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「織、おまえテスト範囲同じだっけ?」


 期末テスト前日。

 リビングで教科書ぐらい眺めてみようかなーなんて思いながらもゴロゴロしてると。

 陸が、あたしの頭を鷲掴みにして言った。


「…範囲?知らない。」


「何だよ、おまえはー。授業中何してんだ」


「そういう陸だって、知らないんじゃない」



 あたしと陸は、自分でいうのも何だけど頭がいい。

 常に学校トップの成績を二人で競っていた。

 というのも、陸が異常なまでの勉強好きで。

 あたしは、よく陸につきあわされてテキストを何冊もやったもんだわ。

 ってわけで、あたしの頭の良さは、陸のおかげでもあるんだけど…



「確か数学は女クラの方が進んでたよな」


 陸が教科書をパラパラとめくる。


「何なの?」


光史こうしが来るんだ。勉強しに」


「…光史?」


朝霧あさぎり


「ああ…」



 陸の、こっちでの大親友。

 珍しい。

 いつもは、陸が朝霧君ちに遊びに行くのに。

 初めてだな…「友達」とかいう人間が家に来るの。



 ちなみに、二階堂組って看板は…あたし達が越して来てからは見ていない。

 …気を遣ってくれたのかな?と嬉しい反面、ヤクザがこれでいいの?って心配でもある。



「ね、陸はどうして朝霧君と仲良しなの?」


 あたしは、教科書に目を落としたまま問いかける。


「あ?」


「なんか、タイプ的に違うような気がする。今までの友達と」


「そっか?すっげー、いい奴だぜ?」



 朝霧君はクールな感じ。

 陸の今までの仲良しといったら。

 森魚もりおをはじめ、はじけたような人ばっかりだったのに。



「坊っちゃーん、お客様ですよー」


 玄関から沙耶君の声がして。


「あ、来た」


 なんて言いながら、陸は嬉しそうに玄関に向かった。


 一緒に勉強…ね。

 なんだか、少しだけつまんない。

 いつも、陸と二人だけでしてたのに。



「こんにちは」


 口唇を尖らせてるところに朝霧君がやって来て、慌てて笑う。


「こ…こんにちは」


「ごめんね、二階堂さん。勉強のじゃまして」


「あ、いや、全然…」


「何だよ、二階堂さんだなんてさ。織でいいって」


 陸が間に入ってそう言って。

 朝霧君は首を傾げて笑ってる。


「こいつも、朝霧君じゃなくていいって。光史だよ、光史」


 あたしと朝霧君は顔を見合わせて笑う。


「いきなり、呼び捨て?」


「俺は陸と違って、はじけてないからなあ…」


「何だよ、それは。んな、他人行儀やめろよ」


「……」


 あたしと朝霧君が黙ってると、陸は教科書を開きながら。


「あ、どうせ他人だもんね、とか思ってんだろ」


 って、眉間にしわを寄せて。


「織は俺と双子なんだぜ?俺が呼び捨てなら、織も呼び捨てさ」


 やけに説得力のある声でそう言った。



 こうして、初めて…三人での『勉強会』が始まった。

 舞とも、森魚ともした事のない勉強会。


 と言うのも…

 あたしと陸の勉強のペースって、たぶん…すごく早い。

 本当なら、わざわざテスト勉強なんてしなくていいんだけど。

 二人とも、どっちが一位を取るか。って競ってるから…

 テスト前日に、それこそテスト範囲なんて知らなくても、一気に復習気分で勉強する。


 今回は期末テストだから、一学期分丸々復習。

 …朝霧君、あたし達のペースについて来れるのかな…



「え。もうそこまでやってんの」


 案の定、朝霧君はついて来れなかった。

 でも頭が悪いわけじゃないな…って思った。

 最初に陸がポイントを押さえるコツを教えると、それはすぐに理解したみたいだし。

 …だけど仕方ないよね。

 あたし達は、少しばかりIQが高いし。



「俺らと同じようにやらなくていいっつったのに」


「いや、なんか興味あって」


「ここと…ここからここまでやったらいいって」


「すげーな。ヤマも張れるんだ?」


「たぶん、だぜ?」



 朝霧君は陸をマジマジと見て。


「助かるよ」


 ちょっと…いい顔をした。

 だけど…


「坊ちゃん」


 真顔でそう言って。


「あー!!もう!!人前で呼ぶなっつったのに!!沙耶ーーー!!」


 陸は真っ赤な顔をして、庭の掃除をしてた沙耶君に突っかかったのよ…。

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