4通目 実はちょろい女 ビッキー(匿名希望)の手紙

 恋愛神様へ


 日増しに秋の深まりを感じる季節となりました。

 お変わりなくお過ごしでしょうか。


 まさか! 恋愛神様もプロ野球が好きなのですね! しかも同じくジャイアンツファンだなんて! お恥ずかしながら、お返事に「ジャイアンツ」と書かれていたときは、目を見開いてしまいました。あまりの衝撃にまさか、と叫ぶと、弟からうるさいと怒られたほどです。


 その後、あなた様のお返事をよくよく精読し自室で唸ってしまいました。なるほど、とあまりにも大きな声だったようで、弟から愛想を尽かされてしまいました。

 あなた様の短くも本質を突いたお答えに感銘を受けざるを得ませんでした。感服致します。


 なるほど、彼もクラスに花の香りを届けたい一心で、その考えがまさか世界平和につながるとは思いもしませんでした。それほどまで思慮深い方だったとは。クラスが幸せになれば、クラスメイトは人に優しくなれる。クラスメイトが地域社会に優しくしていき、その行いが連なり合って、世界は平和になる。私のような小さき人間には想像も及ばない壮大なお考えです。

 男性とは私の想像以上に大きなものを胸に秘めているもかもしれません。

 プロ野球を見ていたとき考えたことがあります。きっと私がボールを投げてもホームベースまで届きませんし、バットを振ったら勢いに負けて転げてしまうと思います。

 けれど、なぜ彼らは矢のような送球をし、快音轟かせ球を打ち返すことが出来るのか。肉体的な差と言えば元も子もないのですが、胸に秘めた気持ちの違いと考えたらなんだか素敵だと思いませんか。

 人は繋がり、誰かのために生きていく。そのつながりが私たち人間だなんて。そんなことを彼は考えていたのですね。


 私は結局は自分の為だけにあなた様に相談していることを自覚せねばなりません。私は未熟者でございます。未熟な私はまだ人のためには生きていくことはできない。もしかすると無自覚にたくさんの人を傷つけてきたかもしれません。はぁ、生きるということはなんて難しいのでしょう。

 クラスのため、人類のため、そのような高尚な考えを彼は持っていたのであれば、私は彼を誤解してしまいました。


 唐突ですが、恋愛神様は、過去に戻りたいと思うことはありませんか?

 私はあります。

 そのときの一時的な気持ちの高ぶりに身を任せてしまい、時がたつとじわじわと後悔してしまっていることが、実はひとつだけあるのです。

 もしやあなた様は神様だから過去にもどれたりするのでしょうか。ならば当時の私に言ってやってほしいのです。「ばかたれ! 彼はすごい人なんだぞ」と。

 なぜなら、私は彼を傷つけてしまったようなのです。

 昔「顔も見たくありません!」と声を荒げてしまったことがあります。

 彼はもしかすると私を守りたかっただけかもしれないのに。

 その事件の後、彼は一週間、学校を休みました。その後一言も話しておりません。


 ご相談で答えを求めてしまう未熟な私ですが、こればかりはしばらく自分の頭で考えてみようかと思います。よろしければ、私が自分で答えにたどり着けるよう、陰から見守って頂ければと思います。


                                  かしこ

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