#3-2 彼女も監督たちと同類だった

 「殺しても殺してもすぐに湧いてくる。静かに買い物もできない。あれは虫ですか?」

 「いえ……あの、目の前にその人……サピエンスがいるんですが」

 「知ってます。だから先程試しに一回殺し……ではなく、自害させて……でもなく

レイの強さを確認したかったのです」 

 

 慈愛に満ち溢れるような微笑みとは正に今のアークさんの表情を言うのだろう。しかし言っている言葉はそれとは正反対。完全に僕を殺そうとしたっぽい。口調は本で読む御淑やかなお嬢様なはずなのに、内容が過激である。


 「でももう大丈夫です。ほら、見てください。手が震えていないでしょ? レイに対しては耐性が付きました」 

 「身の危険のためにそういった症状は早く治して下さい」

 

 若干椅子を後ろに引きアークさんとの距離を開ける。ヤバい、とにかくヤバいこの人。いや人じゃなかった。それでも人の形をしているためか、尋常じゃない性格の女性にしか見えない。


 口を開かなければ…うん、今だって美味しそうにスコーンみたいなの食べてる表情は絵になる。これが映像ならこのシーンに少し長めの尺を使ってもいいかもしれない。


 とりあえず、まだ続くであろうこのお茶会で、ある程度情報が必要である。なので先程大雑把に説明されていた部分を聞くことにした。


 「七英傑、でしたっけ? その人たちは何で英傑と崇められているんですか?」

 「少し前にオリジンの一柱である『荒野のモア』を殺したからです。そしてその功績で4人は王となって国を治めている……崖っぷちですけどね。だからこそ7人は救世主を呼びました。少しでも今の平和に縋るために」

 

 色々と知らない単語が飛び出してきた。しかも人側の未来には不安しかないように聞こえた。でもそれを止めるのが救世主。まさに字の通りの働きを強いられるわけだ。


 「救世主ってそんなに強くなるんですか?」

 「古い言い伝えではそうなります。なので今頃王都などではお祭りなどをして、ご機嫌とりをしているでしょう。そして爵位なども授けてる」

 「そこまでするんですか」 

 「もちろん。私たち『オリジン』と正面から戦う時は救世主がいるかいないで大きく変わります」


 オリジン、その言葉に力を感じた。というよりも「私たち」の一言でこんなのがまだいるのかと、ビクッと反応してしまった。それだけこの数時間で彼女の力を体が恐れてしまっているらしい。うん、だって本当に怖いし……


 それからアークさんがオリジンについて説明を始めた。


 「オリジンとは起源の存在であり、この世の絶対強者を指す種のこと……昔サピエンスが残した詩もあります。この詩はあまりオリジンの参考になりませんが、一応教えておきます」 


 そしてアークさんはカップに砂糖らしきものを入れ、スプーンでかき混ぜながら口を開いた。







 それは北にいる

 

 吹雪いたら後ろを振り向かず走りなさい


 何故だと考えてはいけない


 ただ走る、それだけでいい


 他を守ろうと考えてはいけない


 そうでなければあなたも仲間になる 


 そして『狂冬』と共にあなたの家族を襲うだろう





 

 

 海の話をすると決まった流れがある


 波の音、反射する月の光、恋


 ここまでは誰もが微笑む。でもね、次からは違う


 ほら、海をちゃんと見てごらんなさい 


 そこかしこに浮かぶ四肢を


 青に沈んでいく赤い血を


 陸にいる者たちは囲まれている


 いつでも『百々』がお前たちを見ている


 

 






 咆哮が大陸を揺るがす


 あるゆる生物はすくみ上るだろう


 その咆哮に混ざる憤怒によって永遠に眠る者もいる 


 しかし今は深い眠りについている


 だから覚ましてはいけない


 この世が終わるまで、触れてはならない 


 『淵』には近づいてもいけない









 昔、世界を救った勇者がいた


 しかし強すぎた  


 誰もがその力に怯えた


 すると勇気を出して提案する者がいた


 「殺そう」と


 多くの恩を無にし、子供を盾に勇者を追い詰めた


 そして殺すことができた


 その夜、国が滅びた


 皆頭を取られ、一本の長い棒に刺してあったそうだ


 『無心』は今も止まらない


 根を絶やすまで

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