裏返り合う愛しさと憎しみ――運命の果てに、二人は剣を執る

 世界で一番、あなたのことが嫌いでした。

 ある日、火の国ではある布告がされた。
 連続不審火。それを解決した王位継承者に、次期王位を確約する。
 現在、王位継承権を持つ者は、第一王太子のユリアスと、第二王太子のアッシュ。美麗と名高き騎士のフェンは、迷わずにアッシュを支持する。
 人徳の薄い彼に付き従うものは少ない。それ故に、彼に貢献できれば多大な恩恵に預かることができるという打算に基づいてというものだった。
 だが、当のアッシュは、王位にこだわらず、傲然たる立ち振る舞い。
 それに呆れながらも、フェンは彼をけしかけるようにして、連続不審火の調査に乗り出す。
 その道中、明らかになるフェンの出自、不審火に関わる不可思議な存在――それを通じ、フェンとアッシュは気持ちをすれ違わせながらも、徐々に気持ちを通じ合わせていく。
 だが、その連続不審火に見え隠れする邪悪な意思。それに突き動かされるように、悪意の波が広がり――やがて、国家を揺るがす陰謀に繋がっていた。
 それに対して、フェンとアッシュは、別々の決断を強いられる。
 はたして、二人の運命はどう転がるのか。

 気持ちがぶつかり合いながら、優しく紡がれる物語の流れ。それに散りばめられた周到な伏線。些細な出来事が、繋がり続けて大きな流れに変わっていく。
 二人の気持ちと、運命の流れ。相容れない中で、二人は足掻き、もがく。
 それを助ける二人の周りの人々は、二人の気持ちと生きざまに影響され、その運命の流れに自発的に身を投じていく。
 複数のやさしい気持ちがぶつかり合い、運命を切り拓いていく――。

 やさしい、愛のファンタジー。

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