ボルトの強烈なヤツだ。自分で試す気にもならないくらい痛そうである。しかし、これをなぜ瑠璃さんが持っていたのやら。……いや、考えるのをやめよう。
「種明かししたとこで……」
ついでに倒れている雑魚二人にも電撃を食らわせておく。スタンガン足に当てときゃ、しばらく動けなくなるだろ。
「えい」
悲鳴が二回。後顧の憂いは絶った。
「……さて、と」
俺は倒れている小谷の上にまたがり、睨みつける。たぶんもうこいつは戦意喪失しているからあまり追い込まなくてもいいのかもしれないが、またトラウマ植え付けてやらないと同じことを繰り返すかもしれない。
「おまえ、中学んときもムカつくことやってくれたよなあ? あの時できなかった続き、今ここでするか?」
「や、やめ……」
「あ、それとも、股間にスタンガンでも食らわせとくか?」
ナイフとスタンガン兼警棒の両方を小谷の目の前にちらつかせた瞬間、またがった後ろからなま暖かい気配がした。……この程度の脅しで失禁するなよ……
「撮影したかな?」
『バッチリです』
撮影隊の真希さんとのハンズフリー会話で、失禁の瞬間を撮影完了したことを確認。小谷は泡吹いてるけどほっといていいな。
俺は最後に残った女の子のほうを向いて睨みつける。
「はい、残るはひとり」
「ひ、ひぃぃぃぃ……」
ナイフ対策用に腹に当ててたマンガ雑誌を取り出し、角で女の子をごちんと叩く。おしおきだ。
「びゃっ!」
「おイタの時間は終わりだ。覚悟しろ」
「お、犯さないで……」
ずっこけた。
「するか!!」
「だ、だって、それが目的できたんでしょう……?」
俺はボリボリと頭を掻く。最後にやり返された気分だ。
―・―・―・―・―・―・―
とりあえず小谷ほか二名はもう放置でいいだろう。きっちり
で、ところ変わって、いざという時のため待機させておいた瑠璃さん宅の車の前に、四人集結プラス主犯。
美佳さんは俺のアシストのため、近くの物陰から伺いつつ、美佳さんと圭一から借りてきた自転車をふさぐように置く役割で、かつ万が一の時の叫び役。
真希さんはホテルの非常階段の踊り場から撮影をする役。このホテルはガラガラで、こういうことができるのがよかった。ホテル関係者にも見つからなかったようで何より。
「将吾お兄さん、おっつかれー!」
「ナイフ出されたときはヒヤヒヤしましたが……」
「なんとか無事終わりましたわね」
「いや、まだだ」
三羽烏がねぎらいの言葉をかけてくる中、俺は鋭く女の子に向き直り、尋問を始めた。
「おい、いったいどんな理由で、あんなプロフィールを出会い系サイトにあげたんだよ?」
「………………」
主犯はだんまりを決め込んでいる。
「…………おい。なんとか言え」
「ふう……埒があきませんわね。あなた……」
瞬時、瑠璃さんの雰囲気が氷の女王みたいになった。
「もしこのままだんまり決め込むなら……あなたの×××にこの警棒を突っ込んで、電気を流すスイッチを押してもいいんですわよ?」
警棒を女の子の頬にピタピタと当てながら、抑揚のない声で恐ろしいことを言う瑠璃さんを目の当たりにして、俺の背筋に冷や汗が流れた。……瑠璃さんは怒らせないようにしよう。
女の子の顔面から血の気が引き、パクパクと言葉を発しない口が動く。まったく、最初から素直になれや。
「……よし。まず、名前と年齢」
「……
やはり中学生か。ビッチへの道を歩みたいお年頃なんだろうか。
「美月。じゃあなんで、出会い系サイトにあんなことを書いた……?」
「名前で呼ばないで!」
「いいから理由を言え」
「……お兄ちゃんがあの女に夢中になっちゃって、わたしのことまったく構ってくれなくなったから、腹いせにやった」
「「「「!?」」」」
互いに顔を見合わせる。
「あー、なんというか……」
「すみれちゃんの……」
「同類ですわね……」
三人の視線が俺に向かったので、俺はバツが悪くなり、質問を続けた。
「……で、
「最初はそんなつもりなかったけど……夜遊びで知り合った仲間に話したら、『やろう』ってなって……」
「バカが。……どこから
「……お兄ちゃんの、スマホから」
「はあ?」
つまり、美月の兄は、すみれのことが大好きで、スマホの中に隠し撮りした写真やら何やらを入れていたというわけか。――――西野? どこかで聞いたような……
「あっ、ひょっとして……西野副会長の、妹ちゃんなのー?」
美佳さんが、思い出したような声で、そう叫んだとき、真希さんと瑠璃さんは『あっ』という表情になり、美月はビクッとしてうなだれる。そういや……グループチャットで言ってたような……
「…………」
いや、それ以前にもどこかで……
「……あーーーーーー!!!」
俺が思いっきり叫んだせいで、まわりの四人はおろか、車の前にいる黒服ボディーガードまでビクリとしたようである。
「ちょ、おま、尻、しりぃぃぃぃ!」
「お兄さん落ち着いてください。いったいどうしたんですか?」
真希さんになだめられ、俺はこいつらの父親が妹にしたことを説明すると。
「……お父さんの……バカ」
美月もそう吐き捨てた。まったく……父親があんなだから娘がグレるんだよ。
「なんかゴチャゴチャだわ……もういっそ美月連れてROOD行くか……」
全部が全部面倒になってきたので俺がそう漏らすと、その意見に美月を除く全員が同意したので、多数決によりROOD連行が決定した。まだこいつの兄がいればいいんだけどなあ……
―・―・―・―・―・―・―
「ほんっっっとうに、申し訳ありませんでしたっ!」
西野副会長はいまだにROODにいた。たぶん、
いきなり大人数で押し掛けたのと、俺がこんな格好だったので、いったい何事かと妹に怪しまれたが、今日のROODは忙しくてこちらにはあまり意識を割けないようだ。さすが俺、ナイス判断。
「もうこんなことをしないよう、僕が言って聞かせますので、なんとか勘弁していただけませんか……?」
「いや、あの出会い系の書き込みさえ消してもらえたら俺は許さんでもないけど。美月、おまえ、俺たち以外にも
「……他にも、ふたり、ほど……」
「美月! ……おまえは!」
兄に厳しく追及され、美月は今にも泣き出しそうである。兄の前ではこうも態度が違うのか。
「……副会長様。他にうつつを抜かすのもよいですが、かけがえのないあなたの妹様を、ないがしろにしないでくださいまし」
瑠璃さんの言葉に、美佳さんと真希さんも激しく首を縦に振り、副会長は居心地が悪そうに俺に向き直る。
「……はい。約束します。ごめんな、美月」
「…………お、お兄ちゃぁぁぁん……ごめ、ごめんなさいぃぃぃ……」
美月が号泣して兄に抱きつき、兄は妹の頭ををポンポンと軽く叩いてなだめる。俺はその光景を見て、これ以上怒る気はなくなってしまった。
そのまま美月は人目も気にせず泣き続け、泣き止んですぐに、二人はROODをあとにした。絶対に償いをさせる、と兄が誓ってから。
――なぜ副会長が
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