星屑ダンス【お題:子犬】

 涙をぬぐいながら、夜道を足早に歩いた。だれかが追いかけてくる気配はない。

 こらえるように唇をぎゅっと噛んだら、痛かった。

 ――できないものはできないって言ってんじゃん!

 公園を見つけて、ベンチに腰掛けた。安心したら、久しぶりに怒鳴ったせいで痛めたらしい喉がひりひりと悲鳴を上げた。コートも羽織っていない体は、少しずつ夜の風に冷やされていく。このまま凍え死んじゃったら、さすがに悲しんでくれるかな。でも受験のために死ぬのもばかばかしいな。私は足を投げ出した。

 ――それ相応の勉強をしていないからだろ!

 だって私は、勉強なんてしたくない。夢を追うことは許されない。高校生にもなって夢を追いかけていたら、それだけでできそこないだ。

 私はいつだってできそこないだった。勉強もできないし、運動も中の下かそれより下だ。私に残されたのは、これしかない。私は周りを見回す。街灯の光がちかちかと光だけで、ほかに何もなかった。私は立ち上がる。ここは観客のいないステージだ。点滅する街灯の光はスポットライトで、噴水は円形ステージ、地味な制服は衣装、水の音と風の音、とおくの町の騒音はぜんぶ音楽だ。普段なら邪魔くさいスカートの裾も、今は気にならない。私はひとりなら自由に舞うことができる。

 ひとりじゃないことが、こんなに重たいなんて思わなかった。

 ぴたりと動きを止め、空を見上げる。踊ったら、冷たい風が途端に心地よくなった。真っ暗な夜空を見上げると、白い息がやけに際立った。このままじゃ、だめだ。

 かえりみち、小さな犬を見かけた。さみしそうな声で鳴く子犬に、私はすこしだけ足を止めた。

「……おまえは、かわいそうだね」

 私は頭をなでてやったりはしない。私とこの子犬の運命は交わったりしない。だってこの子犬は、自分で自由をつかもうとしない。きっとできるはずなのに。

 私は意を決して、家のインターホンを押した。胸はさっきよりも痛くなかった。

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